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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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新宿ケージ(開戦)

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

さあ、ここから一気に加速しますよ。

お楽しみください。


 

 新宿・租界地区、北側境界線。


 かつての新宿都庁ビルに、日米の軍事・技術関係者が顔を揃えていた。


 眼下には、不自然なほど静まり返った二五〇メートル四方の「ケージ」が広がっている。


「……改めて見ると、ひどく歪な場所だな」


 米軍の戦術調整官が葉巻を揺らし、皮肉げに笑った。


 かつての新宿ゴールデン街、花園神社の森、そして無機質な廃校舎。それらすべてを包み込むように、赤いレーザー障壁が陽炎のように空気を焼いている。


「なぜこんな混濁した場所が、実験場として重宝されているんだ?」


「理由は単純ですよ、大佐」


 日本政府内閣官房の随員が、冷徹な笑みを浮かべてタブレットを提示した。


「ここは世界で唯一、『法と物理の安全基準』が廃棄された空白地帯だからです。

 本来、都市部での超音速機動など国際法も国内法も許しません。しかし、ここは公式には『産廃処分場』。何が起きても事故として処理できる。

 かつての闇討ち形式で行われていた戦闘が、結果としてこの極小空間における高密度な限界試験に最適だと証明されたのです」


「……政治的な妥協の結果、というわけか」


「ええ。境界線を定義しているレーザー障壁は、租界の『IINCHOU』こと白雪湊に設置を依頼しました。

 機材こそ米軍持ちでしたが、彼女に支払った人件費は、日本の宝くじの一等当選金額を数回分合わせたくらいのコストになりましたよ。実に見事な商売だ」


 米軍大佐は不敵な笑みを浮かべて煙を吐き出した。


「食えない娘だ。

 だが、その程度のコストでこれほど完璧な『檻』が用意できるなら安いものだ。

 高度三〇〇〇メートル以下は、一切の水平超音速加速を禁ずる。

 この狭い箱庭の中で、どちらが真の支配者か――はっきりさせてもらいましょう」



 旧四谷第五小学校、ひび割れたアスファルトの校庭。


 その隅に設営された「新宿・租界地区運動会実行本部」白テントの下、神崎玲奈はパイプ椅子に深く腰掛け、不機嫌そうに足を組んでいた。

 その隣では、新庫重工の松河龍一が落ち着きなく前髪をいじっている。


「いい度胸ね、松河君。よく私の隣に座れたものだわ」


「……やだぁ玲奈ちゃん、そんな怖い顔しないでよ。アタシだって神庫の重役として、この戦いを見届ける義務があるんだから」


 松河は不自然な笑みを作っているが、その額には薄っすらと汗が滲んでいる。彼の視線の先には、同じテント内で白雪湊が誇らしげに掲げるタブレットがあった。


「神崎さん、松河さん、見てください! まずはこのサムネイルを『先行公開』しました!」


 画面には、朝日を背に微笑むラプターと鳳凰。


『Phoenix Patch:アメリカが見捨てた男とその娘。日本の仲間と共に祖国の強化人間少女を救う』


「これなら美談に見えます。でも、米軍が負けて往生際悪く振る舞ったら……その瞬間にこのサムネは『化け』ます。真のタイトルはこれ!」


『米軍の闇:十年間放置された致命的バグと少女虐待の記録』


「行くわよ! 正義の時限爆弾、スイッチオン!!!!」


 白雪が狂喜乱舞する横で、玲奈は「いい性格してるわね」と皮肉げに口角を上げた。玲奈の視線は、ナナオに注がれる。


 テントの隅で、ナナオはいつも通りのしまらない顔をして、クレープの生クリームを鼻の頭につけたまま、校庭の選手二人を見つめていた。


(……欧州経済のフィクサー、SPCセフィラ・キャピタルの連中が、調査してる『イレギュラー』が、あんなマヌケな顔をしているなんて。……一体、あいつは何なの?あの力も……。)


