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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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無垢なるもの

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

ラプターの身元引き受けに玲奈とナナオが来ます。

ラプター的には嬉しいサプライズですね。

あと、お兄様の背景がさらに見えますよ。

本日もお楽しみください


「――だから、なんで公安があたしを引き取りに来るのよ。せめて米軍の関係者を回しなさいよね。地位協定だってあるんだから」


新宿署の裏口。

取調べ用のパイプ椅子から解放され、不機嫌そのものの表情で出てきたラプターだったが、玲奈の後ろに所在なげに立っているナナオの姿を見つけた瞬間、その切れ上がった双眸が一瞬だけ、信じられないほど嬉しそうにパッと輝いた。


(あ……ナナオ。来てくれたんだ……!)


張り詰めていた警察署での緊張が一気に解け、胸の奥から甘い熱が込み上げてくる。しかし、一瞬で「合衆国大尉」としての自意識と強がりが作動し、慌ててふいっと顔を背けて不機嫌な仮面を被り直した。


「文句言わないでよ。歌舞伎町のど真ん中で50口径ぶっ放した合衆国の大尉様を、日本の警察が素直に釈放するわけないでしょうが」


玲奈はイラつきながら鍵を開け、ワンボックス車のハッチバックを跳ね上げる。


「外事の公安が目を血走らせてあんたを囲い込もうとしてたのを、誰が引っぺがしたと思ってるのよ。拘留中の米軍士官が地位協定をかさに直接基地に帰ろうものなら、日本政府のメンツも丸つぶれなの。

外事だって、私が強化人間案件の責任者だからって九頭竜長官からの連絡がなきゃ引き下がらなかったんだから。ほら、ナナオ。突っ立ってないでラプターのバイク、後ろに積み込んじゃって」


玲奈に促され、「あ、はい」と前に出たナナオは、警察署の裏口に留め置かれていた米軍貸与の重厚なオフロードバイクへと手をかけた。通常なら大人二人がかりでも腰を痛める重量の軍用バイクだ。

だがナナオは、まるでアルミフレームの軽量な自転車でも扱うかのように、片手でひょいと車体を持ち上げた。そのままワンボックスカーの荷台へ、音もなく軽々と積み込んでみせる。


その人間離れした膂力を間近で見て、ラプターの胸は「私の特別な男の子」としての誇らしさとときめきで、鼓動が激しく跳ね上がった。


ワンボックスの荷台のすぐ前にある後部座席は、バイクのスペースを確保するためにシートが前方に詰められ、背もたれが垂直に固定された窮屈な貨物用の座席だった。

先にナナオがその座りづらい座席へ腰掛け、気まずそうにシュークリームの袋を抱えて縮こまる。


普通なら少しでもスペースのある助手席を選ぶはずのラプターだったが、「ちょっと、スペース狭すぎじゃないの?」などとブツブツ不満を口にしながらも、なぜか吸い寄せられるように、ナナオの真隣の最も窮屈な垂直座席へと滑り込んでいった。


密着する肩と二の腕。ラプターの胸の奥は、彼と肌が触れ合っているという事実だけで幸福感に支配されてしまう。


「……で、なによ。なんであんたがここにいるわけ?」


「あ、いや、神崎さんに『発端はお前だ』って無理やり連れてこられて……。その、大丈夫だった? ラプター。怪我とかない?」


ナナオが気遣わしげに覗き込んできた瞬間、ラプターは「彼が私のことを心配してくれている」という歓喜で満たされた。


「だ、大丈夫に決まってるでしょ! あたしはこれでも世界最強の強化人間なんだから……。でも、まあ……。あんたが、あたしのために来てくれたことは、その……。す、少しだけ、嬉しい」


最後の方は蚊の鳴くような声になりながら、ラプターはライダースジャケットの襟元に顔を半分埋めるようにして、真っ赤になった耳を必死に隠した。チラチラと隣のナナオを盗み見るその瞳には、熱を帯びた執着と好意が隠しきれずに滲み出ている。

玲奈はハンドルを握り、ワンボックス車を新宿の夜道へと滑らせながら、バックミラー越しに二人の様子を半ば呆れ顔で一瞥した。


「……九頭竜官房長官、ね。話には聞いてる。あの陰険な男が動いたってことは、また米軍に特大の『恩』を売る気かしら。あたしの身分をエサにして」


ラプターは、隣のナナオに肩が触れ合っている現状に内心で舞い上がりながらも、手元では素早く自身の暗号化端末を操作し、冷ややかに鼻で笑った。


「そうよ。あの男、公安の私が動きやすいように警察も外事も抑えてやったって顔をして、その実、私の背後にいるナナオへの接点を探ろうとしてる。相変わらず反吐が出るほど計算高いわ。これでまた私、あいつに特大の貸しを作られちゃったのよ」


玲奈が心底うんざりした様子でため息をつくと、ラプターはふっと口元を緩めた。その指先には、彼女の首にある接続ポートから抜き取られた小さな暗号化メモリーカードが握られている。


「なら、その貸し、今すぐ相殺にしてあげるわ」


「は?」


「在日米海軍司令部(CNFJ)の防諜窓口と、さっき合意を取った。私が今回目撃した『F35ライトニング・ゼロの健在』と『50口径弾頭を止める謎の能力者』のデータを、私個人から日本政府への『情報共有』という形で九頭竜に流していい。これで今回の騒動は日米共同の防諜事案としてチャラ。神崎、あんたが作った貸し借りも、これで完全に帳消しよ」


