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人間の愚かさと食い物の恨み

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

強化人間編でシリアスに行こうかなと考えていました。

無理でした。

本質的にふざけている人間性が……ねえ。

新キャラ登場です。美少女4人です。ちょっとお馬鹿なまじめな子たちです。

可愛がってください。

それでは引き続きお楽しみください。




ラプターが都立高校に転校する前日の事。


港区の米国大使館内の一室。


「……ラプター大尉の行動データ、すべて神庫重工へ転送完了しました」


男の声は抑揚がなかった。


「よくやった。次はF35のファイアーウォール解除のパスコード。バイク便の特急で各務原に送れ」


送付者欄が空白の黒いケースが、その夜のうちに三〇〇キロ先の各務原に向けて走り出した。


◇◇◇

当日午後、各務原市内、神庫重工の地下7番ハンガー。

作業台で眠る少女――F35(ライトニング・ゼロ)の精神を守っていた最後の一枚の壁が、無慈悲にこじ開けられた。


「ファイアーウォール、完全沈黙。……ブラックボックス、解放」


「抽出開始。F35の制御系プログラムおよび高度連携アルゴリズムを、個体名『四神』へ移行。これで彼女たちは、米軍最新鋭機と同等の『群れ』としての最適解を手に入れる」


エンジニアの声には、略奪に成功した高揚感が混じっていた。


「……さらにこれを追加する。もう一機の純国産概念実証機、技術顧問のヴァンス博士が自ら再構築した『鳳凰』の姿勢制御プログラムだ」


「上手く動きますか?」


「ヴァンス博士もATF計画出身だ。共通のプラットフォームで作られたプログラム、試してみない手は無いだろう。

F22のシミュレーション値からのリバースエンジニアではもう限界だ。いずれにせよ後がないんだ。」


闇の中に並ぶ4機の美少女強化人間。彼女たちのバイザーが、禍々しい紅い光を宿した。


「試験相手は、東京のラプター大尉とする。彼女が『最強』であることを証明すればするほど、我々の完成度は高まるのだ」


その夜、エルピスだけがすべてを観測していた。

月の裏側から、量子もつれ通信で。声には出さなかったが、ナナオの脳内でただ一言だけ呟いた。


『……人間の愚かさは、どの星へ行っても変わりませんね。ぷぷぷ』


◇◇◇


ラプター転校初日、放課後の新宿。


俺の鼻には今まで嗅いだことのない「甘い」匂いが漂っていた。


俺たちは学校から新宿租界の程近くの交差点にある有名なキッチンカーの前にいた。


「はい、五味くん! ラプターさん! これがクレープだよ。青春の味なんだから!」


白雪さんに手渡されたのは、左手に「チョコバナナ」、右手に「生クリームたっぷり」の二本のクレープ。薄い生地に包まれた、正体不明の多層構造物体。

俺は思わず、その重みを手に取るのを躊躇った。


(……エルピス。これ、本当に人間が食える代物なのか?)


『警告します、ナナオ。こちらでは「スイーツ」と呼称していますが、その実態は化学反応の産物です』


『まず、その黄色い果実。バナナです。熟成の過程で内部がどろりと軟化し、外皮の斑点は腐敗の前兆と同じ化学反応を起こしています。本当にこれを摂取するのですか? ぷぷぷ』


俺は恐る恐るバナナの断面を覗き込む。ねっとりとした繊維質が、まるで内部臓器のスライスのように見えてきた。


(……柔らかすぎる。噛む前から構造が崩壊している食材なんて、食べ物として成立しているのか? いや、豆腐は食うことが出来たな。ただあれは調理されたものだ)


『次に、その黒い液体。チョコレートです。カカオ豆を粉砕し、脂肪分と砂糖を混ぜ、高温で練り上げて、冷やして固めて、また溶かして……。工程が、工業用潤滑油とほぼ同じですね』


とろりと垂れたチョコが、クレープの端で固まりかけている。


『見た目が、溶けた金属のスラッジに酷似しています。本当に食べるのですか? ぷぷぷ』

さらに、その上を覆い尽くす白い泡状の物質。


『生クリームです。牛乳の脂肪分を分離させ、空気を送り込み、過剰な糖分で保存性を高めた不安定なエマルジョンです。見た目は美化されていますが、本質はただの高密度脂肪の塊ですよ。ぷぷぷ』


俺は冷や汗を流しながら、その「実験体」を口元へ運んだ。


――一口食べた、その瞬間。

俺の脳内で、全宇宙の恒星が同時に爆発したような衝撃が走った。


(……エルピス、これはなんだ。俺の感覚中枢が、糖分に踏み荒らされている!)


