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極上のデザートと、黄金の国の噂

暴食の神が消滅したことで、美食の都を覆っていた狂気の魔法は解け、街には本来の活気と平穏が戻りつつあった。


旅立ちの朝。

 私たちは、リンが仮設した小さな厨房の前に集まり、彼女が腕によりをかけた朝食という名のフルコースを堪能していた。


「みんな、いっぱい食べるアル! 神様を倒したお祝いの、特製・幻獣肉の極上ローストネ!」

「んふーっ! リンのご飯、毎日食べても全然飽きない! 私、一生ついていくー!」


レヴィアが顔中を肉の脂まみれにしながら満面の笑みで頬張る。

 セラフィもミアも、静かに、けれど物凄いペースでお皿を空にしていった。リンが仲間になったことで、私たちの旅のQOL(食事の質)は間違いなく爆上がりしていた。


「ふぅ……美味しかったわ。リン、最高のご飯だった」

「えへへ、お粗末さまアル! ……でも、カノンお姉さん」


リンがエプロンを外し、頬をほんのり赤く染めながら、私の隣にピタッとすり寄ってきた。


「人間のご飯のあとは……お姉さんの『デザート』の時間ネ。私の血、いっぱい飲んでいいアルよ♡」


リンが色っぽく自分の白いうなじを差し出すと、それを聞いた三人がガタッと立ち上がった。


「なっ、新入りの分際で抜け駆けとはズルいぞ! カノン様、本日の食後は、高潔なる騎士の血をどうぞ!」

「ダメ。今日は私の番。カノン、いっぱい動いて疲れたでしょ? 私の血で癒やしてあげる……っ」

「私のお肉(血)が一番美味しいもん! カノン、がぶってしてー!」


四人のヒロインが、我先にと自分の首筋や手首を差し出して群がってくる。

 私は呆れたようにため息をつきながらも、ふっと妖しく口角を上げた。


「……はぁ。仕方ないわね。それなら、全員の血を味見してあげるわ」


私はソファに深く腰掛け、まずは一番近くにいたミアの腕を引き寄せ、その手首にゆっくりと牙を立てた。


「んぁっ……♡」

「……うん。ミアの血は、濃厚で甘い果実酒みたいな味ね。しなやかな筋肉のおかげで、雑味がなくて引き締まった味ね」

「ふふっ……カノンに褒められた……嬉しい……っ♡」


とろけるミアを横目に、次はセラフィの白いうなじに牙を突き立てる。


「あっ……カノン様、もっと、深く……っ」

「セラフィの血は、高潔で澄み切った温かいミルクみたい。すごく上品で、心が落ち着くわ」


続いて、レヴィアの健康的な肩口にカプッと噛み付く。


「あはっ! カノン、くすぐったーい!」

「レヴィアは……ふふ、熱くて甘い。まるで太陽を丸かじりしてるみたいにエネルギッシュね」


そして最後、期待に目を潤ませて待っていたリンの首筋に牙を立て、その熱い血をすする。


「んんっ……あはぁッ♡ お姉さん、しゅごい……っ」

「リンの血は……さすが特級料理人ね。繊細で、なんだか薬膳みたいに複雑で深い甘みがあるわ。やみつきになりそう」


私が順番にそれぞれの血の味を『品評』してやると、四人のヒロインたちは限界まで甘やかされ、顔を真っ赤にして私に抱きついてきた。

 朝からなんという激甘なハーレムだろうか。でも、こういう穏やかな時間こそが、私にとって何よりの安らぎだった。


――そんな風にいちゃいちゃしていると、店の外から「あの、ごめんくださーい……」と、控えめな声が聞こえた。


「誰アルか?」


リンが警戒しながらドアを開けると、そこには深いフードを被った数人の商人や街の住人たちが、山のような荷物を持って立っていた。


「あの……これ、私たちからの差し入れです。保存食や傷薬、旅の資金にしてください」

「差し入れ? どうして……」


私が首を傾げると、フードの男が一歩前に出て、敬意を込めて深く頭を下げた。


「あなた方は、『紅蓮の吸血鬼』様ご一行ですね。……この美食の都を、あの豚の支配から救っていただき、本当にありがとうございました」

「……私たちのこと、知ってるの?」

「ええ! 今、世界中で噂になっているんです。腐敗しきった神々を次々と討ち倒し、虐げられた者たちを救っている、気高く美しい吸血鬼と、眷属の少女たちの伝説が」


男の言葉に、私は少しだけ目を丸くした。

 ただ母の仇を討つために始めた、身勝手な神殺しの旅。それがいつの間にか、世界中で神の圧政に苦しむ人々にとっての『希望の噂』となり、隠れたファンや支持者を生み出していたのだ。


「私たちは表立って神に逆らう力はありませんが……どうか、この旅の無事を祈らせてください」

「……そう。あなたの祈り、確かに受け取ったわ。ありがとう」


私が気高く微笑んで受け取ると、商人たちはホッとしたように顔を見合わせた。


「ああ、そうだ。吸血鬼様、次に向かうのはもしかして東の『黄金の都』ですか?」

「ええ、そのつもりだけど」


私が答えると、商人たちの顔色が一気に青ざめた。


「あそこは……ヤバいです。今は『強欲の神』が支配しているんですが、あの神は文字通り『すべてを欲しがる』狂人です」

「すべてを欲しがる?」

「はい。金銀財宝はもちろん、あの国に入った者は、命すらも『神の所有物』として徹底的に管理され、搾取されるんです。一度入れば、二度と生きては出られない最悪の国だと……」


商人の震える声を聞いて、四人の眷属たちがピリッと空気を張り詰めた。

 だが、私は紅茶のカップを置き、ふっと冷たい笑みを浮かべた。


「……ええ、知ってるわ。どんなに強欲で、どれほど狂っているかもね」

「カノン様、あの神をご存知なのですか?」


セラフィが不思議そうに尋ねる。

 私は立ち上がり、真紅の大鎌をふわりと顕現させて、東の空を冷ややかに見つめた。


「ええ。だってあそこの強欲な神……私の、血の繋がった『お兄ちゃん』だもの」


「「「「ええええええええッ!?」」」」


四人のヒロインの驚愕の叫び声が、平和になった街の空に響き渡った。

 育ての親を手にかけた私を、今度は血の繋がった実の兄が待ち受けている。

 神殺しの旅は、より深く、よりドロドロとした『家族の業』の渦中へと進んでいくのだった。

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