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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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136/143

136 練兵場にて3

「このっ、もう、本気だ」

 クイッドが円盾を構えて、距離を詰める。

 果敢にエイトンの懐に入っていた。強烈な一撃も本来、懐で距離を詰められると放ちづらい。

(だが、ここまでは、エイトンとやらも上手くクイッドの攻撃を捌いて、盾ごと飛ばしていた)

 パターガーはカートと話しながらも戦況をずっと目で追っかけていた。

「俺は上長として、お前の相手がレビア嬢だったとして、祝福こそすれ、咎め立てはしない」

 しかし、隣でカートが聞き捨てならない、余計ごとを言う。

 極めて真面目に、低い声での言葉だ。

「あんたまで、何を言い出すのやら」

 苦笑いを浮かべてパターガーは返すに留めた。

「あのむすめは、お前がうなずくまで、何年でも待つだろう。そして、ずっとこの話は王宮で続くこととなる」

 さらに妙な予言をカートがするのだった。

「おかしなことを断言するんじゃありませんよ」

 呆れてパターガーは返す。

 いい加減、クイッドとエイトンの勝負もつきそうだ。ともに肩で息をしている。長い時間の戦いではなくとも、一撃一撃を本気で放ち、躱していれば疲労するのも当然だった。

「仕掛けるっ!」

 クイッドが叫んで距離を詰める。

「うおおおっ」

 一方、迎え撃つ格好となったエイトンが棍棒を振り下ろした。

 ここまでは盾で受けていたところ、クイッドが紙一重で身体をよじって躱す。

「なにっ」

 意表を突かれたエイトンの腹部。

「でえぃっ」

 クイッドが円盾で殴り飛ばす。

「ぐはっ」

 エイトンがひっくり返ってしまった。

「勝負ありだな」

 誰かが宣言していた。

 クイッドの勝ちだが、何年も仕込んでいた若手である。

(そこと、早速、互角なんかい)

 パターガーはクイッドに助け起こされているエイトンを見て思う。

「あんなのをよく、拾ってきたもんだ」

 カートにパターガーは告げた。

「俺と同じ、盗賊あがり、か」

 さらになんとなく言わずにはいられなくて、パターガーは呟く。

「お前とは違う。何度も言わせるな。お前は、俺が止めてやった。だから盗賊じゃない」

 スパッとカートが言い切った。

「止めてやった俺の顔を立てろよ。妙な負い目を人に見せるな」

 さらに淡々とカートが言葉を並べる。

 突き詰めるとレビアを受け入れろ、という話にいつもはなるのだが。

「分かってるよ、あんたに言わせれば、そりゃそうさ」

 パターガーは肩をすくめて告げた。

 止めてもらえた貸し借りは間違いのないことだ。

「レビア嬢にも、だ。あの娘は真面目だ。お前が自分を盗賊といいだすと、決まって悲しい顔をする」

 結局は嫌なことをカートが言う。

「俺が盗賊ですらなかったとして、それでも軍人してるんだ。いつ死ぬかもわからねぇ」

 パターガーは首を横に振った。

「そんな事を言っていたら、俺の部下は全員、未婚でならなくてはならなくなるし、俺も結婚できん」

 極めて真面目な顔でカートが言う。

「あんたがティスさんと一緒になりたいってだけかい」

 冷やかしたくなって、パターガーは軽口を叩く。

「そうかもしれん」

 照れるか怒るかと思っていたところ、カートがすんなりと頷く。

 ちょっと驚くような反応だ。

「女王陛下は?相変わらずなんだろう?」

 パターガーは氷のような表情の女王リオナを思い浮かべて尋ねる。

「振ってきた」

 さらりとカートが言う。

「なるほど」

 これにはパターガーも驚かない。もともと、カートという男の意思表示はいつもはっきりしている。

「いや、振る準備があるという話をしたというべきか?なんとも微妙な話になったんだよ」

 カートが首を傾げる。

 問題は女王リオナもカートの人柄をよく分かっていて、決定的なことを言わせないということだ。

 告白すれば振られる。だから、告白もしないのできたのだった。

(まぁ、そこはこの人を責めるのは可哀想かもしれんな)

 ティスに対する女王リオナの行動についても、ハッキリとダメだと言える分かりやすさが無いと、カートとしても動きづらい。庇いようもないのである。

「女王陛下の、あんたへの気持ちは根が深いからなぁ」

 なんとなくパターガーは相槌を打つ。

 カートが何事かを言いかけて口をつぐむ。

 クイッドとエイトンが並んで歩み寄ってきたからだ。

「参った」

 クイッドが笑顔で言う。

「勝ちましたけど、この人、俺よりめ強いです」

 更に加えてクイッドが笑う。

「勝った上で言われてもな。俺は後で隊長にどやされるよ」

 穏やかにエイトンが返す。

「お前は負けてヘラヘラするな」

 そして本当にカートが杖でエイトンの脛を叩く。

「ぐあっ。隊長、そこはクイッド君の一撃が」

 エイトンが苦悶の表情で言う。

「分かってるから狙った」

 冷たくカートが告げる。

「頃合いが悪いな。虫の居所の良くない時に軽口を叩けば、そりゃやられるさ」

 カラカラとパターガーは笑う。

「まぁ、叩いておいてなんだが、少々やり過ぎたな」

 そしてカートが反省して告げるのであった。

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