食い物の恨み (Another Side)
いつもお楽しみいただきありがとうございます。
さて、強化人間編ですが、補足事項をここに記載。
本編でも匂わせていますが、新宿租界では強化人間同士の戦闘が非公式で認められています。
日本政府も黙認してるってガバガバの設定です。
だから開発した強化人間の実戦データ取りしたい時等は、ヤンキーが喧嘩相手を待つみたいな感じで
よその強化人間が来たら喧嘩を吹っ掛けたり、待ち伏せしたりします。効率がクソ悪いです。
ラプターはその中でもビッグネーム中のビッグネームなので租界に来るときは何人か殴った後です。
強化人間はスキャナーが搭載されているので、相手が強化人間かそうでないか直ぐに分かります。
設定ガバガバでもいいじゃない、面白くしたいんだもの。
というわけで引き続きお楽しみください。
各務原、神庫重工・地下指令室。
巨大なモニター群には、新宿の廃校舎を舞台にした「実戦試験」の映像が、多角的なデータと共に映し出されていた。
「素晴らしい。立ち上がり二十秒でラプターの上下ポジションを奪取した。水平移動のみでの対応に苦慮しているようだが、さすが最強。悉く躱しているじゃないか」
主任エンジニアが、興奮を隠せずに声を上げた。
モニターの中では、黒いセーラー服を翻す四人の少女が、米軍の誇る「最強」を包囲している。
「ゲンとシーがアメ公の上下を潰した。やれ、スー!」
「わかったーよっと!」
朱雀の鋭い蹴りが、空を裂く
「っ!」
次の瞬間、ラプターの機動が一瞬だけ乱れ、衝撃波が彼女の肩を叩いた
「やった!! よくやった朱雀! わずか四十秒でラプターに有効打が入ったぞ!」
エンジニアたちが歓喜に沸く。
「ヴァンス博士の高機動プログラム、本当に凄まじいな。F35のみのプログラムでは、シミュレーター上で六分間一発の有効打すら与えられなかったというのに」
「ラプターの反撃もいくつか喰らったようだが、耐久値は余裕だ。まだまだやれそうだぞ」
彼らは確信していた。
自分たちが心血を注いだ「純国産の意地」が、ついに世界の頂点に指をかけたのだと
だが、その狂騒は一瞬で凍りついた。
「!!!!!!」
画面の中で、チョコと生クリームを顔面に塗りたくった「謎の個体」が宙を舞った。
「なんだ……あの個体。四神とラプターの、音速に近い攻撃を……同時に受け止めた……?」
物理法則を嘲笑うかのような光景。
五人の強化人間が、まるでお手玉のように次々と空中から地上に放り投げられていく。
「何が起こってる? あの個体は一体なんだ。登録データにないぞ!」
「……男性個体の強化人間なんて前代未聞だ」
「九頭竜官房長に報告を……いや、待て。 こんな“未知の個体”をどう報告すれば……」
混乱は神庫重工だけに留まらなかった。
神庫側が「四神の強さを世界に知らしめる」ために密かにリークしていたライブ回線を通じ、各国の諜報機関もまた、この異常事態を目撃していたのだ。
「ターゲット名称不明。五体の最高性能個体を相手に……無双しているだと?」
友人の少女を危険にさらし、クレープを台無しにされた少年の怒りが、世界中の情報戦略担当者たちを戦慄させた。
この瞬間から、五味ナナオという存在は、各国のパワーバランスを根底から揺るがす「最優先監視対象」として、世界を駆け巡ることになった。
租界と校庭が挟む南北に延びる道路の地上十メートルでの亜音速バトル。
ナナオに空中から放り投げられて地上へ舞台を移す。
元区立四谷第五小学校、校庭。
重力に従い、四体の強化人間たちが無慈悲に叩きつけられた。
ベシャーッ!!
投げ飛ばされた勢いのまま、四神のメンバー――アオ、シー、ゲン、スーは受け身も取れず、顔面から砂と土の混じった校庭に激突した。
神庫重工のエンジニアたちが心血を注いでプログラミングした「勇ましい戦隊ムーブ」は、そこには微塵もなかった。
「…………ぐっ、ふぇ……」
青龍が、砂まみれの顔を上げて呻く。
最新鋭のセンサーが「物理的な衝撃による内部回路の混乱」を告げ、網膜に真っ赤なアラートが点滅していた。
「ちょ、ちょっと待って!? 全力で攻撃したのを投げ返されたんだけど!?」
隣では、朱雀が鼻の頭に砂をつけたまま、信じられないといった風情でナナオを見上げている。
「……(ガタガタ)」
「エラー……エラー……“恐怖反応”って何……?」
白虎はガタガタ足を震わせ、玄武にいたっては、自身に起きたエラーを読みあげる事が精一杯だった。
唯一、空中での強制反転を成功させたラプターだけが、数メートル離れた場所に静かに着地していた。
膝を突き、片手で地面を支える。
その呼吸は乱れ、瞳には隠しきれない動揺が走っていた。
(……ありえない。あの子たちの連携を、力ずくで「静止」させたっていうの?
しかも、あたしまで巻き込んで……。この『最強』を、ただの「荷物」みたいに投げ飛ばした……!)
『最強』と豪語していた彼女のプライドが、新宿の埃っぽい校庭で軋んでいた。
そして、その中心に。
ゆっくりと歩を進める少年がいた。
五味ナナオ。
だが、今の彼には、銀河を駆ける開拓民の面影も、十世紀を先んじるテクノロジーも関係ない。
あるのは、顔面を覆うドロドロの生クリームと、首筋まで垂れ落ちた真っ黒なチョコの残骸だけだ。
「……なあ。お前ら」
ナナオの口から漏れたのは、氷点下まで凍りついたような静かな声だった。
「ラプター相手に喧嘩を仕掛けてきたのもそうだけど、お前らが吹き飛ばした白雪さんは普通の女子高生だ。大怪我する所だったんだぞ」
「……それだけじゃない」
「俺は、エルピスから『化学反応の産物だ』なんて散々嫌味を言われながらも、意を決してそれを食べたんだ」
「人生で初めて、この星の『楽園』を信じていいかもしれないって……そう思った矢先だったんだぞ」
ナナオは足元に転がっていた、砂にまみれたクレープの包装紙を、恨めしそうに見つめた。
「チョコバナナは甘かった。生クリームは、俺の想像を絶する多幸感を脳に運んでくれた。……それを、お前らは」
ナナオの一歩ごとに、校庭の地面がミシミシと悲鳴を上げ、亀裂が走る。
「ただの『喧嘩』なんかで、台無しにしやがった……!」
ドォォォォォンッ!!
ナナオが地面を踏みしめた衝撃で、校庭の半分が地震のように揺れた。
四神の少女たちは、その圧倒的な威圧感に、「戦意」が「生存本能」に上書きされるのを感じていた。
「ま、待って! 私たちはただ、アメ公を倒すために派遣された……ひっ!」
言い訳をしようとした朱雀の声が、恐怖で引き攣る。
ナナオの背後に、怒りのあまり視覚化されたかのような禍々しいオーラが見えた気がしたからだ。
「……教育してやる。広いところで、徹底的にね」
生クリームまみれの「復讐者」が、再びその手を四神たちへと伸ばした
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