93 盗賊団2
その日は天幕を張って夜営とした。
広域を騎馬で盗賊や魔獣から守り抜く。その任務のため、ヨギラス麾下の騎馬隊は王都リクロを出ていることが多い。
部下たちも野営には慣れたものだった。
(我が国はどうなるのやら)
ヨギラスは焚き火の前で夜空を見上げる。
澄んだ夜空に星が煌めく。目で追うだけでも楽しく時を忘れる。
騎馬隊を充実させてくれたから、この程度で済んでいるし、やり甲斐もあった。盗賊に民が苦しめられることが無いようにしたい。
「だが、我が国よりも騎馬の扱いに長けた隣国が魔獣の対処に追われている」
独り言をヨギラスは呟く。
バール帝国には優れた騎馬隊も騎兵もいるというのに、聖女を失っただけで対応に苦慮していた。それはヨギラスの耳にも届いている。
「騎士団長閣下!」
偵察のため放っていた部下が戻ったようだ。比較的、年を食ったベテランであるハワードを送り込んでいた。白髪も混ざり始めているが、体力的にはまだ衰えていない。
「どうだ、国境周辺の状況は?」
ヨギラスは夜半までかけて部下からの詳細な報告を受ける。
一通り聴き終えてから自身もようやく就寝した。
翌日、部下たちの準備が整うのをヨギラスは待つ。
「騎士団長閣下、本日は?」
ロバートが代表して尋ねてくる。
「一応、敵の拠点を押さえておく」
短くヨギラスは告げた。
昨日、ハワードから盗賊団の本拠を見つけたとの報告を受けている。
「女王陛下に報告するにせよ、本拠を視認してからにしておきたい」
馬を歩かせつつヨギラスはロバートのみならず全員に向けて告げる。総勢100名の一団だ。装備も充実している。
「一筋縄ではいかないだろうがな」
ハワードからの報告を思い出してヨギラスは加える。
野営地から東進して国境を目指す。
「閣下、このままでは国境を」
半日ほど進んだところで遠慮がにロバートが言う。
「俺が昨日、見た限りではろくにバール側も哨戒をしていない。100名ぐらいなら、どうとでもなる」
代わりにハワードが口を挟む。
盗賊団を追跡したところ、国境を越えた先の山地に砦を構えていたのだ。
「ハワード殿、しかし、よろしいのですか?」
若いもののほうが、かえって慎重なところもあるのだった。
守られるものと破るものとの均衡について、まだ判断がつかないのだ。責任を取ることの出来る立場にはない、ということも大きいのかもしれない。
「むしろ、バール帝国側が、自国の問題をこちらにもたらした、という側面もある。侵入を咎められるのなら、こちらも返すべき言葉がある」
ヨギラスは不敵に言い放って、馬を歩かせ続ける。
「そう、なのですね」
今回の麾下100名には若者が多い。
迷うような雰囲気が漂う。そのまま国境を越える。ここからは用心せねばならない。全方位にヨギラスは物見を放つ。
「我が国は追い払ったが、黒騎士の力がバール側では増す一方だ。今回の盗賊もその影響かな」
ヨギラスは隣を進むハワードに尋ねる。ハワードにも5名の部下をつけていた。
「おそらくは。地方にまで、バール帝国中枢の目が行き届いていない。そういうことでしょう。生活も苦しいのかもしれません」
ハワードが淡々と応じる。
世間話に近い。
「あの、アーノルド殿も大型の魔獣に敗れて負傷したと聞く。いよいよ予断のならない状況だな」
ヨギラスは誰にともなく告げる。一様に部下たちの表情が固まった。
白銀の騎士アーノルドの名前は隣国であるラデン王国にも響き渡っている。特に騎兵である自分の部下たちの中にも尊敬している者が多くいた。
ヨギラスに至っては何度か会って言葉を交わしたこともある。
(個人の武芸で言えば、カートの方が上だと思うが。奴は機動性がなく、身体も1つしかない。だが、騎兵としてはアーノルド殿が周辺国では頂点にいる)
そのアーノルドが敗れて負傷したということの衝撃は大きい。
「それで、バール帝国側が荒れていると。そして今回の盗賊騒ぎですね」
ロバートが納得し、そして理解してため息をつく。
まだ甘い。
「これまでは、カートが南にいなかったから、そちらが荒れていたのが、北に移っただけだ。盗賊問題は以前から続いているのだ」
ヨギラスはラデン王国全土に騎馬による連絡網を広げつつある。
故に自分のもとに集まる情報は多く、そして速い。
カートがエフロー周辺の不法入国者を片っ端から叩きのめし、単身で山賊の砦を幾つか潰していることも把握していた。
(無論、南側からこの国を侵食されても困る。カートが南にいること自体は悪くない。むしろカートだから超法規的に、迅速に叩きのめすなんて手を使えるわけなんだが)
他の人間ならばともかく、そう簡単に女王リオナがカートを罰するわけもない。
「うん、あれか」
考えつつ馬を進めるうち、問題の山が見えてきた。
山の中に石造りの塀や木柵が並んでいる。
「騎馬隊単独で、他国ですぐに落とせるものではない、な」
ヨギラスは呟き、しばらく眺めて砦の防備を目に焼き付けるのであった。




