136 練兵場にて3
「このっ、もう、本気だ」
クイッドが円盾を構えて、距離を詰める。
果敢にエイトンの懐に入っていた。強烈な一撃も本来、懐で距離を詰められると放ちづらい。
(だが、ここまでは、エイトンとやらも上手くクイッドの攻撃を捌いて、盾ごと飛ばしていた)
パターガーはカートと話しながらも戦況をずっと目で追っかけていた。
「俺は上長として、お前の相手がレビア嬢だったとして、祝福こそすれ、咎め立てはしない」
しかし、隣でカートが聞き捨てならない、余計ごとを言う。
極めて真面目に、低い声での言葉だ。
「あんたまで、何を言い出すのやら」
苦笑いを浮かべてパターガーは返すに留めた。
「あのむすめは、お前がうなずくまで、何年でも待つだろう。そして、ずっとこの話は王宮で続くこととなる」
さらに妙な予言をカートがするのだった。
「おかしなことを断言するんじゃありませんよ」
呆れてパターガーは返す。
いい加減、クイッドとエイトンの勝負もつきそうだ。ともに肩で息をしている。長い時間の戦いではなくとも、一撃一撃を本気で放ち、躱していれば疲労するのも当然だった。
「仕掛けるっ!」
クイッドが叫んで距離を詰める。
「うおおおっ」
一方、迎え撃つ格好となったエイトンが棍棒を振り下ろした。
ここまでは盾で受けていたところ、クイッドが紙一重で身体をよじって躱す。
「なにっ」
意表を突かれたエイトンの腹部。
「でえぃっ」
クイッドが円盾で殴り飛ばす。
「ぐはっ」
エイトンがひっくり返ってしまった。
「勝負ありだな」
誰かが宣言していた。
クイッドの勝ちだが、何年も仕込んでいた若手である。
(そこと、早速、互角なんかい)
パターガーはクイッドに助け起こされているエイトンを見て思う。
「あんなのをよく、拾ってきたもんだ」
カートにパターガーは告げた。
「俺と同じ、盗賊あがり、か」
さらになんとなく言わずにはいられなくて、パターガーは呟く。
「お前とは違う。何度も言わせるな。お前は、俺が止めてやった。だから盗賊じゃない」
スパッとカートが言い切った。
「止めてやった俺の顔を立てろよ。妙な負い目を人に見せるな」
さらに淡々とカートが言葉を並べる。
突き詰めるとレビアを受け入れろ、という話にいつもはなるのだが。
「分かってるよ、あんたに言わせれば、そりゃそうさ」
パターガーは肩をすくめて告げた。
止めてもらえた貸し借りは間違いのないことだ。
「レビア嬢にも、だ。あの娘は真面目だ。お前が自分を盗賊といいだすと、決まって悲しい顔をする」
結局は嫌なことをカートが言う。
「俺が盗賊ですらなかったとして、それでも軍人してるんだ。いつ死ぬかもわからねぇ」
パターガーは首を横に振った。
「そんな事を言っていたら、俺の部下は全員、未婚でならなくてはならなくなるし、俺も結婚できん」
極めて真面目な顔でカートが言う。
「あんたがティスさんと一緒になりたいってだけかい」
冷やかしたくなって、パターガーは軽口を叩く。
「そうかもしれん」
照れるか怒るかと思っていたところ、カートがすんなりと頷く。
ちょっと驚くような反応だ。
「女王陛下は?相変わらずなんだろう?」
パターガーは氷のような表情の女王リオナを思い浮かべて尋ねる。
「振ってきた」
さらりとカートが言う。
「なるほど」
これにはパターガーも驚かない。もともと、カートという男の意思表示はいつもはっきりしている。
「いや、振る準備があるという話をしたというべきか?なんとも微妙な話になったんだよ」
カートが首を傾げる。
問題は女王リオナもカートの人柄をよく分かっていて、決定的なことを言わせないということだ。
告白すれば振られる。だから、告白もしないのできたのだった。
(まぁ、そこはこの人を責めるのは可哀想かもしれんな)
ティスに対する女王リオナの行動についても、ハッキリとダメだと言える分かりやすさが無いと、カートとしても動きづらい。庇いようもないのである。
「女王陛下の、あんたへの気持ちは根が深いからなぁ」
なんとなくパターガーは相槌を打つ。
カートが何事かを言いかけて口をつぐむ。
クイッドとエイトンが並んで歩み寄ってきたからだ。
「参った」
クイッドが笑顔で言う。
「勝ちましたけど、この人、俺よりめ強いです」
更に加えてクイッドが笑う。
「勝った上で言われてもな。俺は後で隊長にどやされるよ」
穏やかにエイトンが返す。
「お前は負けてヘラヘラするな」
そして本当にカートが杖でエイトンの脛を叩く。
「ぐあっ。隊長、そこはクイッド君の一撃が」
エイトンが苦悶の表情で言う。
「分かってるから狙った」
冷たくカートが告げる。
「頃合いが悪いな。虫の居所の良くない時に軽口を叩けば、そりゃやられるさ」
カラカラとパターガーは笑う。
「まぁ、叩いておいてなんだが、少々やり過ぎたな」
そしてカートが反省して告げるのであった。




