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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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101 パターガーとクイッド2

 食事時で軍の食堂に向かうはずのところ、パターガーが向かおうとはせずにため息をつく。

 女王リオナからの指令により、空腹すら忘れたらしい。

「まったく、ただでさえ忙しいってのに」

 既に見えないテスロの背中へ毒づくようにパターガーが言う。

「なんだったんです?それ?」

 クイッドは書状を指差して尋ねる。

「東へ行けってよ。部隊を率いてじゃねぇ。俺とお前に特命だ」

 パターガーが半ば投げやりになって告げる。

 ようやくクイッドにも不機嫌の理由が分かった。

「レビアちゃんと離れることになりますね」

 クイッドとも同い年であり、パターガーにべた惚れの美少女だ。パターガーの方も満更でもないようにいつも見える。

「なんで、あいつの名前が出てくる?」

 パターガーがギロリと自分を睨む。

 正解のつもりがかえって失言したらしい。

「いや、だって、この間もお昼にデートしてて。俺はいつも惚気られてばかりだから」

 クイッドはさらに失言を重ねる。

「俺がいつ惚気たって?」

 更にパターガーの瞳が剣呑な光を放つ。

 あまりからかっていい話題ではない。もともと分かってはいたが、そもそもパターガーが不機嫌になる理由がそれぐらいしか思い浮かばなかったのだった。

「くだらねぇこと言ってねぇで、おめえはもっと腕を上げろっ!まったく!ギガンヒッポスを聖女さんに倒してもらってねぇで、気を引き締めろ」

 いつもと言っていることが違う。

 最初に報告した時には、『それは仕方ねぇ。引きつけただけで上々、上々』と返してくれたのだから。

(ま、俺も男として不甲斐なかったとは思ってるから別に良いけど)

 クイッドは腰の手斧に意識を向けた。

 ギガンヒッポスのような大物を相手取って致命傷を与えられるとは思えない。

 仕留めるのは、あの編成ならエストで正解だったと思う。

「そういうお前こそ聖女さんとは」

 更にパターガーが言い募ろうとした。

「何もなしです。男性としてなんか、見てもらえませんでしたよ。弟みたいに思われてたんじゃ?同い年のはずですけど。近くにしばらくいたわけだけど、ちょっと綺麗過ぎて、無理です」

 クイッドは遮るようにして言い切った。

 さすがにパターガーも言葉を切る。

「失恋ですら、ないです。なんていうか。面倒を見なきゃいけない、姉みたいな感じでした」

 更に一気に説明した。

 パターガーが苦笑いだ。

「そうかい。思ったよりもちゃんと見えてるようで、それは安心した。血筋も身分も違いすぎるお嬢さんだからな」

 告げて、ようやく空腹を思い出したのか、パターガーが食堂に向けて歩き出す。

 クイッドも続いた。

「また、ご指名があれば、助けるつもりです。でも、そういう勘繰られそうな感情は少なくともお互いに無いんですよ」

 もう一度、クイッドは念押しのつもりで告げる。

 自分はエストにとって、ただ前衛だったのだろう。そして、エストがクイッドにできないことを、クイッドがエストにできないことを、すれば良い。

(何か、掴みかけているような気はしてる)

 クイッドは修行付き添いの後から思い始めていた。

 カートともクイッドとも違う、自分を活かすということについて。

(俺は、隊長たちとは違って、人間離れはしていない。出来ることには限りがある)

 王都で暴漢を速やかに制圧することも、小型の魔獣を殲滅することもクイッドにとっては、慣れていて手早く出来ることだ。

 だが、エストには出来ない。

「まぁ、少し、マシな面構えにはなった。その調子で精進しろい」

 機嫌を直してパターガーが言う。

 良い先輩なのだった。

「真面目に、レビアちゃん、本気なんだから、パターガーさんの方こそ、なんていうか」

 そしてクイッドは同い年の知人のために勇気を出して告げた。

 入隊した頃、孤児だった双子を引き取って、女王リオナ自らが、未来の護衛として訓練をさせ始めていたのがレビアだ。双子の兄ビアルともクイッドは親しい。

 パターガーが受け入れさえすれば、すんなりと進展していく恋路に見えた。

「だから、問題なんだろうが。弟子の将来を潰すようなことはしたくねぇ」

 初めてパターガーの横顔に影が差す。日差しのせいではない。

「素直な良い娘に育った。だが、俺が教えられるのは結局、人を殺す技術だけだったからな」

 何を引け目に感じることがあるのだろうか。

 時折、無意味にパターガーが見せる後ろ向きな姿だった。

「パターガーさんは、今やこの国の、軍の2番手なんですよ?」

 盗賊だったころのことを気にしているのだろう。

 だが、それも大した罪は犯していないのだ、と盗賊に苛烈なカートが話していた。あのカートが許すのだから、本当に大したことがなかったか、未遂段階でカートに倒されたのだろう。とクイッドは思っている。

「詭弁だ、それは」

 パターガーが吐き捨てる。

「今回の任務は別だ。カートさん不在で俺まで抜けろと。部下たちはサボるんじゃねえかと危惧してるだけだよ、俺は」

 無理矢理、パターガーに話を変えられた。

「ヨギラス殿が東の国境を荒らす盗賊団の根城を見つけたらしい。バール帝国側らしいな」

 仕事の内容をパターガーが告げる。

 もう、レビアとの話は一旦、言えざるを得ない。

「こんな、すぐに見つけるなんて、ヨギラス閣下はさすがですね」

 手放しでクイッドは賞賛する。

 敵を見つけてくるのが上手い。思えばギガンヒッポスの時も絶妙な距離で自分たちを見守ってくれていたらしい。

「あの人は、敵の動線を読むのが上手い。犯罪者なんかもだな。強いこととは別の才覚だよ」

 パターガーも認めているのだった。

「だが、気にかかるのは、一旦、集合してからだってことさ」

 パターガーが更に言う。

「誰かさんが南から来るんじゃねえかと。おれは見ているよ」

 

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