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概念の捕食者と、神殺しの真紅

洗練された漆黒の闘神となった暴食の神。

 その漆黒の仮面の奥で、濁った黄色い瞳が凶悪に細められた。


『グハハハッ! 俺のデザートを増やしてくれるのか? 神と吸血鬼の混ざり物……極上の味に違いねぇ!』


暴食の神が、その漆黒の拳を虚空に向けて突き出した。

 その瞬間、彼の周囲の空間がぐにゃりと歪み、すべての光と魔力を吸い込む漆黒の渦――『概念のブラックホール』が発生した。


『喰らえェェッ! 「概念捕食」ッ!!』


凄まじい引力が、私を襲う。

 宮殿の大理石の床が、柱が、天井が、音を立てて砕け散り、暴食の神の胃袋へと吸い込まれていく。

 私の背後にいた四人の眷属も、その圧倒的な引力に耐えきれず、叫び声を上げながら宙に浮かび上がった。


「カ、カノン様ぁッ……!」

「身体が……ッ!!」


「セラフィ、みんなを護りなさい!!」


私は大鎌を床に深々と突き立て、彼から受け継いだ『怠惰の神の黄金の神格』を解放した。

 私の周囲に、神聖な黄金の結界が展開され、暴食の神の引力を辛うじて防ぎ止める。


(……なんて、エグい引力。空間そのものを喰らっているのね)


暴食の神の漆黒の仮面の奥から、勝利を確信したような下劣な笑い声が聞こえる。


『ヒハハハッ! その神格も、お前の血も、すべて俺の腹の中だァァッ!!』


私は、黄金の結界の中で、静かに目を閉じた。

 恐怖はない。あるのは、すべてを凍りつかせるような、絶対零度の怒りだけ。


(……喰うことしか頭にない、薄汚い豚。……その胃袋、私がかっ捌いてやるわ)


私は、怠惰の神の神格と、自身の神聖な血を、大鎌の刃に限界まで集中させた。

ん。


「……私の育ての親を不味いと言ったこと。……万死に値するわ」


私は、黄金の結界を霧散させ、引力の渦へと飛び出した。

 暴食の神の「概念捕食」が、私を飲み込もうと迫る。


『死ねェェッ、出来損ないがァァッ!!』


暴食の神が、最大出力の引力を放った、その瞬間。


私は、真紅に輝く大鎌を、暴食の神のブラックホールの渦に真っ向から叩き込んだ。


「――切り裂けッ!!」


――ヒュンッ!!


神殺しの刃が、暴食の神の「概念」レベルでの引力を物理的・魔術的に「切り裂いた」。

 ブラックホールの渦が一瞬にして真っ二つに裂け、暴食の神の胃袋へと至る空間が崩壊した。


『ば、馬鹿なッ……概念が、切り裂かれた……ッ!?』


暴食の神の漆黒の仮面に、ピキピキと亀裂が走る。

 引力の渦が切り裂かれたことで、暴食の神の体内に閉じ込められていた無数の命の光と、怠惰の神の『黄金の神格』が、彼のお腹からパクリと割れて溢れ出した。


『俺の、俺の力がぁッ……俺が喰ったモンがぁぁぁッ!!』


力の供給源を断たれた暴食の神の漆黒の肉体が、音を立ててブヨブヨに肥大化し始めた。捕食者の頂点としての洗練された姿は消え失せ、醜い肉の塊へと戻っていく。

 ざまぁみろ、ゲス野郎。


「……吐き出しなさい。あなたが奪ったすべてを」


私は溢れ出した怠惰の神の完全な神格をその身に宿し、自身の神聖な血と融合させた。

 全身から放たれる黄金と真紅の魔力が、暴食の神の醜い肉体を浄化するように照らし出す。


私は、無防備になった暴食の神の醜い腹に肉薄し、真紅に輝く大鎌で十字に切り裂いた。


――ザシュゥゥゥンッ!!


神の理をも断ち切る断罪の一撃が、暴食の神の巨体を十字に切り裂いた。

 断末魔の悲鳴を上げる間もなく、暴食の神の肉体はドロドロの泥のように崩れ落ち、やがて浄化の炎に包まれて細胞一つ残さず完全に消滅した。


「……終わったわ」


私が大鎌を霧散させ、小さく息を吐くと、背後から四人の眷属たちが一斉に駆け寄ってきた。


「主ッ! お怪我はありませんか!」

「カノン、すっごくかっこよかった……!」

「カノン様、あの暴食の神を……!」

「父さん、母さん……敵は、討ったアルよ……」


四人に囲まれ、ワーワーと騒ぎ立てられる。

 リンの瞳からは、涙が枯れ、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。


(……これで、三人目よ)


神殺しの旅は、大きな山場を越えた。

 暴食の神を倒したことで、彼に喰われていた無数の魂の光が、この美食の都の空へと解放されていく。その中には、きっとリンのご両親の魂も含まれているはずだ。


「さあ、一度街を出て、少しゆっくり休みましょう。」


私は、澄んだ青空を見上げた。


育ての親を喰らい、こんな美しい料理を作る少女から家族を奪った豚。

その醜い腹を切り裂いて、すべて吐き出させてやった。

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