 ◇◇◇


 一方、新宿を見下ろす超高層ホテル、パークタワー新宿の最上階。


 外界を遮断した特別個室。


 そこでは、内閣官房長官・九頭竜が、米政府高官や米国大使たちと共にモニターを凝視していた。白雪の「先行公開」を目にした米政府高官が、苦々しく吐き捨てる。


「……九頭竜長官、あの動画は何だ。美談仕立てだが、嫌な予感しかせんぞ」


 九頭竜は冷徹な笑みを浮かべ、ワイングラスを傾けた。


「……IINCHOUと言いましたか。白雪湊という少女の悪戯ですよ。

 ですが大佐、あの中には貴国が十年間隠蔽してきた『致命的バグ』と、未成年のラプター大尉を酷使した記録が詰まっている。

 拡散すれば、本国での突き上げは想像を絶するでしょうな。

 国家の怠慢を原因とした児童虐待……国防総省が吹き飛ぶスキャンダルだ」


 高官たちの顔から血の気が引く。九頭竜は彼らの肩に手を置き、静かに囁いた。


「……安心なさい。

 公式戦の結果がどうあれ、あの『不都合なデータ』の管理は私の方で引き受けよう。

 ……なに、貸し一つということです」


 それは救済の提案であると同時に、米政府の弱みを九頭竜が握ったという宣言だった。


(……どちらに転んでも、私の腹が痛むことはない。米国も日本も、もはや私の掌の上だ)


 ◇◇◇


 旧四谷第五小学校、ひび割れたアスファルトの校庭。

 二人の少女が、互いの「炉」から放たれる熱波の中に立っていた。


 一人は、エリオット・ヴァンス博士がその生涯を賭けた祈りの完成形――鳳凰。

 かつてATF計画において、ヴァンスが「娘の再誕」として組み上げ、国家によって解体された悲劇と日本で蘇った奇跡を持つ不死鳥。


 対するは、米軍主力機『最強』――ラプター。


「……あ、あの……ラプターさん」


 校庭の片隅。ベルゲが震える手で、クリスタルメモリをラプターの首筋へ差し込む。


 それは、米軍が切り捨てた天才の執念と新庫重工開発陣の意地、租界の少女の祈りが形を成した――「フェニックスパッチ」。


 インストール。


 その瞬間、ラプターの全身をずっと苛んでいた、あの不気味な違和感が消えた。


 意図した動きと、機体の挙動がコンマ数ミリだけズレる。そのわずかな「穴」を埋めるために、常に全身の筋肉を強張らせ、無理やり姿勢を正し続けてきた、終わりのない消耗。


 そのノイズが、新たなアルゴリズムへと上書きされていく。


 こわばっていた筋繊維がふわりと弛緩し、制御ノズルの可動域が大きく広がり、骨格が本来の流動性を取り戻した。


「……軽い。……ねえ、ベルゲ。あたし、今ならどこまででも飛べるわ」


 通信機から、鳳凰の不敵な声が響く。


『……体の調子はどう? パパに感謝しなさいよ。……『最強』見せてくれるんでしょ。ざこざこ』


「言ったわねえ……。了解よ。……待たせたわね、鳳凰!」


 ドォォォォォォォン!!


 垂直上昇。重力を嘲笑い、苦痛を置き去りにした「再生」の咆哮。


 アメリカに見捨てられた少女が、父の愛により蘇った翼を広げ、米軍の『最強』へと食らいつく。


「パパ、見ていてね。天才エリオット・ヴァンスの娘が、『真の最強』を世界に示すから」


 解き放たれたラプターの機動は、もはや物理法則の範疇を超えていた。

 眼下でクレープを握りしめる少年へ、彼女は最高の笑顔と共に、空を斬る。


「見てなさい、ナナオ! これが……あたしの、『最強』の飛行よ!!」


 世界中の軍関係者や諜報員が見守る新宿・租界地区運動会応援団サイトの公式戦映像モニターに、空昇る『最強』二つの光跡が映し出された。衝撃的なサムネイルと共に。


 鳳凰とラプター。

 二つの火の鳥が、新宿の空を真っ二つに引き裂いた。





いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。

火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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