玲奈は一瞬だけ驚いたようにミラー越しにラプターを見つめ、それから小さく口笛を吹いた。


「……へえ。さすがは大使館付の大尉様ね。ただで助け出されるつもりはないってわけ」


「借りを作るのは性に合わないの。神崎玲奈、これを九頭竜の鼻先に叩きつけてやりなさい」


差し出されたメモリーカードを受け取りつつも、玲奈は眉間を揉みほぐした。


「はぁ……。どっちにしろ、私が直接あの陰険官僚に報告しなきゃいけないのよね。憂鬱だわ」


玲奈は大きくハンドルを切りながら、バックミラー越しにラプターの隣で借りてきた猫のように静かにしているナナオを睨んだ。


「というわけだから、ナナオ。あんたもその報告書作成と面会についてきなさいよ。元はと言えば、あんたがコンビニで不審者に絡まれたのが発端なんだから」


「えぇ!? なんで俺まで……。まあ、神崎さんにはいつも苦労かけてますし、しょうがないですけど……」


ナナオは頭を掻きながら、小さく肩をすくめた。

その脳内で、航行AIエルピスがクスクスと意地の悪い笑い声を響かせる。


『ぷぷぷ。ナナオが一緒に行ったところで、複雑な政治的交渉の何の足しにもならないのですがね。……しかしナナオ。気になるのはそこではありません。彼女たちのナナオに対する依存度――心の拠り所としての割合が、新宿大運動会以降、妙に高まっています。演算予測の範囲内ですが、少々興味深いデータですね』


◇◇◇


同じ頃、東京湾。

夜霧の中に浮かぶ、セフィラ・キャピタル(SPC)が所有する豪華クルーズ客船。その巨大なシルエットを蒼白い炎が照らし出した。


キィィィィン――。


耳を劈く飛行音とともに、ビスクドールのような美しさを持つF35ライトニング・ゼロと向かい合って両手を繋いだ男装の麗人がゆっくりと垂直着陸を果たす。

甲板を埋め尽くす観客たちは、誰もが仕立ての良いタキシードやイブニングドレスに身を包んだ、ヨーロッパの由緒正しき貴族たち、そして世界中の富を牛耳る上流階級の面々だった。


「おお……素晴らしい!」

「奇跡の使徒よ!」


誰もが興奮した様子で手を叩き、シャンパングラスを掲げて夜空からの帰還を称賛する。彼らにとって、この強化人間と「使徒」の飛行は、神の予定調和を証明する極上のエンターテインメントに他ならなかった。


地上に降り立つ二人、男装の麗人――お兄様が優雅に乱れた紳士服の襟元を手で整えると、観客たちに向かって懟懟とした態度で両手を広げ、深く一礼してみせた。その背後には、ピクリとも動かない人形のようなライトニング・ゼロが静かに従っている。

この船の上は、彼らにとって完璧に守られた「治外法権の城」だった。


歓声の響く甲板を後にし、船内の豪奢なプライベートルームへ戻ると、白マントと銀のマスクを纏った幼い少女たち――『コラス』の年小組が、パタパタと小鳥のように駆け寄ってきた。


「お帰り、フランチェスカ! お土産は? お土産はある?」


「ごめんね。お土産はまた今度だ」


フランチェスカは優しく微笑み、少女たちの頭を撫でた。


「でもね、ほら。面白いものを見せてあげるよ」


フランチェスカはF35ライトニング・ゼロを大型モニターの前の椅子に座らせ、彼女の首の後ろに隠された接続ポートへ、滑らかにUSBケーブルを差し込んだ。モニターへと視覚メモリのデータが転送され、画面が明るく切り替わる。


そこに映し出されたのは、コンビニのレジ前で、シュークリームの袋を抱えたまま決済システムに完全にフリーズし、冷や汗を流している五味ナナオの間抜けな姿だった。


「あはは、おもしろーい!」

「この子が天使様? おっちょこちょいだね」

「甘いものが好きなのかな。フランチェスカと一緒だね!」

「私たちも大好きだよ、甘いもの!」


ナナオのあまりにも純朴で無垢な右往左往ぶりを見て、コラスたちは一斉に手を叩いて喜んだ。


「じゃあ、みんなでルームサービスを頼もうか。今夜のデザートはケーキにしよう」


「わーい!」

「ありがとう、フランチェスカ大好き!」

「私はイチゴのケーキ!」

「私はモンブラン!」


部屋の中が一気に華やぎ、少女たちが次々と声を上げる。

すぐに、最高級のケーキを満載したワゴンが運ばれてきた。給仕のギャルソンがフランチェスカに向かって丁寧に頭を下げ、足音もなく退室する。


「じゃあみんな、食べようか」


お兄様が微笑みかけると、コラスたちは一斉に歓声を上げ、それぞれの顔から白銀の仮面を外した。


現れたその素顔は――

わずかな年齢のグラデーションはあるものの、驚くほどにすべて『同じ顔』。


目の前で優しく佇むフランチェスカ自身の、幼少期の顔をそのまま均一にコピーした十二人のクローンたち。

年齢の違う同じ顔が一つのテーブルを囲む。その中で行われるあまりにも無邪気なケーキパーティーは一人で何役もこなす芝居のようにも見えて物悲しかった。

その健気で歪んだ温もりが、冷たい潮風が吹き抜ける東京湾の闇のなかで、奇妙な哀愁を伴って静かに、静かに息づいていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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