135 練兵場にて2
「それにしても、やっとお戻りか。長かったな」
パターガーは観戦しつつカートに告げる。
近くでよく見ると、なぜだかげっそりとした顔をカートがしていた。
視線の先では、クイッドとエイトンが打ち合いを続けている。ともに一歩も退かず、互角の戦いを繰り広げていた。
お互いに本気だ。それが分かるからか、見物している兵士たちの応援にも熱が籠もっている
「なんだい、恋人と好き放題、よろしくやっているんじゃなかったのかい」
どこに疲れる要素があったというのか。
尚、盗賊討伐で一緒だったティスの方を見るに、そちらは活き活きとしていたので、その後、カート側に疲れるような出来事があったのだろう。
王都リクロで再会した時には、2人とも嬉しそうにしていたことも記憶に新しい。
(そういうのは、相手にも伝わるし、ティスさんもここ最近は、女王陛下に遠慮しようという感じは無いからな)
パターガーは他人の色恋沙汰については、冷静に見ることが出来ていた。
「陛下がエフローに来た。お前たちがティス殿を独占している間に、だ」
苦虫を噛み潰したような顔でカートが言う。
視線はクイッドたちに据えたままだ。なかなかトゲを含んだ物言いである。
話している間に、また、円盾を棒が直撃した。
豪快な音とともに歓声もあがる。なかなかの接戦だ。クイッドもエイトンも本気の表情だ。
(そりゃ、あんたはさぞや神経を擦り減らしただろうが、こっちはそんなこたぁ、知ったこっちゃねぇ)
パターガーやクイッドにとっては他人事なのであった。
毎回、八つ当たりに鬼ごっこを狭い練兵場でさせられるのではたまらない。
「そうですかい。モテる男は違うねぇ」
カラカラとパターガーは笑い飛ばしてやった。
「ぐおっ」
腿のあたりを模造斧が掠めて、エイトンが苦悶の声をあげる。
それでも立ったまま棒を振り回し続けていた。
クイッドも舌打ちでもしたのか。表情が一瞬、歪む。
一進一退といった戦況だが、小さく攻撃を当て始めているのはクイッドの方だ。
(だが、エイトンとやらも盾に当ててる一撃を見るに、直撃させられれば、ひっくり返そうにも見える)
パターガーは2人の模擬戦からも目が離せない。
(そこまでやる前に止めてやらねぇとな)
どちらかが大怪我を負って、任務に支障を来すようでも困るからだ。
カートが胡乱な眼差しで自分のことを睨みつけていた。あまり言ってよいことではなかったらしい。
「いつまで、お前もそんなことを言っていられるかな?レビア嬢に言い寄られているだろう?王宮でも評判の、可愛らしい娘じゃないか。そちらこそ隅に置けないな」
珍しく、カートからもレビアのことについて言及された。よほど、腹に据えかねたらしい。
当然に、カートもレビアがパターガーの弟子であることぐらいは、よく知っている。
最初はまだいたいけない、10歳ぐらいの子供だった姿が目に浮かぶ。今のしっかりとした女性らしくなった姿が続いて連想される。
「あれは、恋愛ごとじゃねぇ。懐かれているだけさ」
受け流すこととして、パターガーは言い切った。
師弟の関係だけはお互いに死ぬまで変わらない。
(流石に不味いだろう)
パターガーとしては思わずにはいられない。まだ子供が相手なのだから。一方でレビアも結婚は出来る年齢になっていることも、分かってはいた。ラデン王国では16歳から婚姻は出来る。
ただし、20歳より前の場合は、ほとんど貴族間ぐらいのものだ。
(そういや、クイッドの奴も、レビアと同い年だな)
時折、レビアとクイッドも王宮の警護などをこちらが請け負うと言葉を交わしている様子はあった。たいがい、クイッドが子供扱いされているらしい。
「なら、やっぱりお前の方がモテる。はるかに年下の少女から言い寄られて、しかも自分にはそんな気はないと言い切る。俺は自分からティス殿にガンガンと言い寄っていかないとどうにもならない。お前は自分のほうが頷けば、それで終わる」
分かるような分からないようなことをカートが言う。
自分が積極的にティスへ言い寄っている自覚もあることが判明した。
(まぁ、そんなことしねぇでも、あんたらは両想いでしょうが)
パターガーは内心で指摘する。
「おおっ!」
どよめきが上がった。
クイッドがエイトンの一撃を円盾でまともに受けたようだ。体格差も相まって、かなりの距離を飛ばされている。
「いてぇ」
クイッドが吐き捨てて立ち上がる。兵舎の壁にまで叩きつけられていた。
(この人はあんなのをどこで見つけてくるんだか)
パターガーは人材としてエイトンを拾ってきたカートにも呆れる。一般の隊員たちにとっても、どちらが3番手なのか、は興味深いらしい。カートと自分の手合わせよりも明らかに盛り上がっていた。
「あいつはまだ子供だよ。頷いちまったら、それで終わる」
パターガーは横を向いて言い放つのであった。




