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狂信の犬猫と、甘美なるお仕置き

虚飾の神を討ち果たし、母の死の真実を知ったあの日から数週間。

 私たち三人は、次の標的である『色欲の神』の治める国を目指し、旅を続けていた。


その道中、寂れた宿場町で部屋を借りた夜のことだった。


「……っ、ふぅ……」


ベッドに腰掛けた私は、ズキリと疼く犬歯を指先で押さえ、熱い吐息を漏らした。

 月に一度の吸血衝動。眷属を二人に増やし、さらに自身の魔力も跳ね上がったせいか、以前よりも喉の渇きと体の熱が強い。


私がベッドの上で小さく身悶えした瞬間、部屋の空気がピリッと張り詰めた。

 扉の前に直立不動で控えていた白銀の騎士と、窓枠に座って外を警戒していたピンク髪の少女が、瞬時に私の元へと駆け寄ってくる。


「カノン様! お苦しいのですね……さあ、今すぐ私の首に牙を! 主の渇きを癒やすことこそ、盾である私の最優先事項です!」

「ちょっと退いてよ、羽なし天使。カノンの隣は私の場所だから。……ねえカノン、私の血の方が甘くて美味しいでしょ? いっぱい飲んで、いいよ……っ♡」


セラフィが軍服の襟を乱暴に引き下げて透き通るような首筋を差し出せば、ミアは私にすり寄るように抱きつき、その華奢な手首を私の口元へと押し付けてくる。


虚飾の大聖堂で初めて私の牙を受け入れ、『眷属化』の圧倒的な快感と多幸感を知ってしまった二人。

 それ以来、彼女たちは私への忠誠心と独占欲をむき出しにし、事あるごとに「私の血を吸って」とせがんでくるようになってしまった。


「おい野良猫、主の御前で抜け駆けは許さんぞ! 魔力純度と栄養価なら、元・天使である私の血の方が上だ!」

「うるさいなぁ。カノンは『私の可愛い猫』って言ってくれたもん。大味なホットミルクなんて、カノンのお口には合わないってば」

「なッ……!? この泥棒猫が……ッ!!」


私の目の前で、忠犬と狂信猫がバチバチと火花を散らし始める。

 普段なら適当にあしらうところだが、今の私には、二人の首筋から漂う極上の血の匂いが、理性を焼き切るほど甘く、強烈に感じられていた。


「……二人とも。私の前で騒がないでって、いつも言ってるわよね」


私は、わざと冷たい声を落とした。

 ピクッと二人の肩が跳ね、喧嘩を中断してこちらを振り返る。


「あ、カノン、ごめんなさい……私、カノンに早く楽になってほしくて……」

「も、申し訳ありませんカノン様! ですが、このセラフィ、主の苦しむお姿をただ見ていることなど……!」


シュンと犬耳と猫耳(幻覚)を垂らして反省する二人。

 私はため息をつきながら、両手をスッと前に伸ばした。そして、セラフィの軍服の胸ぐらと、ミアの首輪の鎖を掴み、力任せに手元へと引き寄せる。


「きゃッ!?」

「あッ……!」


吸血鬼の腕力で引っ張られた二人は、そのままベッドの上に倒れ込み、私に左右から覆い被さるような体勢になった。


「私のために争うなんて、本当に躾がなってないわね。どっちが先かなんて……私が決めるに決まってるでしょう?」


私は真紅の瞳を妖しく細め、至近距離で二人の顔を交互に見つめた。

 私の圧倒的な魔力と、捕食者としての甘い香りに当てられ、二人の瞳がすでにトロンと潤み始めている。


「二人とも、大人しく私のモノになりなさい」


私はまず、右側に倒れ込んでいるセラフィの首筋に顔を埋めた。

 脈打つ動脈に、迷うことなく牙を立てる。


「あぁぁんッ……!! 主、カノン様ぁっ……! あ、あはぁッ、んんっ……♡」


私の魔力が流れ込み、セラフィの体からビクンビクンと激しい痙攣が走る。

 安心するホットミルクのまろやかな味が、私の乾いた喉を潤していく。彼女は限界まで反り返り、私の背中に回した手でシーツを強く握りしめた。


「ふふっ……相変わらず、いい声で鳴くわね」

「はぁっ、はぁ……あ、もっと……カノン様、もっと私を、めちゃくちゃに……っ♡」


快感で完全に理性を飛ばしたセラフィをベッドに押し付けたまま、私は今度は左側で荒い息を吐きながら待たされているミアへと視線を移した。


「カノン……私、も……私にも、早く、ちょうだい……っ♡」


ミアは涙目で私の服の袖を掴み、自分の首筋を無防備に晒して擦り寄ってくる。

 私はセラフィの血で濡れた唇のまま、ミアの首筋に深く牙を突き立てた。


「んッ……! あはぁぁッ……!! かみさま、カノン、カノ……ン……っ♡♡」


極上の果実酒のような、濃密で甘い血の味。

 ミアは快感のあまり白目を剥きかけ、私の首に両腕を絡ませて、狂ったようにすがりついてきた。


「あ……カノンが、いっぱい……あはっ、幸せ、しあわせぇ……っ♡」

「ん……ふぁ……カノン様、私も、あぁっ……♡」


私はベッドの上で二人を抱きかかえたまま、交互に、時には二人同時に魔力を流し込み、その極上の血を味わい尽くした。

 部屋の中には、吸血の小さな水音と、二人の少女の甘く蕩けた嬌声だけが延々と響き渡っていた。


数十分後。

 完全に喉の渇きが癒えた私は、ハンカチで優雅に口元の血を拭った。


「……ふぅ。ごちそうさま。少し飲みすぎたわ」


私の足元……というかベッドの上では、セラフィとミアが完全に骨抜きにされ、幸せそうなだらしない顔でトロトロに溶けていた。

 二人は互いに抱き合うような体勢で絡み合いながら、未だに「あはぁ……カノン様ぁ……♡」「カノン、えへへ……♡」と譫言のように呟いている。


普段はあんなにいがみ合っているのに、私の魔力(快感)を与えた直後だけは、こうして喧嘩する気力もなく仲良く(?)伸びてしまうのだ。


「……本当に、手のかかる眷属たちね」


私は呆れたようにため息をつきながらも、二人の頭を撫でてやった。

 泥水のように不味かったあの獣の血を飲んでいた頃に比べれば、この騒がしくも甘美な日常は、悪くないと思えた。


翌朝。

 私たちは、とある巨大な歓楽街へと足を踏み入れた。

 色欲の神が治める国へと続く道中にある、欲望と暴力の吹き溜まり――『裏闘技場』がある街へ。

 そこで私たちが、三人目の狂信者となる『規格外の龍』と出会うことになるとは、まだ知る由もなかった。

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