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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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バタフライエフェクト 上

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日もナナオ、白雪奪還連合軍の道中のお話です。

戦闘は熾烈を極めますが、果たして。

どうぞお楽しみください。

「……アデン海の海賊を片付けたところで、本番はここからよ。――政治と軍事が入り混じる、海の伏魔殿ね」


 操舵席のモニターを睨みながら、松河が低く呟いた。


 スエズ運河は、紅海と地中海を結ぶ、全長二〇〇キロの巨大運河だ。地政学的にも重要な運河であり、厳格な管理運用がエジプト政府の「スエズ運河庁(SCA)」によって行われている。

 インド洋、紅海を経由して、最短で地中海に入るためには必ず通らなければならない、いわば現代の海の関所でもある。


 一行が目指しているポート・トウフィークは、紅海から運河へ入る南側の入り口だ。紅海艦隊の管轄下にあり、厳重なレーダー網と検問所が設けられている。「スエズ運河庁(SCA)」本部も位置する重要な拠点だ。


 紅海洋上をオートクルーズする揚陸艇船内で、松河、神崎、ヴァンスを中心にブリーフィングが行われた。


「ここで、SPC(セフィラ・キャピタル)の横槍が入れば、最短ルートでの航行は詰むわね。松河、最悪考えてアフリカ廻りのルートだとどれくらいかかる?」


「玲奈ちゃん、恐ろしいこと言わないでよ!補給込みなら二十日間は延長よ。通常の臨検ならそんなに時間はかからないと思うけど、政情不安定な国も多いし、アデン海で海賊相手に大暴れしたから、どこの犯罪組織や軍事勢力からも狙われると思うわ」


「……松河重役、神崎女史、二人ともいいかな?白雪君を慕う各国の運動会仲間からの情報が続々来ている。最新情報ではセフィラ・マジェスティはロドス島へ向かって進路を取っているようだね。ヨハネ聖十字団発祥の地、つまりSPC(セフィラ・キャピタル)が誕生した場所だ」


「そこが目的地でしょうね。ナナオと白雪をSPC(セフィラ・キャピタル)がどうするつもりか知らないけど、普通に考えてタイムリミット目前ね。あらためて、スエズ運河経由に全力を注ぎま……」


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


 突如として鋭い警報音が、ブリーフィングの空気を切り裂いた。

 デッキで哨戒にあたっていたF22ラプター――スーザンから、緊迫した声で報告が入る。


「――最悪よ。海域上の通信を傍受していたら、ある国の息がかかった武装勢力の暗号無線を拾ったわ。連中の狙いは明白よ。要人の松河と神崎を人質にして日本政府とあなた方の実家からせしめる莫大な身代金。おまけに、私たち第五世代強化人間の身柄とヴァンスまで確保して、共産圏の大国か第三国へ高値で売り飛ばす算段ってわけ。……アデン海であれだけ派手に暴れたんだもの、紅海の地元の"大将"たちが放っておくわけないわよね」


 その言葉を証明するように、レーダーの海域が一斉に真っ赤に染め上げられた。

 紅海沿岸を牛耳る某国の影がちらつく過激派武装組織と、国際的な犯罪シンジケートが手を組んだ「海賊連合」の群れが、物凄い勢いで接近してきている。


「――来るわよ! 数が多すぎるわ!」


 暗黒の海面を縫うようにして、重機関銃を搭載した無数の武装高速艇(RHIB)が波濤を蹴立てて殺到してきた。

 先頭を駆ける武装艇のリーダーが、ジャミング混じりの下卑た笑い声をオープンチャンネルの無線に乗せて響かせる。


『おい、聞こえてるかお坊ちゃん、嬢ちゃんたち! この紅海で誰が王なのか教えてやるぜ! 最新兵器だろうが、それを超える物量と飽和攻撃には堪えられないだろうよ! だがハチの巣にするんじゃねえ、生け捕りだ! 生きたまま買い手に引き渡すぞ!』


