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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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試験と試し

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日は、お嬢様ことルクレツィアの登場です。

このロリババアがどうやってナナオと相対しますか。

本日もお楽しみください。


都立高校の重厚な校舎に、放課後を告げるチャイムが響き渡る。


新宿での発砲騒ぎや実妹F35ライトニング・ゼロとの再会など、多くのイベントに気持ちを振り回されたラプターだったが、生死不明の妹の生存が分かった事をポジティブにとらえる事で精神の安定を図っていた。やはり彼女は優秀な軍人なのだ。

さらに、ナナオに対する初恋も彼女の心を強く支えていた。発砲騒ぎの際に新宿署まで身元を引き受けに来てくれた彼に対して、どうやってお礼を言おうかとラプターは考えていた。


期末テスト期間が明け、短縮授業となった教室では、返却された二教科分の答案用紙を前に、あちこちで悲鳴と歓声が交錯していた。


教室の自席で、我らがIINCHOUこと白雪湊はフフンと胸を張って鼻を鳴らしていた。


(ふふん……さすが私。国語物理ともに九十点以上、今回も学年十位以内は確実にキープね)


自画自賛しながら、白雪はチラリと横の席に視線を送る。


そこに座っているのは、私服では露出度の高い卑猥な服装(白雪主観)だが、制服のブレザーを凛々しく着こなしたラプターだ。


(半裸みたいな恰好の軍人さんが、日本の勉強なんて——)


そう思いながらラプターの卓上に置かれた答案用紙を盗み見た瞬間、白雪の思考が凍りついた。

国語:九十六点(惜しい漢字ミスのみ) 物理:百点


「……は? なんで卑猥な女幹部が私より点数が高いのよ!?」


大きな声を出し、我らが白雪は激しく動揺した。彼女にデリカシーは無い。

白雪がショックで目を白黒させていると、当のラプターは苦笑いしながら答案用紙を二つ折りにし、バッグへ放り込んでいる。

ラプターからしてみれば、当然の話だった。


彼女は米海軍の強化人間育成プログラムを経て、全米最高の大学群アイビーリーグをも凌ぐ超名門・米海軍士官学校(USNA)をわずか15歳で飛び級卒業した、正真正銘の超エリートである。17歳にして米海軍大尉の階級を持つ彼女にとって、日本の高校の定期テストなど、いまさら「で……?」以外の感想の持ちようがなかった。


(なんなのよあの女……!ハナから期末テストの点数なんて興味ないって顔しちゃって……!)


白雪が一人でブチブチと不満を垂れ流していると、教室の扉がガラリと開き、職員室に呼び出されていたナナオが首をさすりながら戻ってきた。


「あ、五味くん!」


白雪の目がキランと光る。途端にニマニマとした意地の悪い笑みがその口元に浮かんだ。


(そうだわ! 五味くんのやつ、どうせ赤点でも取って先生に絞られてたのね! よし、私が学年十位以内の余裕で、優しく慰めてあげようじゃない!)


「ご・み・くん〜? 職員室で怒られてたみたいじゃない。大丈夫? ほら、私でよかったら勉強教えてあげ——」


満面の笑みで歩み寄る白雪に、ナナオはぽかんとした顔で答案用紙を差し出した。


「いや、物理は百点だったんだけどね」


「……え?」


白雪の笑みがピタリと固まる。


ナナオが提出した物理の答案用紙。


目が留まったのは、白雪も正解した「物体の重さとバネの強さから、揺れの周期を求めなさい」という単振動の周期問題だ。方程式を使えばすんなり解けるあれだ。


しかしそこには、高校生が使うべき単振動の周期の公式など一切使われておらず、位置、速度、加速度の連続した変化を追う十行に及ぶ高度な微分方程式が、解答欄狭ましとびっしり展開されていた。


『……正解だよ、五味くん。正しいんだけどね、高校のテストは公式で解いてほしいんだ。大学院レベルの微分方程式を理解できるのは理系教師で僕だけなんだよ……』


物理の先生は頭を抱えて苦笑いし、満点をつけざるを得なかったのだという。


「じゃ、じゃあなんで職員室に呼び出されてたのよ!?」


「うん、国語の先生に怒られてさ。答案の内容は満点だったんだけど……」


ナナオが困ったように差し出した国語の答案用紙。


その名前欄には、まるで釘で引っかいたような“かなくぎ字”でこう書かれていた。


『五味 オナオ』


「『字が汚すぎて採点に時間がかかるから練習しておけ!後、自分の名前も書けない奴にやる点は無い!』ってゼロ点にされた」


「ほんとうに、もったいなーーーい!」


白雪の絶叫が教室に響き渡った。

ラプターはその会話を聞くと、ナナオの横にすばやく移動する。


「ね、ナナオ。……今度一緒に、日本語の書き取り練習しようね」


真っ赤な顔で耳元でつぶやくラプターからは、大人びた外見に合わないぎこちなさと初心な感情がにじみ出ていた。


(なんなのあいつら……一人は外国人の露出狂のくせに私より高得点だし、もう一人は大学レベルの数式で物理100点取っておきながら『オナオ』で国語ゼロ点って……!)


そんな二人の様子が目に入らないほどに魂が抜けかけた白雪は、校門を出てからも「あり得ない……絶対に次は勝ってやる……それにしても『オナオ』って何よ『オナオ』って……」と小声でブチブチと文句を垂れ流し続けた。


「次は間違えずに『ナナオ』と書くよ」と至極真面目に答えるナナオと、「……やれやれ」と溜息をつくラプター。

三人は都心の喧騒を抜け、静けさを取り戻しつつある租界地区へと向かって歩を進めていく。


だが——その平和な日常の空気は、新宿区役所を抜け租界地区が見えてきたところで、突如として霧散した。


「……ん?」


ナナオが足を止め、首を傾げる。

同時に、ナナオの脳内にエルピスの量子もつれ通信が、不気味な警報を鳴らした。


「ナナオ、正面の鳥居に気を付けてください。私の量子ネットワークの波形にも、防犯カメラのデジタルデータにも、一切の反応が存在しない。完全に「世界中の観測」から抜け落ちた空白の領域が発生しました」


エルピスの言う通り、小さな通りの向かいにある花園神社の鳥居に視線をやるナナオ。


「ふふふ……やはり気づかれてしまったみたいね」


鳥居の裏手の空間が、不自然なまでにぐにゃりと歪むと、カツン、と小さな靴音が響く。


そこに立っていたのは——淡い金髪を風に揺らした小学校高学年くらいの可憐な美少女。


「……はじめまして、五味ナナオ。私の名前はルクレツィア。試すつもりはなかったけど——素晴らしい【観測】ね。」


少女らしからぬほど整った顔のルクレツィアは、その碧眼でナナオを満足気に見詰めた。



いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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