92 盗賊団
カート・シュルーダーが自領を守り始めたことで、ラデン王国南東部の国境がかなり硬くなった。片端から盗賊や不法移民を見つける度に打ち倒し捕縛しているらしい。
(それはそれで問題だ)
ヨギラスは馬を疾駆させつつ思う。
仕事は絶えない。聖女エストとともにギガンヒッポスを討伐した後も、ヨギラスとその直下兵団は忙しく駆け回っていた。
「まったく、カートの奴め」
ヨギラスは毒づく。
カートによる超法規的な処罰を恐れて、移民たちが北に流れてきた。中にはかなりたちの悪い者もいる。
前方をみすぼらしい服装をした、騎馬の男たちが5名駆けていた。
その背中をヨギラスは追う。部下たちも続いてきていた。
(みすぼらしいのは服装だけ)
ヨギラスは気を緩めることはない。みすぼらしい服装とは裏腹に、男たちは現に騎乗し、武器も所持していたからだ。
「騎士団長閣下!」
部下が声をかけてくる。声からしてロバートだろう。先行しすぎているというのか。
「全員、捕らえる。殺しても構わん」
ヨギラスも大声で応じた。
どうせ盗賊だ。言葉を呑み込む。油断を招くのは下策だ。
(盗賊、それもバール帝国人の。いや、下手をすれば)
隣国が荒れている。
かなり不穏な噂も立っていた。黒騎士をラデン王国から追ったことで、またバール帝国に戻ったらしい。魔獣も一際、強力なものがあらわれるようになり、中には竜種も散見されるとの報告もあった。
(そして、なぜ、奴らは騎馬なのか。馬は決して安くない。武器も、だ)
ヨギラスは思考を巡らせる。
敵の背中が大きくなってきた。
「逃がさん」
ヨギラスは鞘に入ったままの剣で、一番近くの男を殴り飛ばした。
「ぎゃぁぁっ」
振り向いて目を見開く盗賊の男。
殴り飛ばしたことで、走っている馬から男が転落する。
追い越しざまの一撃だ。避けることは出来ない。
「ぐっ、やってやる!くそ!くそっ!」
残りの4騎が足を止めて剣を抜く。
「やらせるわけがあるか。ここは俺たちの国だ」
ヨギラスも剣を抜き放つ。
一昔前の、騎馬が脆弱なラデン王国ではないのだ。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
既にロバートら、良い馬を駆る、自分の部下も距離を詰めていた。それぞれに盗賊団を殴り飛ばして落馬させる。
もう少し馬の質の劣る部下たちが、続いて追いつくと、落馬した男たちを縄で縛り始めた。良い連携で手際だ。
(慣れたものだな、俺たちも)
ヨギラスは部下たちの作業を見守る。何やら文句を言う盗賊たちは容赦なく叩きのめす。
「よくやった。大したことは知らんだろうと思うが。尋問はする。逃げた連中のねぐらとか、な」
ヨギラスは部下たちを労う。
襲われたのは軍の兵糧庫だ。50名ほどの一団に襲撃されたとの報告を受けて、ヨギラスは速応したのである。
(こういう時のための、騎兵だからな)
思うものの、現に9割方の盗賊には逃げられているのだから、誇れる戦果でもない。捕らえた5名も逃げ遅れたり、馬が負傷したりしていただけである。
「隊長、やはりおかしいです」
ロバートともう一人、デビンという部下が馬を寄せてきた。デビンの方は小柄で髪を逆立てているのだが、馬の扱いが上手い。
共に有望な若手であり、剣の腕も立つ。自分が副官を置くとなれば、どちらかに任せるだろう。
「何がだ?」
ヨギラスも違和感を覚えていた。敢えて言わずに聞き返す。他の部下たちも思うところはあるのだろうが、代表して話しかけてくるのはこの2名なのだった。
「汚いのは身なりだけです。多少、痩せてはいますが、肌艶も悪くありません。服装と合いません」
デビンが言葉を並べる。逆立てた髪とは裏腹に落ち着いた話し方をする若者だ。
「そうだな」
ヨギラスは頷く。
「武装がしっかりしているのもおかしいし、そもそも、こいつらはどこで50頭もの馬を得た?盗賊お抱えの馬匹など、聞いたこともない。突き詰めると、結論は1つしか無い、な」
ヨギラスは部下を見渡して告げる。
答えは部下たちの頭にもあるだろう。
「まさか、バール帝国の軍人が盗賊を偽装しているというのですか?」
ロバートが捕縛した盗賊たちを見て告げる。
「偽装なのか。本当に身を落としたのかは分からんがな」
ヨギラスもじいっと盗賊を見つめる。分かりやすい、身分証などあるわけもない。分かりやすい証拠なども同様だ。
(実際はもうちょっと複雑かもしれんな)
バール帝国側も分かりやすい、国際問題になりそうなことを容認しているわけがない。小国ながら狂戦士を抱えるラデン王国にちょっかいをかける。そんな余裕が、魔獣多発の情勢ではあるわけもないのだから。
バール帝国の地方軍人たちが魔獣だらけの国勢に絶望して見切りをつけたのではないか。生産活動も覚束ないので、喰うに困って軍人たちが盗賊を始めたのだろう。
(ま、それを聞き取りで確かめることになる)
ヨギラスは盗賊たちを見下ろして、思うのであった。




