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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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134/143

134 練兵場にて1

 王都リクロ、歩兵隊の練兵場にて。

 無数の降り注ぐ矢をカートが仕込み杖で全て薙ぎ払う。

「どういう目をしてるんだ?」

「あれ、今、見切れたか?」

 いつの間にか訓練を怠けて見物を始める者が増え始めた。

 パターガーは距離を置いて弓に矢を番える。

 カートがじっと自分を見つめていた。動きの激しさに惑わされることはない。

(開けた場所でなけりゃ、もうちょっと勝負にはなるが)

 パターガーは唐突に動き始めたカートに牽制の矢を速射する。

「うわっ、あんなの」

 誰かが叫ぶ。本物の矢と仕込み杖だ。お互いに当てれば怪我では済まない。

(当たらねぇと分かっているから撃ってんだよ)

 パターガーは物ともせずに全ての矢を仕込み杖で叩き落とされた。

 それでも距離だけは詰めさせない。そうするとジリ貧になるのは、いつか矢が尽きる自分のほうだ。

 勝てなくても構わない。お互いに身体を鈍らせないために戦いのふりをしているだけだ。

「ただのじゃれ合いだよ。それより、俺とエイトンさんの方が面白いんじゃないかな?どっちが上か、本気で決めるつもりだから」

 クイッドが口を挟む。いつも通り、手斧と円盾を装備している。

「それは、年齢的におれのほうだろう。クイッド君には悪いが、実戦経験が違いすぎる」

 巨漢のエイトンが応じている。

 二人のやり取りを横目で見つつも、パターガーはカートから逃げ回っていた。

 それなりの動きでなければ、お互い、慣らしにもならないのだ。

「そろそろ、いいか」

 カートが仕込み杖の鞘を拾っていた。一度は地面に落としていたのを、拾い直したらしい。

 両手に武器を持つカートの危険性を、パターガーは誰よりもよく分かっていた。

「いやいや、待て待て」

 パターガーは慌てる。

 いつもなら、ここまではしない。

「待たない。たまにはいいだろ」

 カートが薄く笑う。

「あの2人は、なんであんな高速で動いていて会話できるんだ?」

「笑ってないか?2人とも」

 一応、王都リクロの練兵場を使っているのは、精鋭であるカートの直属の部下たちだけだ。全員、それなりの練度を誇る。腕利き揃いのはずなのだが。

(俺たちの動きには目すらもついてこられないってか)

 パターガーは思いつつ、弓と矢に魔力を込める。

「しっ!」

 風を纏った矢がカートへと迫る。

 至近距離の一撃だ。カートも接近しすぎていたのである。

「おうっ」

 カートが仕込み杖でまともに矢を受けて、後方へと吹っ飛ぶ。

 受けられるだけでもおかしい。

 並の相手であれば、見切ることも出来ずに直撃を受ける。黒騎士ですらも、見切ることは出来ず、鎧でまともに受け続けていたものだ。

 矢筒の残りが心許ない。

「おい、これは運動だろう?」

 パターガーは怒鳴る。

「良い運動だ」

 カートが短く返す。両手に持った仕込み杖と鞘で、無数の矢を捌き続けている。

 仕込み杖で抜き打ちを放つ。不意討ちでもあるが、本命はカートの場合、両腕を存分に振るう連打だ。

(まったく、嫌な思い出だ)

 パターガーは思いつつ練兵場を逃げ回る。

 唐突にカートが動きを止めた。

「これぐらいでいい」

 カートが仕込み杖を収める。自分の脚をチラッと見てから、引きずって歩き始めた。

「おおっ、凄かった!」

 誰かが叫んでいる。

「部下とはいえ、俺たちの手の内をあまり、これ以上は晒したくない」

 淡々とカートが宣言していた。

「あのまま、やり合ってたら、どっちが勝ってたんだ?」

 若い兵士が誰かに尋ねている。

「そりゃ、本気を出せば、死ぬまでやるんならカート隊長が勝つ」

 会話にパターガーは割り込んだ。

「お互いに死なないところで済ますんなら、勝負はつかん」

 これ以上は説明出来ない。カート本人が秘匿しているからだ。

「そうなんですね。隊長がお強いのは、知識としては、知っていましたけど、実際に、副長との手合わせをみていると、本当に凄いなって」

 確かディランドという若手だったはずだ。地方軍で順当に軍務を重ねてから、幾らかの実績をあげて異動してきた。

「隊長は強いさ。本当に人か、と思うほどだな」

 パターガーは応じた。

 今度はクイッドとエイトンが手合わせを始めるらしい。

「とんでもないのを、拾ってきたな」

 パターガーは杖を地について観戦する構えのカートに告げる。

「打ちのめして、ドヤしつけてたら成長した。あの、棍棒を振り回す才覚はなかなかだと思う」

 2人に目を向けたままカートが言う。

「クイッドよりも大振りだが一撃は強い」

 カートが言うのと同時、轟音が耳に入ってきた。

 エイトンが力任せに棍棒を振り下ろしたのだ。

 盾で上手く、クイッドが捌いている。更に模造の手斧で斬り掛かっていく。

 2人とも、カートや自分ほどには器用ではない。だから模造武器なのだ。

「元盗賊なんだと?」

 パターガーは尋ねる。

「実際にやった。だから、お前よりも厳しくした。手下は皆殺しにして、その生命の責任を負わせた」

 カートの目が険しい光を放つ。

 それでも本人を殺すほどではなかったのだろう。

 パターガーは思いつつ、エイトンとクイッドの手合わせを眺めるのであった。

 



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