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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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我らが闘争

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日はお嬢様ことルクレツィアと白雪湊の舌戦です。

どうぞお楽しみください。

「フランチェスカ、頭を冷やしなさい」


 アリスはルクレツィアをかばうように立ちはだかると、そのまま敵陣へと歩み寄り、彼女の背後へと静かに控えた。

 大切な家族の裏切りとも取れるその明白な移動に、フランチェスカは息を呑む。


「素晴らしいわ、ライトニング・ゼロ。美しい予定調和の剣たる戦乙女ね」


 その光景を見たコラスの年長組は、歯を食いしばりながら現実を受け入れようと拳を握りしめる。だが、母親のように自分たちを温かく包んでくれていたアリスの裏切りに耐え切れず、年少組のコラスたちは大粒の涙を浮かべてふるふると震え始めた。


 その絶望的な空気のなかで、ルクレツィアは勝ち誇ったように宣言する。


「ライトニング・ゼロはね、あなたの動きをすべて私に報告してくれる大切な協力者よ。予定調和の実現の為に尽くしてくれている功労者だわ。家族ごっこで馬鹿な娘を慰めるためのお人形にしておくには、あまりに過ぎた存在なのよ。……わかったかしら?」


「馬鹿なのはあんたの方よ、ロリババア。さっきから聞いていれば、気分が悪いったらありゃしない」


 ルクレツィアの眼前。

 ドンと腰に手を当て、ふんぞりかえって胸を張る――『極東の鬼』が、悠然と姿を現した。


 冷ややかな嘲笑を浮かべていたルクレツィアの表情が、わずかに凍りつく。

 白雪湊は臆することなく一歩踏み出し、ルクレツィアを指さしながら言い放った。


「私は家に帰るけど、この子たちも一緒に連れて行くわよ。神社の時はあんたのお題目を黙って聞いてたけどさ……身内を幸せにできないあんたが、世界を断絶や貧困から救うなんておかしなこと言ってるんじゃないわよ。でっかい組織のリーダーが、家族っていう一番の足元をグラグラさせて何やってるのよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ルクレツィアの脳裏に、花園神社で自分を鋭く見据えていた生意気な少女の姿がフラッシュバックした。


(人質って、この子だったのね……。あのときの)


『過去観測』から派生する完全記憶能力を持つルクレツィアにとって、白雪湊という個体のデータが瞬時に一致する。


 だが、ルクレツィアは冷徹な光を湛えた瞳で白雪を悠然と見据え、誇らしげに言い放った。


「あなたが人質だったのね。本当に因果なものだわ、世の中は……。

 それで、子供に何が分かるというの。神の教えを守り、地上に楽園を作るという目的、人類二千年の悲願を背負い続ける私の矜持が――家族も自分の人生も捨てる覚悟が、幸せな平和の国でぬくぬく生きる学生の小娘に何が分かるっていうのかしら」


 圧倒的なスケールの「悲願」を突きつけるルクレツィアに対し、白雪は一歩も引かなかった。彼女はまっすぐな目で、濁りのない強い意志を込めて言い返す。


「あんたみたいに私は世界をどうこう思わない。でもね、目の前で泣いている子や理不尽な目にあっている子、追い詰められている子は全力で助けるわ。全身全霊でね」


 そのまっすぐすぎる視線に射貫かれ、ルクレツィアの胸の奥がわずかに揺らいだ。


 その動揺を隠すように空間が歪み、使徒である山高帽(ボウラーハット)が忽然と姿を現す。

 山高帽は無言のまま、一通の羊皮紙の報告書をルクレツィアにそっと差し出すと、音もなく虚空へと消えていった。


 差し出された報告書と、目の前の白雪湊を行ったり来たりさせながら、ルクレツィアはそれを開いた。

 そこには、日本の内通者から送られてきた、信じがたい情報が記されていた。


【白雪湊 十七歳 都立高校二年 成績優秀……


 国家公安庁最重要監視対象者 ※重要違法項目該当

(民衆煽動、内乱、国家転覆、外患誘致、違法軍事組織の結成および統帥)


 新宿租界地区で廃棄された百二十人を超える各国の強化人間少女を束ね、世界六〇カ国超の大使館やスパイ、百十を超える軍事関連企業との独自のコネクションを持つ。

 各情報収集および協力を打診した日本政府に対して、自身と租界地区の中立性確保の為に対外圧力を利用した恫喝を行う。

 映像収益によるコンテンツ事業と運動会名目での強化人間テスト主催及び企業との定期的データ共有によるサブスクライブ収益等により租界地区の完全自治を成立させた実業家。


 上記集団を『女子寮』と冠し、事実上の管理者として各国各機関との調整を行う若きリーダーであり、日本国内における最大のテロリストの種。


 ※なお、複数国からの強烈な外交的圧力、および組織の武装蜂起による首都機能壊滅の懸念から、治安当局は検挙を保留。

 さらに本人が持つ地政学的・技術的利用価値の高さをも勘案し、現行法での直接的な身柄拘束は事実上『無期凍結』されている状態にある】


【報告者:日本国 内閣官房長官 九頭竜武】


 目を丸くし、絶句するルクレツィア。

 だが、彼女はすぐに息を抜き、不敵な笑みを浮かべた。


「……ふっ。私に言うだけのことはあるわ。貴方の方が、『お兄様』の仮面をかぶらせていたあの子よりも、よっぽど私の後継者にふさわしいくらいよ」


 ルクレツィアが、まるで道化を評すかのようにフランチェスカの過去の姿を口にした瞬間――白雪のなかの怒りの導火線が、一気に焼き切れた。


「あんた本当にバカじゃないの!? まっすぐ我が子の名前も呼ばずに変なあだ名なんか付けちゃって……! あんな男装の扱いをあの子がどれほど嫌がっていたか、少しでも考えたことがあるの!」


「なっ……!?」


「『お兄様』なんて仮面を押しつけておいて、何が後継者よ! 子供が『何を言われると一番嫌がるか』くらいは把握しておきなさいよ! だからフランチェスカがこれだけ委縮してボロボロになったんでしょうが! 普通に考えればわかるでしょ、そんなこと!」


 世界の裏で暗躍する魔女ルクレツィアが、若き鬼の圧倒的な正論と怒涛の説教に面食らい、言葉を失う。


 その凄まじいやり取りを少し離れた場所から見ていたナナオは、内心で乾いた溜息をついていた。

(……「人の話を聞かないところとか、圧倒的な圧力で人を委縮させるところとか……お姉ちゃんも同じだよ」って、椿ちゃんが言いそうだな。めんどくさいから絶対言わないけどね)


 沈黙を選ぶナナオの眼前では、今なお睨み合う「魔女と鬼」が、互いの譲れない一線に踏み留まらんと火花を散らしていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

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