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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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最強ザコプターと不謹慎の乱

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

皆様お待ちかねのラプターVS鳳凰の公式戦幕開けでございます。

お楽しみください。



 都立高校の昼休み。


 ラプターことスーザン・メイは、教室の片隅でスマートフォンの画面を食い入るように見つめていた。

 彼女が開いているのは、一般的なブラウザでは決して辿り着けない、登録者限定の超ディープサイト――『新宿・租界地区運動会応援団サイト』だ。


 各国の諜報員や軍事エンジニアが、非公式な兵器性能データを監視するための情報交換所。公式戦ともなれば機密ギリギリの戦闘映像までアップロードされるが、練習試合については、ただ簡素な「結果」だけが冷徹に表示される。


「……何よ、これ。鳳凰(Ho-oh)● ― 零式 ○……?」


 ラプターの眉間に深い皺が寄る。

 『零式ゼロシキ』がナナオのナンバリングコードであることは把握済みだ。だが、対戦相手の『鳳凰』という名には心当たりがない。練習試合ゆえに映像データはなく、そこにあるのはただ、鳳凰がナナオに負けたという事実と、その過程が記載されたコメント数行だけだった。


「……無理な姿勢とはいえ、あのナナオの攻撃を躱している。こんな機体、神庫重工のどこに隠してたのよ……」


 映像がないことが、かえってラプターの想像力と焦燥を掻き立てる。彼女は、隣の席で午後の授業に備えてぼんやりしているナナオに詰め寄った。


「ねえ、ナナオ。あんたと昨日やった、この『鳳凰』って何なのよ。また新しい、国産の変な戦隊モノ?」


「ああ、鳳凰……?」


 ナナオは特に隠す様子もなく、昼に食べたクレープの余韻に浸りながら答えた。


「ヴァンス博士の娘さんだよ。最近は四神の四人と一緒に、五人でよく租界に遊びに来ているんだ。昨日も一緒にクレープ食べたし」


「……はぁ!? ヴァンスの、娘……?」


 ラプターの脳裏に、ATF計画時代の冷酷な天才、ヴァンス博士の顔が浮かんだ。そして、彼が手塩にかけていた「あの個体」の記憶が。

 あの子は解体されたはずなのに。なぜ日本で、ナナオとクレープを?


「……ちょっと、あたしに紹介しなさいよ、その鳳凰?」


「え、いいけど。今日は租界に居るって……あそこ、最近は白雪さんのせいで、変なルールが増えてるよ?」


 ◇◇◇


 放課後。ナナオに連れられてやってきた新宿・租界地区。


 だが、そこはもはやラプターの知る「掃き溜め」ではなかった。


 現在の租界は、委員長の白雪湊と強化人間の寮生たちが運営する『租界地下女子寮』へと変貌を遂げていた。環境浄化ユニットがダイナミックに空気を入れ替え、整理整頓された居住区は、もはや一つの地下都市のような清潔さを保っている。


 ラプターは毒気を抜かれた顔で、女子寮の共用リビングの扉を開けた。

 そこでは、黒いセーラー服姿の『四神』と、一人の黒髪の少女がテーブルを囲んでジェンガに興じていた。


「……あ、アオ! そこ抜いちゃダメだってば!」

「うるさいわね、スー。計算上はあと三ミリの余裕があるのよ」


 カチ、カチと乾いた音を立てて積み上がる木片。ラプターは、その中心に座る少女の横顔を凝視した。


「……グレイ」


 鳳凰は、指先を止めず、視線だけをスッと向けた。

「……ああ。なんだ、『最強ザコプター』じゃん。久しぶり」


「なっ……!? 今、なんて言ったのよ!」


「聞こえなかった? あんたは政治の力で『最強』に仕立て上げられただけの、ただのザコ。……最強ザコプター。ふふ、まだその名前で飛んでるんだ」


「ふざけないで! あんたこそ、あのナナオに負けたんですってね! 映像も出せないような無様な負け方、随分と安売りしたわね!」


「……負けてないよ。パパが降りろって言ったから、止めただけ。それにね」


 鳳凰の白い頬が、ふわりと朱に染まる。


「……あの人は言ったんだ。今まで相手をした中で、私が一番強かったって。あの『零式ゼロシキ』にそう言わせたんだからね」


「っ……! なによその『ゼロシキ』って呼び方! ナナオはナナオよ!」


「黙れ、ザコプター。技術の粋を極めた『零式ゼロシキ』に、あんたみたいな無礼なアメ公が気安く触れていい名前じゃないんだよ。……そもそも、その程度の実力で下の名前を呼ぶなんて、恥を知ったら?」


