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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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97 デズモンドの力量2

 ノソノソと敵が接近してくる。鈍重だが確実に。

(黒騎士がアーノルド様の負傷を察したとして。また別の魔獣を差し向けてくる)

 アニスはデズモンドの顔を見上げる。

「さて、虫けらごときは容易く粉砕してみせるさ」

 そしてデズモンドが身を離す。

「殿下自ら前衛を?」

 アニスは愛馬に手で触れる。

「君のことは頼りにしているが、私は前衛だ。知っているだろう?」

 デズモンドが歩き始めた。

 ニール始め、近衛の一団も続く。闘気が彼らのうちから迸っていた。止められるものではない。

「敵はサカドゴミムシダマシにスタラグビートルです。殿下、ご無理だけは何卒」

 アニスは声を張り上げてデズモンドに警句を発し、自らも乗馬した。

 デズモンドが背中の両手剣を抜き放ち、掲げて応じる。

(頼れる背中ではあるのだけれど)

 ほうっとアニスは息を吐く。

 デズモンドの得物は長大な両手剣だ。近衛兵の一団に混じっていても、すぐにそれとわかる。

「アニス様、よろしいのですか?あの数ではいかに殿下といえど」

 レイラがまた近寄ってきて尋ねてくる。

「よろしいに決まってるでしょう?デズモンド殿下なら、確かにあれだけなら物の数ではない。私たちは余計なものが出ないよう、邪魔しないよう、絶対に注意を払わなくてはよ」

 アニスは馬上で辺りを見回す。

 空気の揺れ一つ逃さない。

(アーノルド様の時のような失敗はしない)

 露骨な区別だが、別に構わなかった。内心、義姉のエストに惹かれていたくせに何もしなかった上に、今更、後悔を露わにするアーノルドよりも、デズモンドの方が大切なのだから。

(お師匠様とレビちゃんもサカドゴミムシダマシとは、最近、戦ったらしいけど)

 容易く殲滅したらしい。

 自分たちはどうか。

 今は最大戦力のアーノルドがいない。

「ぶつかりますっ!」

 物見役の男性兵士ベクトンが叫ぶ。痩せた長身の男で視力に優れる。

 アニスにも見えていた。

 雄叫びとともにデズモンドを先頭に近衛兵が甲虫たちに襲いかかる。

 甲殻が千切れて、宙を舞う。

 振り回されるデズモンドの両手剣によって、斬り飛ばされたのだ。部位によっては粉砕された、という方が正確かもしれない。

 斬撃・打撃の威力だけならば、アーノルドと同等かそれ以上だ。細身の身体からは想像できないぐらい、膂力に優れている。

(すごい突破力だけど、敵の数が多いわね)

 時間と手間をかければ、デズモンドたちだけでも勝てそうだ。

「散開、殿下の打ち漏らしを、私たちが仕留めるわよ」

 冷静にアニスはレイラに告げた。

 馬を駆けさせる。風を頬に感じた。

 自らも騎射で一匹を仕留める。硬い甲殻に矢の効果は薄い。柔らかい腹や複眼、身体の継ぎ目などが狙い目だ。

 全身をくまなく覆えるものではない。動けば急所が顔を覗かせる。

「たぁっ」

 レイラも剣を振るう。一匹の脚を斬り落としたようだ。

 ほかの部下たちも孤立したサカドゴミムシダマシから優先して仕留めていく。

「ハッハッハッ!」

 デズモンドの高笑いが戦場に響く。昂ぶっているらしい。

(その笑い声はともかく、やはり殿下はお強い)

 巨大な両手剣を風車のように目まぐるしく使っていた。効率よく自分に向けられる手脚や相手の頭部を時には叩き潰し、と細かく技を使い分けていることも見て取れる。

 力任せだが、ただ力任せなだけではない。

 一方でやはり豪快だ。

 デズモンドの周りから順に敵が減っていく。本人が敵を求めて横にずれることで、着実に敵を減らしてはいるのだが。

 アニスは苦笑いだ。

(お義姉様とおんなじ。強いのは認めるけど。大好きだけど。機動性が無いのもおんなじ)

 デズモンド含めて近衛兵たちも乗ってきた馬を後方に留め置いて、わざわざ徒歩で戦っている。

 どうしても最初から離れたところを抜けようとする敵への対応が遅れていた。

 故に打ち漏らしが染み出してくるので、アニスたちも駆け回る羽目になっている。

 昔、似たような欠点をあげつらって本人が断罪したエストと、デズモンド本人も似たような欠点を有しているのだった。

「ハッハッハッ!キレが戻ってきたぞお!魔獣などいかほどのものかっ!」

 またデズモンドが調子に乗って叫んでいる。

 確かに戦い始めの時よりも更に速く、動きが鋭くなっていた。

「あの暴れぶりはアーノルド閣下よりもお強いのでは」

 レイラが呆気に取られている。

「直接、戦うと負けるそうよ?魔獣相手には良いのかもしれないけど」

 アニスは辺りに気を配りながら応じる。

 特に空からの敵にはデズモンドは無防備だ。

 だが、近衛の士気も高い。負傷者はいるようだが、死者は出ていないようだ。

 これだけ圧倒的に優勢であれば、中途半端に刺客を黒騎士が寄越したとしても容易く撃退出来る。

 やがて視界に動く魔獣が消えた。

「とりあえずは上々でしょうか?」

 アニスはデズモンドに近づいて尋ねる。

「そうだね。しかし、アーノルドの時みたいに、大物に不意を討たれては面白くない。物見を丁寧に出そう」

 両手剣についた甲虫の体液を荒布で拭いつつ、デズモンドが告げるのであった。

 


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