分断された絆と、黄金の迷宮突破
圧倒的な光の奔流が収まった後。
黄金の都の国境線には、カノンの姿だけが忽然と消え失せていた。
「カノン様が……あの外道に、引き剥がされた……ッ!」
セラフィの目から大粒の涙がこぼれ、次の瞬間、それを上回る猛烈な殺意が全身から噴き出した。
普段の高潔で冷静な騎士の面影はない。そこにあるのは、たった一人の主を奪われた、狂犬のような純粋な怒りだった。
「主の御前に立ち塞がる門など、私がすべて粉砕するッ!!」
セラフィは己の身の丈ほどある大盾を構え、魔力を爆発させて黄金の巨大な門へと突進した。
――ドゴォォォォォンッ!!
強欲の神の魔力で強化されていたはずの数十トンはある黄金の門が、まるで紙くずのようにへし折れ、轟音と共に吹き飛んだ。
もうもうと舞い上がる土煙の向こう。黄金の都の大通りには、強欲の神の『コレクション』を護るための、黄金の鎧を着た兵士たちが何千と立ち並んでいた。
「侵入者だ! 神の所有物を荒らす輩は、生かしてはおく……グハァッ!?」
先陣の兵士が言葉を発し終える前に、その首が宙を舞っていた。
音もなく敵陣のど真ん中に飛び込んでいたのは、ミアだった。
「……カノンの匂いが、遠ざかった。……絶対に、許さない」
過酷な環境を生き抜いて鍛え上げられた、無駄のないしなやかな筋肉。ミアは野生の猫のように低く身を沈め、敵の槍の雨を紙一重で躱していく。
彼女の双剣は、分厚い黄金の装甲そのものを叩き割ることはしない。鎧の継ぎ目、首の隙間、膝の裏――強固な防具の『絶対に守れない弱点』だけを、本能と執念で正確に切り裂いていく。
ミアが通り抜けた後には、血飛沫と共に黄金の兵士たちが次々と崩れ落ちていった。
「この鎧、硬いカニの甲羅と同じアル! 関節を外して、中身を叩き潰せばただの案山子ネ!」
続いて敵陣をかき乱したのは、特級料理人のタオ・リンだった。
彼女はカノンの血のジュレによる強力な身体強化バフを全身に巡らせ、流麗な中国武術の歩法で兵士たちの間をすり抜ける。
迫り来る大剣を掌底でいなし、鎧の関節部分に的確な蹴りを叩き込んで骨を砕く。料理人が硬い食材を捌くかのような、一切の無駄がない破壊の連撃。
さらに彼女は、戦いながらも自身の魔力を味方三人に送り続け、カノンのジュレのバフ効果を途切れさせない『特級の支援』を完璧にこなしていた。
「どいてどいてー! カノンをいじめるお兄ちゃん、絶対に丸焼きにする!!」
そして、上空から絶望的な影が落ちた。
巨大な竜の翼を展開したレヴィアが、空高く舞い上がっていた。彼女は大きく息を吸い込み、限界まで圧縮した灼熱の魔力を、黄金の大通りへと一気に吐き出した。
――ゴォォォォォォォォォォッ!!
圧倒的な質量を持った竜のブレス。
強欲の神が誇る黄金の兵士たちは、悲鳴を上げる間もなくドロドロに溶け、大通りを埋め尽くしていた黄金の石畳すらも、沸騰するマグマの川へと変貌した。
たった四人の少女たちの猛攻によって、強欲の神の軍隊はわずか数分で壊滅状態に陥っていた。
「おい、お前」
火の海と化した大通りの中心で、セラフィが生き残っていた部隊長の首根っこを乱暴に掴み上げた。
「ひぃぃッ! ば、化け物どもめ……ッ!」
「吐け。あの強欲な豚は、私たちの主をどこへ連れ去った?」
セラフィの氷のような視線と、背後で双剣の血を振り払うミア、拳を鳴らすリン、口から火の粉を漏らすレヴィアに囲まれ、部隊長はガチガチと歯を鳴らして震え上がった。
「ち、中央の……街の中心にある、一番高い『黄金の塔』です……ッ! 神の玉座は、その最上階に……!」
「行くぞお前ら! 一秒でも早く、主の元へ!!」
セラフィが部隊長を放り投げ、塔の方角へ向けて駆け出す。
迷宮のように入り組んだ黄金の街。しかし今の彼女たちに、道に迷うという選択肢はない。邪魔な壁があれば盾で砕き、ブレスで溶かし、ただ一直線に――愛する主の元へと、怒れる四人のヒロインたちは猛進していくのだった。