『……想定外です、ナナオ。地球人は、ただの脂肪と糖分の混合物は、これほどの「幸福」という名のバグを詰め込んでいる。食材の形をした多幸感のドラッグです。ぷぷぷ』


脳内を支配する、圧倒的な甘美。


 宇宙船の無機質な合成食しか知らなかった俺にとって、これは「食事」ではない。

到達したこの星、楽園で行われる禁断の儀式だ。


「これが……地球の……クレープ! 至福だ……!! 圧倒的に至福だ……!!」


俺は、左手のチョコと右手の生クリームを、もはや信仰のごとく交互に咀嚼する。


「……甘いものは久しぶりだわ。偵察活動の補給としては悪くないわね」


隣でラプターも、幸せそうに頬を緩めている。


うまい。


クレープという食べ物は間違いなく、過去最高の食べ物だ。


この楽園を訪れたことに感謝しつつも、こんな不気味な物を食べ物と定義した、この星の人類に俺は戦慄を覚えた。


租界の入り口へ向かう途中。

俺たちは租界のすぐ東にある「区立四谷第五小学校」の廃校舎の前に差し掛かった。


「ラプターさん、お客さんだよ。……あいつら、ヤバいよ」


租界の見張りの子が、怯えた表情で校門前を指差した。

そこには、カムフラージュ用の黒いセーラー服を着た四人の美少女がいた。

彼女たちは、かつての不良を彷彿とさせる見事な「門番座り」でこちらを睨みつけていた。


「アメ公、見っけ! 仲良くデートかよ!」


その中の一人が、不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。同時に、四人は示し合わせたように戦隊ヒーローさながらの派手なポーズを決めた。


「東の守護、青龍!」


「西の守護、白虎!」


「北の守護、玄武!」


「南の守護、朱雀!」


一拍置いて、四人の声が重なり、廃校舎の壁を震わせる。


「我ら、チーム四神! お前を倒すのが私たちの使命だ!」


「この国をむさぼる悪いアメ公め! 覚悟しな!」


「アオ、今の決まったよね?」


「バカ、スー! まだ名乗りが終わったばっかりでしょ。シーもゲンも、もっと腰を落として!」


愛称で呼び合いながら、彼女たちは真剣に「正義の味方」を演じている。


「あんたたち、校門の前でそんな格好して……不良ね!」


白雪さんが持ち前の正義感を爆発させて前に出るが、ラプターが即座に彼女を制止した。


一方の俺は、左手のチョコと右手の生クリームを、交互に噛みしめる至福の真っ只中。

脳内を支配する圧倒的な「糖分」の幸福感に、知覚反応が一瞬、遅れた。


――次の瞬間。超高速戦闘の余波で、衝撃波が発生する。


「きゃああっ!」


白雪さんが空中に吹き飛ぶ。そして――俺の視界から、クレープという神が消えた。


宙を舞う、チョコと生クリーム。


 重力に従い、それらは俺の顔面へと無残に叩きつけられた。


(……)


 熱いチョコの感触と、冷たいクリームの脂質が、俺の頬を伝い、校門の冷たいアスファルトへと滴り落ちていく。


(……エルピス。……俺のクレープが、死んだ)


『……心中お察しします、ナナオ。幸福度のグラフがマイナス一万%まで垂直落下しました。これは、国家存亡の危機に匹敵する事態です。ぷぷぷ』


『ナナオ、白雪湊が五メートルの高さから自由落下します。骨折は免れません』


(生クリームで視界が……白雪さん助けなきゃ……エルピス、サポート頼む)


『音声拡大します。…………ナナオ、今です』


俺は音だけで吹き飛ぶ白雪さんを横抱きにキャッチした。お姫様抱っこという奴だ。

俺の腕の中で、彼女の心拍数が跳ね上がった。そして息を飲んだ白雪さんは、俺の腕をぎゅっと握った。


どんな顔かは見えてない。


そして、彼女を5人の戦闘の余波が来ない、建物の影の安全な場所へ立たせた。


「ここは危ない、白雪さん、租界に避難して! 神崎さんを呼んでくるんだ!」


「……もう! 五味くんも…… こんな狭いところで喧嘩なんてしちゃダメなんだからねっ!」


白雪さんは何か言いたげだったが、怒鳴りながら地下の工廠へと避難した。


俺は彼女の言う通り、5人を止めることにした。上空では5人の激しい打撃音と衝撃波だけが周囲にこだまする。俺が目で追えるギリギリの速度だ。


「エルピス、あいつらを止める。サポートを頼む」


『承知しました。ナナオ、……今です』


エルピスの指示で、空中に十メートルジャンプした俺は両手両足をフルに使い身体能力だけで五人の少女を一瞬で静止させた。


「……喧嘩なら、広いところでやれよ」


俺は四神を一人ずつ掴み、小学校の広い校庭に向かって投げ飛ばした。


「うそでしょおぉぉ!?」「やだーっ!」「「えーっ!?」」


自分たちが何に捕まったのかも理解できないまま、四人は信じられないといった風情で情けない悲鳴を上げる。


茫然として俺を見ているラプターの襟首を掴み、彼女も校庭の中央へと放り投げる。


結構な勢いで投げ飛ばしたので、受け身も取れずに四人は顔面からベシャーっと校庭に落っこちていった。


ラプターだけは空中で瞬時に体を反転させて、キレイに着地してみせた。さすがは俺に「守ってやる」と豪語していた最強の女だ。


顔面を生クリームとチョコまみれにしたまま、俺は広い校庭へと足を踏み入れた。


「一方的にラプターに喧嘩仕掛けたり、白雪さんを吹き飛ばしたり、それだけじゃない」


「人のクレープを台無しにした罪は重い。……その顔面の砂の味、チョコの代わりにじっくり味わえ」


食い物の恨みは恐ろしいと彼女たちに分からせてやるのだ。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

毎日18:00投稿になります。

18:00はナナオ、お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

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