99 女王の微笑み2
「だぁからぁっ!エスト様を追放したから、バール帝国はひどい目に遭ってて良い気味だって言いました」
レビアが言い直し、頬を膨らませる。
誰かに対しての露悪的なことを2度も言わせたので、少々、気を悪くしたようだ。自分も言い直しをされれば腹も立つかもしれない。
ただ、そもそもレビアがエスト寄りの言動をするとは思わなかった。
そちらを女王リオナは意外に思う。
「エスト様って、確かに、あの娘は聖女だけど。貴女が良い印象を持っていたのが意外ねぇ。興味が無いかと思っていたわ」
一方で、内心では女王リオナもエストのことは認め始めていた。バール帝国では活躍することが出来なかったものの、最早『口だけ聖女』ではない。
ギガンヒッポスを消し飛ばし得る、ちゃんとした聖女だ。
「良い人ですよ、気遣いも出来て、明るくて、綺麗で可愛くて」
更にレビアがエストの美点を並べて、褒め称え始める。
あまり手放しで同性を褒めるような少女ではない。
「貴女、いつの間にエストさんの信者になったの?」
女王リオナは若干、呆れつつも尋ねる。
「そういうんじゃなくって、一回、パターガー様と歩いてたら、すれ違って。私のことを知ってて挨拶してくれて。援護もしてくれて。その後、お茶にも誘ってくださいました。そのお茶会も楽しかったんです」
レビアが嬉しそうに話す。
確かに一度、エストとお出かけをすると言っていた。当時も意外に思ったものだが、心酔している様子だ。
「貴女が誰か、って。私の護衛ってこと?」
それぐらいは知っていてもなんら不思議ではない。
「あとは、エスト様の義妹のアニスちゃんと、私、パターガー様の姉妹弟子なんですから」
レビアが肩をすくめる。
共通の知り合いがいるのであれば、親しくなるのも早いだろう。レビアとエストは同い年でもある。
「なるほどねぇ」
女王リオナは納得しつつも、聖女エストの気さくさが羨ましくもあった。
頭の中では別のことも考え始める。
(ティスとかいう女の父親が入国してきた。ちょうど、この時期に。しかも密偵だ、っていう男が)
エストのいたエルニス公爵家の有力な郎党だというメルンスト男爵。堂々と侵入してきて、さりげなく様々な場所に出入りして情報を得ていく。調べてみるとそういう男らしい。
娘であるティスの元へも立ち寄っていた。つまりエフローにあるカートの屋敷だ。
「エスト様の価値が分からなくて、今、酷いことになってて。しかも、その皺寄せを私たちに食らわせてるだなんて、許せないですよね」
女王リオナの思考になど気付かず、レビアがなおもバール帝国を悪しざまに言っている。
「そうねぇ、だから、外交問題なわけよ」
女王リオナは相槌を打つ。
(そもそも、エストさん一人が去っただけで、黒騎士の力が増した、というのがおかしいのよねぇ)
もともとバール帝国が黒騎士に手こずっていたのは、神出鬼没だったからだ。
しかし、今は単純に出現する魔獣の量と質に苦しめられているように見える。
「でも、今はまだ、その責任は問わない。むしろ、援助を求めてきたら助けてあげようかしらね」
冗談めかして女王リオナは言う。
大国で気位の高いバール帝国から援助を求めてくることは、ますありえない。だから冗談めかしているのだ。
「うーん、助けてあげるの、やだなぁ」
無防備にレビアがとんでもないことを言うのだった。
(本当は、あのティスって女とこの盗賊どもを。あの女の父親を通じて結びつけられないか。そう考えていたんだけどねぇ)
残念ながら今のところ、どの報告をどう分析しても、ティス・メルンストと盗賊を結びつけられる材料が見出だせない。
盗賊と連座していたということになれば、容易くカートから、ティスを引き剥がすことが出来る。
「バールにはいずれ、話はしないとね。ただ、あちらが落ち着いて。それと、我が国に、その盗賊たちと内通している者がいないか、それをしっかり確認してからにしようと思ってね」
女王リオナは微笑んでレビアに告げる。
まさか盗賊をだしに、恋敵を排除出来ないかを目論んでいた、などとは言えない。
「そうなんですね。陛下はそういうのまで、気にかけなくちゃいけないんですね」
愚直に感心してレビアが言う。更には『大変です』などと言って頷いている。
感の鋭いレビアですら、こんなものなのだ。
カートも例外ではない。
(多少は、癪だから揺さぶりはかけてやろうかしらね)
今頃は妻気取りで、カートの屋敷でふんぞり返っているのではないか。
想像するだけで腹が立つ。
女王リオナは机上の白紙につらつらと言葉を並べ始める。
(貴女にカートの何が分かるのかしら?結局、カート・シュルーダーというのは武人なのよ。搦手からの圧力もいなして、やり過ごせるぐらいでないと、相応しい女とは言えない)
つまり自分が相応しいのだ。
心の内でつぶやき、仕上がった文面に女王リオナは満足するのであった。




