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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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100/122

100 パターガーとクイッド

「よぉしっ、ここまでだ、全員、休憩っ!」

 練兵場での走行訓練を一段落させて、パターガーが大声をあげる。

(なまったってことはないけど)

 クイッドも汗を布切れで拭きつつ、水を飲む。かなりの汗をかいてしまったが、基礎体力は重要だ。そして体力をつけるには走るのが一番である。

「まったく、自由な人だよ、いつものことだが」

 パターガーがぼやきながら近づいてきた。

 カート不在につき、歩兵軍団の運用は副官のパターガーが担っている。訓練の差配や計画すらも自分で立てており、クイッドも手伝わされることが多かった。

「あまり、いつもと負担が変わらないんじゃないんですか?」

 カートがいても働いてばかりのパターガーを思い出してクイッドは尋ねる。

 午前は走行訓練。そして午後には模造武器を使った動きの訓練をする。

「そんなこたぁねぇ。大元を考えてくれるだけでも、俺は助かる。根本的に何をしたいか、部隊をどうしたいかは隊長次第だからな」

 言われると分かるような気もする。

(つまり、大枠はカート隊長が考えてて、パターガーさんはその実現のために細かいことをする)

 クイッドは黙って頷く。自分は今のところ、更にその下で2人の手のまわらないことをするべきだ。

「ずいぶんと神妙な顔じゃねぇか」

 パターガーが笑って告げると、豪快に水袋の水を飲み干した。

 見た目によらずあまり酒を飲まない。生真面目な男なのだ。

「役割分担ってあって、もっと言うと俺の役どころってあるじゃないですか。考えさせられることがあったので」

 クイッドは告げて、部隊の面々を見渡す。

 思い思いに休んでいて、談笑していた。訓練を重ねてきた、女王リオナ直属、100人の精鋭部隊だ。丸一日でも装備を背負って駆けていられる。

 自分はこの部隊の3番手に抜擢されたのだから、もっとよく気を回さなくてはならない。

「俺に出来ることと出来ないことがあって、聖女様にも出来ることと出来ないことがありました。他の人とでも、おんなじかなって」

 聖女エストの修行に付き合った。ギガンヒッポスの封印を解いてしまったことで、予定よりも速く打ち切っている。

 勉強になる旅だった。

「誰でも、なんでも出来るってわけじゃねえからな」

 肩をすくめてパターガーが言う。

「お前が伸びたんなら、おかしな任務だったが、送り込んで良かった。あの聖女様も力を増したんなら、尚更な」

 パターガーが更に加えて告げた。

 くだらない感傷だ、と馬鹿にされることもない。親身になって話を聞いてくれるから、本人の認識とは裏腹にパターガーは慕われている。

 鐘が鳴った。

「昼飯だな」

 ニタリと嬉しそうにパターガーが笑う。

「ご一緒しますよ。お邪魔でなければね」

 クイッドは戦い方のことなどで相談したいこともあり告げる。

 しかし、慌ただしげに身なりの良い男が自分たちを目掛けて走ってきた。

「パターガー副隊長殿っ!女王陛下から書簡です」

 ふうふうと息を切らせ、小太りの男が手紙を差し出す。確かに立派な封がしてあった。

「俺にかい?カートさんじゃなく?」

 パターガーが尋ねて顔をしかめる。

 女王リオナとカート・シュルーダーの関係性を思えば当然の疑問だ。

「それは、恋文ならともかく、命令書ならばあり得るでしょう」

 見た目によらず冗談のわかる人柄らしい。汗だくのまま使者の文官が笑って返した。

「まぁ、そりゃそうだ」

 パターガーがその場でビリビリと封を破った。いちいち丁寧に切って畳むなどということはしない。そこは見た目通りにガサツなのだった。

「私はテスロと申します。女王陛下の下で主に書類や指示書のお使いをしております」

 ニコニコと人懐っこそうに笑ってテスロが名乗る。

「俺はクイッドと言います。カート隊長やパターガー副隊長の部下です」

 クイッドもペコリとテスロに頭を下げた。一回りは年上そうに見えたからだ。

 その間も険しい顔でパターガーが書面に目を通していく。

「存じております。前途有望な若手で、聖女様の旅にも同行されたと聞きます」

 テスロが穏やかに微笑んで返す。

「あまり、お役に立てなかったんですけどね」

 クイッドは肩をすくめて返す。

 パターガーが目を通し終えるまで手持ち無沙汰なのだった。テスロもなぜだか帰ろうとはしない。

「んで?あんたは俺の返事待ちかい?」

 書面から目を上げてパターガーが尋ねる。

「ええ、お返事も賜るように、と」

 涼しい顔でテスロが答えた。

「陛下の勅命に逆らえるわけがねぇだろ。カートさんじゃあるまいし。承りました、と伝えてくんない」

 パターガーがぞんざいに告げる。

「私も同様に思いますが、指示は指示ですので」

 笑顔のまま頭を下げてテスロが背を向けた。

「あんたも昼休憩だろうに、大変だな」

 あまり表情を動かさずにパターガーが労う。

「この体型ですのでね。良い運動ですよ」

 そして笑ってテスロが去っていくのであった。

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