強欲なるナルシストと、最強の兄妹喧嘩
黄金の国境線を越えた私たちを見下ろすように、巨大なホログラムの青年が優雅に微笑んでいた。
私の実の兄であり、この国を支配する『強欲の神』。
『美しいだろう? この黄金の都も、そこに這いつくばる愚民の命も、すべて僕のものだ』
兄は自身の美しい金糸の髪をかき上げ、陶酔したように語り始めた。
『僕は、すべての神の頂点である「傲慢の神」……愛する父上に、最も愛されて生まれた特別な存在だ。だから僕には、この世のすべてを僕のものにする権利がある』
「……気味が悪いほどのナルシストね。他人の命をコレクションして、何が楽しいの」
私が冷たく吐き捨てると、兄は愉快そうに肩を揺らした。
『楽しいさ。でも、まだ足りない。僕は父上を超えたいんだ。父上の至高の力すらも、僕のコレクションに加えなければ気が済まない』
兄の真紅の瞳が、ホログラム越しに私をねっとりと見据えた。
『だからカノン、君の力が必要なんだ。神々を次々と葬り去った君の異常な力と、僕の力を合わせれば、父上にも勝てる。……さあ、僕の元へおいで。君の力を、僕によこしなさい』
「……お断りよ。誰があんたみたいな薄気味悪い男の所有物になるもんですか」
『強情だね。もちろん、君のことはこの国のVIPとして丁重に迎え入れるつもりだよ。僕の可愛い妹にして、最高のコレクションだからね』
兄はそう言うと、ふっと視線を私の背後――セラフィたち四人へと向け、あからさまに顔をしかめた。
『……でも、君の後ろにいるその薄汚いゴミ共は、今すぐそこに捨ててきなさい。底辺の羽なし天使に、野良猫、トカゲ、それに下劣な人間のメス……僕の完璧な黄金の都が、そんな生ゴミの悪臭で汚れてしまう』
「――ッ!」
その言葉を聞いた瞬間。
私の内側で、かつてないほどの激しい怒りが沸点に達した。
「カノン様、お気になさらず。あのような戯言……」
「主を侮辱したこと、絶対に許さない……っ」
セラフィたちが武器を構えようとするが、私はそれを手で制し、ギリッと大鎌の柄を握りしめた。
「……私の大切な眷属を、ゴミ呼ばわりしたわね」
私の全身から、周囲の黄金を腐食させるほどの濃密な殺気と魔力が溢れ出す。
「あんたの愛する父上がどうだか知らないけれど。……私に与えられたのは、絶望と孤独だけだった。そんな私を救ってくれたのは、あんたがゴミと呼んだこの子たちよ」
私は大鎌の切っ先を、ホログラムの兄へと真っ直ぐに突きつけた。
「あんたなんかより、この子たちの方がずっと美しくて尊いわ。……そのふざけた口、二度と叩けないように八つ裂きにしてあげる」
私の純粋な殺意を受けても、兄は余裕の笑みを崩さなかった。
『そうか。残念だよ、カノン。僕のコレクションにならないと言うのなら……』
兄が、ホログラムの向こう側でパチンと指を鳴らした。
『無理やりにでも従えるまでさ』
――カッ!!
瞬間、私の足元にだけ、目も眩むような黄金の魔法陣が展開された。
「なッ……転移魔法!?」
「カノン様ッ!!」
「カノン!!」
四人が私に手を伸ばすより早く、私の視界は強烈な光に飲み込まれた。
強制的な空間転移。圧倒的な魔力差がなければ成立しない、問答無用の神業だ。
次に視界が晴れた時。
そこはもう、国境の門ではなかった。
見渡す限りの金銀財宝で埋め尽くされ、壁も床もすべてが黄金で設えられた、悪趣味なほどに豪奢な玉座の間。
そして、私の目の前には、ホログラムではない『本物』の兄が、玉座からゆっくりと立ち上がるところだった。
「……勝手に引きずり込んでおいて、なんの真似よ」
「歓迎するよ、愛しの妹。ゴミ共がいなくなって、ようやく空気が綺麗になった」
兄は優雅に両手を広げ、残虐な笑みを浮かべた。
「さあ、家族水入らずの『兄妹喧嘩』を始めようか」