 四方八方から浴びせられる50口径重機関銃の大口径弾。

 音速を超える弾幕がエリア一帯を塗りつぶし、かすめるだけでも揚陸艇の装甲や強化人間の神経系に致命的な衝撃を与える猛攻が始まった。


 操舵席で松河が冷汗を流しながら必死のドライビングで包囲網からの突破を試み、アクセルを限界まで全開に踏み鳴らす。

 圧倒的な飽和攻撃の前に、揚陸艇の自動迎撃システムは過負荷を起こしかけ、ヴァンスは必死にコンソールにしがみついた。


「くそっ、数が多すぎる! 弾幕の密度が処理限界を超えているぞ……! RWS(遠隔銃塔)の処理が追いつかない!」


 アデン海での一件で自分たちが好き放題に暴れ回ったツケが、牙を向いていた。


 甲板を吹き抜ける銃弾の嵐の中、上空百メートルに飛び出したチーム四神たちも苦戦を強いられていた。


「ヤバい!音速までに加速できない……」

「青龍《アオ》ちゃん!こっちも囲まれてる、こっちが手を出せない嫌な間隔」


 青龍は、至近距離で爆発四散するドローンの破片と衝撃波に空間を奪われ、音速の加速を封じられていた。

 朱雀も、全方位から群がる無数のドローンが生み出す電子ジャミングと鉄の壁の前に、有効打を放つ間すら与えられない。

 白虎、玄武の二人も質量を持った圧倒的な弾幕と分散包囲の前では、ただ身をかわすことが精一杯だった。絶え間なく降り注ぐ大口径弾と自爆ドローンの集中砲火によって、張り詰めた集中力が急速に削り取られていく。


「くそっ、キリがない……! 四人の動きが読まれてる!」

「合流なんて無理だよ、白虎《シー》ちゃん。墜としても墜としても群がってくるよ!」


 個々がいかに超人的な戦闘力を持っていようとも、知略を巡らせた物量戦の罠――四方八方を隙なく塞がれた立体的な飽和攻撃の前に、四人の連携は完全に分断され、身動きが取れないほどのジリジリとした窮地に追い込まれていくのだった。


 その時、四人の眼下から最強の不死鳥が声を上げた。


「あんたたち、本当にザコザコね。水面ギリギリまで急降下しなさい!その慣性で水平加速してドローンを振り切るの」


 彼女たちの眼下、低空で上昇と降下を繰り返しながらドローンを振り切った鳳凰は、複数のドローンをさらに打ち上げ続ける武装高速艇(RHIB)と並走すると一気に音速まで速度を上げた。


 ズバーン!!!!!!!!


 音速の壁を破った衝撃波は、高速艇もろとも乗組員を粉みじんにした。燃え上がる海上と黒煙の中、四神たちを包囲していたドローンは、コントロールを失い一台一台と水上へと落ちていった。


 ……戦闘域より少し離れた洋上の武装クルーザーにて


 モニターや無線からは仲間たちの叫び声と爆発音が武装艦とは思えない程、豪華な内装のキャビンに響き渡った。

 某国の支援を受けた武装集団である彼らは、海のゲリラ戦のプロフェッショナルだ。絶え間ない物量攻撃とドローン包囲網。自分たちのプランは理にかなっていた。

 しかし、獲物たちは彼らの包囲網を食い破り、その牙は自らの喉笛まで迫ってくる。


「誰だよ!平和な国のお飾り兵器なんて言ってたヤツは。あいつら怪物じゃないか。どれだけ弾を打ち込んだと思ってるんだ」

「待てよ、俺も逃げるぜ。ここで死んだら元も子もねえ!」

「海賊のやつら、ドローンや迫撃砲まで渡したのに……スポンサーになんて言い訳すればいいんだよ」


 捨て台詞とも思える愚痴を吐きながら三人は、クルーザーに付属のパワーボートを目指してキャビンを走り出た。


「ちくしょう!派手にやりやがって……だがな、これだけで終わると思ったら大間違いだぜ。子供の為にも俺には金がどうしても要るんだよ」


 ネックレスに付いたロケットを開き、写真を見る覆面の構成員。その背後からボンボンボンと乾いた三回の音と若い女の声がした。


「どんな事情があるかなんて興味ないけど、私たちに銃を向けたんじゃただでは済まないって理解なさい」


 構成員が振り返ると、冷徹な表情の金髪美女がデザートイーグル.50AEを構えていた。それは彼が見た最後の光景だった。


 薬莢が床にはぜると男の身体が崩れ落ちた。

 その傍らには、開いたままのロケット。

 写真には病院のベットで笑う子供と一緒の男の姿があった。


 血にまみれた豪華なキャビンと武装クルーザーは、炎と爆発に海中へと姿を消した。

 貧困と分断、そして戦いの炎……負の連鎖は今も紅海を赤々と染めている。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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