血の共鳴と、異次元の兄妹喧嘩
「さあ、家族水入らずの『兄妹喧嘩』を始めようか」
強欲の神――私の実の兄が、優雅に指を鳴らした瞬間。
兄の足元に敷き詰められていた純金の床がドロリと溶け、そこから巨大な『血と黄金が混ざり合った槍』が無数に飛び出してきた。
「――ッ!」
私は即座に真紅の大鎌を振るい、頭上から降り注ぐ死の雨をすべて弾き飛ばす。
ガガガガガッ!! という金属がへし折れるような甲高い音が、豪奢な玉座の間に響き渡る。弾き飛ばされた槍が壁や柱に突き刺さるたび、宮殿が激しく振動した。
「ほう。僕の血の速度に反応するとはね。さすがは同じ血を分けた妹だ」
「あんたと一緒にしないで。……その薄気味悪い血、私に近づけないでちょうだい!」
私は大鎌の柄を蹴り上げ、自身の指先から極限まで圧縮した『血の刃』を数百本生成し、兄に向けて暴風雨のように放った。
だが、兄は玉座から一歩も動くことなく、自身の周囲に強固な『血の防壁』を展開してそれをすべて受け止める。
――ズガァァァァンッ!!
互いの血と魔力が激突し、爆発的な衝撃波で玉座の間の黄金の柱が飴細工のようにへし折れ、吹き飛んでいく。
巻き上がる粉塵の中を切り裂くように、私は音速を超えた踏み込みで兄の懐へと肉薄した。
「遅いよ、カノン」
兄の手には、いつの間にか私と同じような『血で形作られた長剣』が握られていた。
私が首筋を狙って振り抜いた大鎌の一撃を、兄は薄笑いを浮かべたまま片手で易々と受け止める。
キィィィンッ!!
刃と刃が拮抗し、そこから生じた余波だけで、周囲の黄金の装飾品が木端微塵に砕け散った。
「ふふっ、素晴らしい! 父上の因子を継いだ者同士、この凄まじい魔力の共鳴……いや、本当に美しいよカノン!」
「……いちいち口を開かないで。目障りよッ!」
私は力で押し込むのを諦め、瞬時に身を捻って大鎌の石突きで兄の鳩尾を狙う。しかし兄はそれを見越したように身を沈め、私の脇腹に向けて血の長剣を突き出してきた。
ザシュッ!
ドスッ!
互いの刃が、互いの肉体を同時に浅く切り裂いた。
鮮血が黄金の床に散る。――だが、次の瞬間には、その傷口からシューッと白い蒸気が立ち上り、流れた血が逆流するようにして瞬時に傷が塞がってしまった。
神の領域に達した吸血鬼同士の、超絶的な再生能力。
腕を切り落とされようが、心臓を貫かれようが、魔力と血が尽きない限り何度でも蘇る、まさにバケモノ同士の果てしない殺し合いだ。
「はははっ! いいね、すごくいい! 君の血の匂い、最高にそそるよ!」
「変態。その顔ごと、細切れにしてあげるわ」
私たちは再び激突した。
床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、黄金の玉座の間を三次元に飛び回りながら、目にも留まらぬ速さで斬撃と魔法を交錯させる。
私が血の茨で兄の足を縛り上げれば、兄は血の爆発でそれを吹き飛ばし、死角から無数の血の杭を撃ち込んでくる。私はそれを大鎌で防ぎながら、怠惰の神から奪った黄金の神格の力を織り交ぜて、重力による叩きつけを見舞う。
――ドゴォォォォンッ!!
兄の身体が黄金の床をぶち抜き、下の階層へと叩き落とされた。
しかし、土煙が晴れるより早く、兄は無傷のまま、凄まじい速度で私に向かって斬りかかってきた。
「ふふっ、本当に楽しいよカノン! こんなに本気で動いたのは何十年ぶりだろうね!」
笑いながら剣を振るう兄と、冷徹に大鎌を振るう私。
壊されては再生する肉体。破壊されては強欲の魔力によって再構築されていく黄金の部屋。
一歩も譲らない、極限の死闘。
この時点では、私と兄の力は、次元の違う高みにおいて完全に『互角』に見えていたのだった。




