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重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜  作者: 益城 茜


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20/43

ジョーカーの試金石

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

テコ入れ投稿といたしましてに本日22時に、

もう1話アップします。

短めで恐縮ですが、お楽しみください。




 

 九頭竜という男は、政治家としての天賦の才を持っている。


 それは、常に「最強の尻馬」を嗅ぎ分け、誰よりも早くその背に飛び乗るという、極めて純粋で、かつ節操のない生存本能である。


 神庫重工の「四神」が一時的な成功を収めたことで、彼は政治的栄誉を手にした。

 しかし、彼の安眠を妨げているのは、その四神を赤子のようにあしらった扶桑重工の隠し球――「零式」こと、五味ナナオの存在だった。


「調整中、か。神崎の娘め、実に使い古された嘘を吐く」


 公式戦の打診を冷たく一蹴された九頭竜は、執務室で不快げに鼻を鳴らした。


 九頭竜のジョーカー『鳳凰』。

 確証が持てないものを「最強」と呼ぶことはできない。

 それならば、と彼はかつての新宿・租界地区で見せたような、国家権力による横暴を「非公式なデータ収集」という名目で再始動させた。


 最強の試金石として、彼は自分の手札「鳳凰」と、雪辱に燃える「四神」の計五名を、松河を通じて新宿・租界地区に解き放った。


 ◇◇◇


 新宿、交差点角クレープ店前。


 そこは、甘い香りと「若者の日常」が最も純粋に結晶化した場所である。

 少なくとも、週に一度の「チョコ生クリーム・トッピング増し」を生きがいにしている五味ナナオにとっては、何者にも侵されない聖域だ。


 だが、その日の聖域は、明らかに公共の安寧を無視した一団に占拠されていた。


(困ったなあ。エルピス、あれ、どう見ても俺を待ってるよな?)


『ええ、ナナオ。既知の生体反応が四名、および未確認ながら圧倒的な熱源反応が一。

 ……あと、隅っこで申し訳なさそうにしているメガネのおじさま。

 彼は、現内閣が進めている強化人間純国産化計画の技術顧問、エリオット・ヴァンス博士です。本当に居場所が無さそうですね、ぷぷぷ』


 そこには、制服姿の「四神」の四人が、クレープ屋を包囲するように陣取っていた。

 彼女たちは道行く人々の視線も気にせず、戦隊ヒーローのような派手な決めポーズに思考錯誤している。

 そしてその中心には、見慣れないツインテールの黒髪の少女が、不機嫌そうにクレープを頬張っていた。


「見っけ。……あんたが零式? 冴えない顔してるけど、そこの四神とラプターをスパパーンって投げ飛ばしたんだって? まあ、こいつらは『ざこ』だから仕方ないけど、ラプターまでとはね。やるじゃん」


