134 練兵場にて1
王都リクロ、歩兵隊の練兵場にて。
無数の降り注ぐ矢をカートが仕込み杖で全て薙ぎ払う。
「どういう目をしてるんだ?」
「あれ、今、見切れたか?」
いつの間にか訓練を怠けて見物を始める者が増え始めた。
パターガーは距離を置いて弓に矢を番える。
カートがじっと自分を見つめていた。動きの激しさに惑わされることはない。
(開けた場所でなけりゃ、もうちょっと勝負にはなるが)
パターガーは唐突に動き始めたカートに牽制の矢を速射する。
「うわっ、あんなの」
誰かが叫ぶ。本物の矢と仕込み杖だ。お互いに当てれば怪我では済まない。
(当たらねぇと分かっているから撃ってんだよ)
パターガーは物ともせずに全ての矢を仕込み杖で叩き落とされた。
それでも距離だけは詰めさせない。そうするとジリ貧になるのは、いつか矢が尽きる自分のほうだ。
勝てなくても構わない。お互いに身体を鈍らせないために戦いのふりをしているだけだ。
「ただのじゃれ合いだよ。それより、俺とエイトンさんの方が面白いんじゃないかな?どっちが上か、本気で決めるつもりだから」
クイッドが口を挟む。いつも通り、手斧と円盾を装備している。
「それは、年齢的におれのほうだろう。クイッド君には悪いが、実戦経験が違いすぎる」
巨漢のエイトンが応じている。
二人のやり取りを横目で見つつも、パターガーはカートから逃げ回っていた。
それなりの動きでなければ、お互い、慣らしにもならないのだ。
「そろそろ、いいか」
カートが仕込み杖の鞘を拾っていた。一度は地面に落としていたのを、拾い直したらしい。
両手に武器を持つカートの危険性を、パターガーは誰よりもよく分かっていた。
「いやいや、待て待て」
パターガーは慌てる。
いつもなら、ここまではしない。
「待たない。たまにはいいだろ」
カートが薄く笑う。
「あの2人は、なんであんな高速で動いていて会話できるんだ?」
「笑ってないか?2人とも」
一応、王都リクロの練兵場を使っているのは、精鋭であるカートの直属の部下たちだけだ。全員、それなりの練度を誇る。腕利き揃いのはずなのだが。
(俺たちの動きには目すらもついてこられないってか)
パターガーは思いつつ、弓と矢に魔力を込める。
「しっ!」
風を纏った矢がカートへと迫る。
至近距離の一撃だ。カートも接近しすぎていたのである。
「おうっ」
カートが仕込み杖でまともに矢を受けて、後方へと吹っ飛ぶ。
受けられるだけでもおかしい。
並の相手であれば、見切ることも出来ずに直撃を受ける。黒騎士ですらも、見切ることは出来ず、鎧でまともに受け続けていたものだ。
矢筒の残りが心許ない。
「おい、これは運動だろう?」
パターガーは怒鳴る。
「良い運動だ」
カートが短く返す。両手に持った仕込み杖と鞘で、無数の矢を捌き続けている。
仕込み杖で抜き打ちを放つ。不意討ちでもあるが、本命はカートの場合、両腕を存分に振るう連打だ。
(まったく、嫌な思い出だ)
パターガーは思いつつ練兵場を逃げ回る。
唐突にカートが動きを止めた。
「これぐらいでいい」
カートが仕込み杖を収める。自分の脚をチラッと見てから、引きずって歩き始めた。
「おおっ、凄かった!」
誰かが叫んでいる。
「部下とはいえ、俺たちの手の内をあまり、これ以上は晒したくない」
淡々とカートが宣言していた。
「あのまま、やり合ってたら、どっちが勝ってたんだ?」
若い兵士が誰かに尋ねている。
「そりゃ、本気を出せば、死ぬまでやるんならカート隊長が勝つ」
会話にパターガーは割り込んだ。
「お互いに死なないところで済ますんなら、勝負はつかん」
これ以上は説明出来ない。カート本人が秘匿しているからだ。
「そうなんですね。隊長がお強いのは、知識としては、知っていましたけど、実際に、副長との手合わせをみていると、本当に凄いなって」
確かディランドという若手だったはずだ。地方軍で順当に軍務を重ねてから、幾らかの実績をあげて異動してきた。
「隊長は強いさ。本当に人か、と思うほどだな」
パターガーは応じた。
今度はクイッドとエイトンが手合わせを始めるらしい。
「とんでもないのを、拾ってきたな」
パターガーは杖を地について観戦する構えのカートに告げる。
「打ちのめして、ドヤしつけてたら成長した。あの、棍棒を振り回す才覚はなかなかだと思う」
2人に目を向けたままカートが言う。
「クイッドよりも大振りだが一撃は強い」
カートが言うのと同時、轟音が耳に入ってきた。
エイトンが力任せに棍棒を振り下ろしたのだ。
盾で上手く、クイッドが捌いている。更に模造の手斧で斬り掛かっていく。
2人とも、カートや自分ほどには器用ではない。だから模造武器なのだ。
「元盗賊なんだと?」
パターガーは尋ねる。
「実際にやった。だから、お前よりも厳しくした。手下は皆殺しにして、その生命の責任を負わせた」
カートの目が険しい光を放つ。
それでも本人を殺すほどではなかったのだろう。
パターガーは思いつつ、エイトンとクイッドの手合わせを眺めるのであった。




