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爛れた豊穣の街と、紅き竜の初甘噛み

オークション会場を後にした私たちは、色欲の神の宮殿がそびえ立つ王都の中心部へと足を踏み入れた。


「……気持ち悪い街。みんな、笑顔が薄っぺらいわ」


街の表通りは、一見すると平和で幸福な『子宝に恵まれた国』に見えた。

 道行く人々はふくよかで、あちこちで赤ん坊の笑い声が聞こえる。しかし、少し観察すれば、その異常さはすぐに浮き彫りになった。


カフェのテラス席で、見知らぬ男と熱烈に口づけを交わす妻。そのすぐ横で、夫は別の女を膝に乗せてゲラゲラと笑い合っている。

 裏路地からは真昼間から娼館の賑やかな嬌声が響き、誰もそれを咎めない。「愛」や「貞操」といった概念はとうに溶け落ち、ただ本能のままに交尾と快楽を貪るだけの、倫理観の欠如した家畜の群れ。


「主、ご気分が優れないようであれば、私がこの不浄な街ごと……ッ!」

「いいえ、放っておきなさい。あんなペラペラな快楽に溺れる豚ども、視界に入れる価値もないわ」


私は殺気を放つセラフィを制し、足早に高級宿へと向かった。

 こんな悪趣味な神が作った街の空気、一秒でも早くシャットアウトしたかった。


***


夜。

 宿の最上階、防音の魔法をかけたスイートルーム。

 窓の外からは、夜になってさらに活気づいた街の狂騒が微かに響いていた。


「……ん、カノン。私、なんだか変……」


ベッドの上で、深紅の髪を持つ竜の少女――レヴィアが、落ち着かない様子でもじもじと身を捩っていた。

 昼間に屋台の串焼きを山ほど食べさせたはずなのに、彼女の健康的な小麦色の肌は不自然に熱を帯び、サファイアのような瞳が潤んでいる。


「お腹はもういっぱいなのに、喉の奥がカラカラするの。カノンの匂い嗅ぐと、胸の奥がぎゅってなって……変な感じ」

「ふふっ。竜の本能が、真の主を求めて渇いているのよ」


私は薄いネグリジェ姿のまま、ベッドに腰掛けるレヴィアの前に立った。

 彼女にはまだ私の一滴の血を与えただけで、正式な『眷属化(吸血による魔力譲渡)』を行っていない。彼女の強靭な竜の身体は、完全にカノンの魔力と血の味を欲して発情に近い状態になっていた。


「レヴィア。ただのご飯のスポンサーじゃなくて、私の『すべて』を受け入れる覚悟はある?」


私が艶然と微笑みかけると、レヴィアはコクコクと力強く頷き、両手を伸ばして私の腰にすがりついてきた。


「うんっ……! 私、カノンのものになりたい。カノンのおいしいの、いっぱいちょうだい……っ♡」

「いい子ね」


私はレヴィアの豊かな赤髪をかき分け、その健康的な小麦色の首筋に顔を埋めた。

 トクン、トクンと力強く脈打つ、生命力に溢れた竜の動脈。

 そこに、私の鋭い牙をゆっくりと、深く突き立てる。


「あッ……!? んぐぅッ……!!」


私の牙が食い込んだ瞬間、レヴィアの背中の竜翼がピンッと張り詰め、しなやかな身体がビクンッと大きく跳ねた。

 彼女の熱い血を吸い上げながら、私の神聖で冷たい魔力を彼女の体内へと直接注ぎ込んでいく。


「あはぁッ……! な、なにこれ……頭の中、真っ白に……あ、あぁぁんッ……♡♡」


無邪気だった彼女の口から、今まで出したこともないような甘く色っぽい嬌声が漏れた。

 眷属化の圧倒的な快感。雷に打たれたような多幸感の波が、彼女の脳髄をドロドロに溶かしていく。

 私はさらに深く牙を突き立て、彼女の極上の血をすする。


「はぁっ、はぁっ……カノン、カノォンっ……! もっと、もっと奥まで……私の中、カノンでいっぱいに、してぇっ……♡」


レヴィアは涙目で私の背中に腕を回し、自分の身体を押し付けるように激しくすり寄ってくる。

 外の街で繰り広げられているような、安っぽくて薄っぺらい快楽とは違う。魂の底から縛り付け、永遠の忠誠と愛を刻み込む、重くて甘美な絶対の盟約。


「あ……カノン様ぁ……っ♡」

「ずるい、カノン……私にも、私にもキスして……っ♡」


濃厚な血の匂いと魔力の波に当てられ、部屋の隅で控えていたセラフィとミアまでもが、顔を真っ赤にして息を荒らげていた。

 私は牙を離し、銀の糸を引いて恍惚とするレヴィアの唇に、そっと自分の唇を重ねた。


「んちゅ……ぷはっ。……ええ、順番よ。今夜は特別に、三人ともたっぷり愛してあげるわ」


私が真紅の瞳を妖しく細めると、三人のヒロインたちは完全に理性を飛ばし、歓喜の声を上げて私に群がってきた。


狂った街の喧騒をよそに、私たちの部屋だけは、朝まで甘く濃厚な血の匂いと、純度100%の重すぎる愛の嬌声で満たされ続けた。


そして翌朝。

 たっぷりと眷属たちの魔力と愛を吸い上げ、万全の状態となった私は、三人の凶悪なヒロインを従え、いよいよ色欲の神が座する『快楽の宮殿』へとカチコミの足を踏み出したのだ。

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