 鳳凰――かつてYF23グレイと呼ばれた少女が、口角に生クリームをつけたまま、無邪気な瞳をナナオに向けた。


 傍らでは、ヴァンス博士が深々と頭を下げている。


「……すまない、ナナオ君。これも『大人の事情』というやつでね。

 九頭竜長官がどうしても君と『この子たち』の実力を確かめたいと聞かないんだ。

 もっとも、私個人としても、君の実力を見極めたいという技術者としての浅ましい好奇心があるのだが……」


 ナナオは絶望に肩を落とし、手にしかけていたクレープの注文票を握りしめた。


「……今は、神崎さんの許可がないとダメなんです。勝手なことはできないんです」


 ナナオはたどたどしい手つきでスマホを操作すると神崎玲奈に状況を説明した。


 十五分ほどして、白い電動自転車に乗り、肩で息をしながら玲奈が駆けつけてきた。


「ちょっと! 九頭竜官房長官の息がかかった連中が、勝手にうちの『零式』に手を出さないでくれる!?」


 玲奈は「零式」という大嘘を守るため、そして扶桑重工にこれ以上の火の粉が飛ばないよう、即座に公式試合を拒絶しようとする。

 しかし、あまりにも場違いなクレープ屋前の光景に、彼女はこめかみを押さえた。


「……こんな場所で揉め事を起こすわけにはいかないわ。どこか、落ち着いて話ができる場所に移動しましょう」


 ナナオが、ふと思いついたように口を開く。


「だったら、地下に行けばいいですよ。あそこなら誰にも見られませんから」


「ああ、あんたと白雪が『キャンプごっこ』してたわね。……まあいいわ、倉庫くらいには綺麗なんでしょ」


 玲奈は、ナナオの言葉を「一時的な避難場所」程度に受け止め、渋々と同意した。


 ◇◇◇


 しかし、新宿・租界地区の地下へと足を踏み入れた瞬間、神崎玲奈とヴァンス博士は、自分たちの想定が大いに間違っていた事に気づいた。


「……嘘でしょ? ここ、本当にあの汚かった都市地下貯水槽なの?」


 玲奈の動揺も無理はない。以前、ナナオが暴れた際に内見したそこは、汚水と廃油が漂う湿った巨大な暗い空間だったはずだ。


 だが、今の光景はまるで違う。


 見上げるほど高い天井を支える巨大なコンクリート柱の間に、白雪湊が持ち込んだプレハブ式の個室ユニットが整然と百個も並んでいる。

 数千個のLEDライトが昼間のような明るさを提供し、テラフォーミング・ユニットが送り出す空気は、地上の新宿よりも澄み切っていた。


 モダンな共有のリビングキッチンに、以前は五基しかなかったユニットバスは十基以上に増設されている。


「白雪とあんたが『秘密基地ごっこ』をしてテントで寝てるのかと思ったら……予想を事ごとく超えてくるわね。

 ……あんたたち、私から渡した百万円ぽっちの予算で、どうやってこれを……」


 さらに奥へ進むと、ヴァンス博士が足を止めた。

 そこには、エルピスが調達した超高性能な3Dプリンターや五軸加工機、さらには鋳造設備までが揃った「独立した兵器工廠」が広がっていた。

 ベルゲやスズメといった少女たちが、自らの手でオリジナルパーツを作り、自分たちの身体を自分たちで「修理」し、自治を成立させている。


「……信じられん。これは、ただの工場ではない。

 ……自治の現場だ」


 博士が驚嘆していると、タブレットを片手に次回の公式戦のスケジュールを組んでいた白雪湊が、眼鏡を押し上げてこちらを向いた。


 博士は思わず彼女に歩み寄り、自ら右手を差し出した。


「君が……あの『IINCHOU』白雪さんか。

 まさか、兵器開発という社会の暗部を、これほどまでに明るい『部活動』の領域に昇華させるとは思わなかった」


 ヴァンス博士の声は、感動に震えていた。


 彼は米軍や国家に、自らの「娘」である兵器を使い捨てにされてきた。

 だからこそ、少女を兵器としてではなく、一人の「部員」として居場所を守り、自立させている白雪の姿勢に、魂を揺さぶられたのだ。


「この『女子寮』は、棄てられた女の子たちが明るく生きていけるように、みんなで考えて運営しています。お金の心配ならいりませんよ、博士。

 応援団サイトの登録料として、世界中の情報機関から相応の『会費』を頂いていますから。それに、You●ubeのファンサイトも登録者数が四十万人を超えました。

 かわいいは勝利、なんです」


 白雪はいつものように爽やかに言い放つ。

 租界の少女たちが、現金収入と快適な居場所を得て、白雪に心から感謝している光景。


 それを目にしたヴァンス博士は、強化人間の少女たち全員に向けて深々と頭を下げた。


「……すまない。ナナオ君、白雪さん。

 君たちがしたことは、機械の部品にされたこの子たちが、普通に過ごせるという何よりも尊いことだ。

 君たちは未来を作ったんだよ。

 ……我々大人は、彼女たちを兵器にすることしかできなかった。

 ……本当に、すまなかった」


 博士の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 すると、ツインテールの少女――鳳凰が、その涙を優しい指先で拭った。


「パパ、そんなことないよ。

 パパは、私を幸せにしてくれてる。……泣かないでよ、もう。

 仕方ないなあ」


 その光景に、玲奈も毒気を抜かれたように息を吐いた。

 エリオット・ヴァンスという男の誠実さを認めた彼女は、ようやく折れた。


「……いいわ。データ取りのない『非公式な練習試合』なら受けるわよ。

 ……報告用に映像くらいはいいけど、試合結果以外は絶対に公にはしないこと。いいわね?」


 その言葉を聞いた鳳凰が、口角を吊り上げた。


「……新宿・租界地区か、いい場所だね、ここ。

 さてと、零式ぜろしき。そろそろ返事を聞かせてよ。本気、見せてくれるんでしょ?」


「わかったよ。神崎さんがOKなら仕方ない、早く終わらせてクレープを食べなきゃね」


 ◇◇◇


 場所は、「新宿・租界地区運動会」の指定会場となった、元「区立四谷第五小学校」の校庭。


 ナナオはその言葉通り、再戦に燃える四神をまたしても全員をお手玉にした。

 悲しいかな、鎧袖一触とはこの事だ。


 しかし、前と違い四人は、校庭ではなく砂場を選んで顔面ランディングを遂げた。ある意味進歩。

 とにかくクレープを前にしたナナオは容赦なかった。


 ベルゲとスズメが選手のレギュレーションをチェックする。

 鳳凰をチェックしたベルゲはヴァンス博士の施す整備状況の良さに目を見張っていた。


「鳳凰さん、私、多くの選手の方をチェックしてきましたけど、あなたが一番、素晴らしいコンディションです」」


「そりゃあ、パパが僕を診てくれてるんだもん。天才なんだから当たり前だよ」


 ヴァンスは思わぬ娘からの言葉に頬が赤くなる。


「負け犬ざこざこは、そこで座って見てなよ。かたき取ってあげる。

 さあ、始めようか零式」


 鳳凰が一方的に開始を宣言するや、鳳凰は一瞬にして校庭の砂塵に消えた。顔面砂まみれの四神の視界は一瞬で置き去りにされた。


 ナナオは、制服のシャツが風圧で激しくバタつく中、深くため息をついた。


「(……白雪さんは『応援団サイトに対戦結果は載せられる』なんて喜んでるし、神崎さんは『メンツを守れ』って目で殺しに来てる。

 ……エルピス、今日も俺はクレープ食べ損ねそうだな。またサポート頼む)」


『ナナオ、さっさとこのアグレッシブな少女をあしらって、クレープを食べ戻りましょう。

 ………………ナナオ、今です。』


 ナナオは本来の絶望的な出力を解放し、校庭の砂を、この世界の常識と共に巻き上げた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

火、木、金曜 18時の週3回投稿になります。

火木金曜はナナオの日 お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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