 ピリついた空気を変えようと、ナナオが間に入った。


「……二人とも、知り合いなの? ラプターは、俺の学校の同級生で、友達なんだ」


 その瞬間、ラプターの脳内に勝利のファンファーレが鳴り響いた。


「……友達。そう、友達よね、ナナオ。あんたみたいな『外野』とは違うのよ」


 ラプターは鳳凰に勝ち誇った視線を向けると、そのままナナオの隣へ歩み寄り――。


「えいっ」


 不意を突いて、ナナオの頬に軽く唇を寄せた。


「な、なななな、何をしてるのよあんたぁ!!」

 

 鳳凰が絶叫し、ジェンガが崩れる。



「……はあ? 別にいいじゃない。あたしたち友達だし、アメリカじゃこれはただの『挨拶』よ。そんなに騒ぐこと?」


 そっぽを向くラプターだが、その耳たぶは真っ赤だ。


 この状況を収めるべく、我らが白雪湊の怒声が響き渡った。


「ちょっと! 何をしてるの、あなた! 不謹慎だわ! あまりに不謹慎すぎるわ!!」


「認めないわ! 断じて認められない! ここは女の子たちが集う神聖な空間よ!

 そんな破廉恥な真似、この世界の『IINCHOU』白雪湊が絶対に許さないわ!

 五味くん!あなたも何をされるがままになっているの!?」


「……びっくりしただけだよ。アメリカって、やっぱりすごいんだな」


「すごくない! 全然すごくないわよ!!やっぱり卑猥な女幹部だったのね! 

 ラプターさん、そのアメリカンな理屈、今すぐ撤回なさい!!」


 白雪のダイナミックな正論に押しつぶされるラプター。

 その様子を見守っていた鳳凰が、急に立ち上がった。

 彼女はラプターを無視して、一喝を終えたばかりの白雪の前に歩み寄り、その右手をガシッと両手で握りしめた。


「……握手しよう。今この瞬間、私たちの間には、この不謹慎な『最強ザコプター』を排除するという、鋼よりも硬い連帯が生まれた」


 鳳凰は白雪の手を激しく上下させながら、ラプターを冷酷な目で見据えた。


「いい? 零式。このザコプターは『敵』だよ。不謹慎な害鳥なんだから!」


「……え、あ、うん。友達だけど、白雪さんが怒ると怖いから、気を付けるよ」


 ナナオは頬を赤くしながらも、白雪の「不謹慎レーダー」から逃れるべく、必死に最後のクレープを胃袋へ格納していた。


 一方で、四神の四人はといえば、リビングの隅で肩を寄せ合い、


「……は、破廉恥! 今の絶対エッチなやつよ!」


「……でも、なんか、ちょっとドキドキしちゃうね……」


 と、自分たちは何もしていないのに、顔を真っ赤にしてモジモジし続けているのだった。


 寮を飛び出したラプターは、人目を避けて路地裏へと滑り込むと、米軍専用の秘匿通信端末を起動した。


「……あたしよ。ペンタゴンの連絡官に繋いで」


 通信の向こう側で、低く威圧的な声が応じる。


『大尉、無許可の租界潜入については後で査問する。……ATF計画から放逐されたヴァンス博士の開発した鳳凰が、言うに事欠いてザコプターだと!? F22を、我々の至宝を……ザコプターだと!? これを屈辱と言わずして何と言う!』


「っ……! あの『鳳凰』が勝手なことを言っただけよ!」


『言い訳は無用だ、大尉! 貴様の汚名は、合衆国海軍の汚名だ。もはやこれは、合衆国のプライドをかけた『徹底教育』だ。見ていろ敗戦国家が!』


 直後、『新宿・租界地区運動会応援団サイト』に、一つの「公式声明」が投稿された。

 

【U.S. NAVY 公式挑戦状:F-22 ラプターより鳳凰へ。

 逃げ隠れせず、公式の場で決着を求めたい】


 翌朝、神崎玲奈は外務省と永田町から


「米大使館から猛抗議が来ている」と厳重注意を受けた。


 神崎玲奈の胃薬の量がまた増えた。



いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。

火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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