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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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本当に大切なものは目に見えない

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

大学生の時に星の王子さまのドイツ語のテキストを買わされました。

授業と関係なく魅力的な本で、純朴な王子様がまぶしかったです。

学生と大人の中間地点で出会ったのが良かったのか、やたらと心に残りました。

本当に大切なものは目に見えない。

そんな気持ちを皆さんにも持ってもらえる文章を書きたいです。


午前五時。新宿、旧四谷第五小学校。


宙を舞っていた虹色の階段がガラス細工のように砕け散り、朝焼けを反射してキラキラと降り注ぐ中、ナナオは鳳凰とラプターの二人を抱えたまま、衝撃と共に校庭へと降り立った。


衝撃波が周囲を貫いた後、校庭は不思議なほどの静寂に包まれていた。


モニターを見つめていた九頭竜も、米高官も、ヴァンス博士も、松河も、神崎も、軍関係者たち、ただ言葉を失って彼を見つめるしかなかった。


高度一万メートルからの自由落下を、ただの「強化人間」が力ずくでねじ伏せたのだ。

その圧倒的な現実を前に、誰もが声を出すことすら忘れていた。


ナナオの腕の中で、二人の少女はようやく「生きて戻ったこと」を実感する。


 沈黙を破ったのは、ナナオのいつもの声だった。


「……ふぅ。お腹空いた。白雪さん、朝ごはん、何かな?」


その一言で、張り詰めていた空気がふっと解ける。


「……パ、パパが見てるでしょ! 早く降ろしなさいよ、零式!」


鳳凰は顔を真っ赤にして毒づくが、その手はナナオの服の裾をぎゅっと掴んだまま離さない。普段の不敵な姿はどこにもなかった。


「……助けるって言っても、アメリカだってこんな風に抱きしめる事なんてないわよ。ましてや男の人に……。 ……ありがとう、ナナオ」


ラプターは軍人としてのプライドを忘れ、真っ直ぐな瞳で彼を見つめると、そのままナナオの唇にキスをしようとする。


「ちょっと! 何してるのよ、あなたたち、不謹慎!私の正義が許さないわ」

 

そこへ白雪湊が内心穏やかではない様子で割って入り、鳳凰も慌ててラプターの口を両手で塞ごうとする。


いつもの、租界の喧騒が戻ってきた。


その光景を、冷徹な視線で見つめる者たちがいた。


米軍将校たちは、「エネルギー切れ」による公式戦の中断、そして何よりナナオという「未知の脅威」を目の当たりにして、もはや神崎玲奈の提示した条件を呑む以外に道はなかった。


内閣官房長官、九頭竜は、米軍に巨大な貸しを作ったことに満足げな笑みを浮かべつつも、その視線は鋭くナナオを射抜いていた。


(……五味ナナオ。国家の管理下に置くべき最強の駒、か……)


 その観察眼は、先ほどまでの協力的な共犯者のものではなく、新たな勝ち馬を捕えようとする危険な光を帯びていた。


◇◇◇


地中海、マルタ島。

世界最古の巨石遺構の一つ、スコルバ神殿。


深夜の月明かりが朽ちた石柱を白く照らし、その影は黒い林のように長く伸びていた。

静謐な遺跡の中心には、十二人の少女たちがいる。


汚れのない白いマントを羽織り、顔には無機質な銀の仮面。

彼女たちは微動だにせず、ただ一点――東の方角、極東の島国をじっと見つめていた。


「モナドが固定されたねえ」


「キレイな螺旋の天の橋だよ」


「すてきだね」


「ほんとうだ」


「おどろいた、本当に男の子だ」


「天に向かって駆け上がる」


「墜ちた女の子を助けたよ」


「奇跡だね」


「あれこそが私たちの運命」


「天の御使い」


「予定調和の代行者、新たな人の子」


彼女たちの声は重なり合い、共鳴し、ひとつの意志となって夜の風に溶けていく。

その無垢な合唱コロスを背後で聞きながら、音もなく六つの影が現れた。


漆黒のスーツ。深々と被った山高帽。

そして、驚くべきことに、その六人はすべて――同じ顔をしていた。

感情を削ぎ落とした、精密な蝋人形のような微笑。


SPCセフィラ・キャピタルの代理人。その六人が、重なり合う無機質な声で告げた。


「……観測は終わったか。では、始めよう」


六人が同時に、慇懃に首を傾ける。


「我々の地上の楽園プリエスタブリッシュト・ハーモニーを完成させるために」


少女たちが一斉に膝をつき、東の空へ祈りを捧げる。


その祈りは、遥か遠く、新宿の朝焼けに立つナナオの首筋に、見えない聖痕スティグマを刻むかのように長く続いた。

 ……祈りを終えるその頃には、数千年の時を吸い込んだ赤茶けた巨石の肌を、昇り始めた太陽が血のような赤に染め上げていた。


◇◇◇


激闘の熱が引いた校庭で、ヴァンス博士は呆然と立ち尽くしていた。

視線の先には、戦闘の余波でひしゃげた鉄板を片手で軽々と運ぶナナオの姿がある。


「……ありえない。あんな急加速、あんな急停止。ナナオ君、君の身体はどうなっているんだ」


博士の声は、畏怖に震えていた。


「この星の重力下で、人間の――いや、強化人間の超硬度フレームだって、あんな負荷には耐えられるはずがないんだ」


博士は確信していた。

目の前の少年を縛っているのは、もはや地球の物理法則ではないのだと。


「……あはは。だから言ったじゃないですか、博士。俺、“この星に来た”って」


ナナオは照れくさそうに笑い、鉄板を指先で回しながらトラックへ放り込む。

その動作一つ一つが、この星の引力をまるで無視している。


ヴァンス博士は、静かに息を呑み、ナナオに告げた。


「……そうか。冗談や比喩じゃなかったんだね。君はずっと、本当の事を私たちに伝え続けていた。それなのに、私たちは理解しようとしていなかったんだ。……君の言っていた通り、この青い地球は――本当に奇跡そのものなんだな」


博士の瞳に、深い敬意が宿る。

そして、娘・鳳凰を救った少年を見つめながら、博士はゆっくりと言葉を紡いだ。


「ナナオ君。昔、サン=テグジュペリという飛行機乗りが “星の王子さま” という物語を書いたんだ。宇宙から来た王子さまが地球でいろんな人と出会い、最後に“本当に大切なもの”を知る物語だ」


博士はナナオをまっすぐ見つめた。


「その中のキツネがこう言うんだ。――“大切なものは、目に見えない” とね」


博士はナナオの胸の奥を見透かすように、静かに続けた。


「君は……“見えないもの”を抱えている。それは力か、使命か、あるいは……孤独かもしれない。だがね、ナナオ君。王子さまが自分のバラを守ったように――」


博士は、決意を込めて言い切った。


「私は君を守るよ。君がどこの星から来たとしても、君は……私の娘を救ってくれた“恩人”だ」


少し離れた場所で、白雪湊がそのやり取りを静かに見守っていた。

彼女はすでにナナオの正体を理解している。


博士が“答え”に辿り着いたことを察し、彼女は動じることなく、ただ一度だけ、深く頷いた。

いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。

火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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