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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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133/142

133 女王の帰還を受けて尚3

 なんとなくエストは、女王リオナの不調がカート由来のように思えてならないのだった。

「どうでしょうかね。そもそも陛下が体調を崩されることはあまり多くないのです。魔術師でもあらせられますから、魔力が身体を守っているのでしょうか」

 淡々とカートが言う。

(それは、あなたの場合じゃない?)

 そこは笑いたくなってエストは内心で指摘する。

 ラデン王国の狂戦士。当代ではカート・シュルーダーだ。

 他国には伏せられていたので、エストもバール帝国在籍中は分からなかったのだが。

(でも、脚を引きずっているのは、この人が初めて、か。なんでそんなことしてるのかしらね)

 自分は聖女である。エストはカートの脚を凝視した。

 自分の口から追及するようなことでもない。

 結論づけてエストは息をつく。

「で、ご用件は?」

 いつまでも女王リオナのことばかりでは、話が進まない。

 エストはカートに水を向けた。

「ヨギラス騎士団長の率いる騎馬隊にもっと金をかけるべきかと。具体的には馬匹や武器の類、あとは人員ももっと増やすべきでしょう。彼の能力は大勢を率いることで発揮される。これは、個人の武芸とは別の才覚です」

 とうとうとカートが用件を告げる。

 つまり予算を組んでやれということだ。

「ふうん」

 エストは腕組みした。

 悪い考えではない。ラデン王国の軍制は未だに歩兵部隊への極端な偏りが見られるからだ。

「彼らの重要性は私も認める。ラデン王国の歩兵は精強だけど、初動が遅い。いつかはその弱点を衝かれる。この間の王都襲来のこともそう」

 腕組みしたままエストは告げる。

 ただ、問題点もあるのだった。書類の束を机上の山から引っ張り出す。

「ただ、彼らは初動や索敵には強いけど、まだ馬上の武芸が弱いとか?そんな武器に拘る必要があるの?それで前に予算案を貴族議会に却下されてなかった?女王陛下も一応、却下の方を了承したらしいけど?」

 女王リオナでも増やせなかった予算を自分に増やせるとは思えない。

「そんな事を言っていたらいつまでも貧弱な武装と碌な武芸の師匠もつけられないままです。それにその決議は魔獣襲来やギガンヒッポス、盗賊団討伐よりも前の話です。今なら通る。だが、時機を逃すと人は有り難みを忘れる」

 特例的に再度、発議しろということらしい。

 エストも理解はできた。

「話はわかったけど、結構、重大な決議よ。女王陛下の復帰を待ちたいところね」

 そもそも代役をしているのもおかしい自分が、そんな発議までしてよいのだろうか。

「陛下は仮病かと思う」

 そしてカートがとんでもない言葉を返す。口調もしれっと崩している。

「急な無茶振りにも対応し得ると。貴女に箔をつけたいのだろう。正直、俺が驚くほどに務まっている。任せたこともだが。バールから聖女をせしめたのがよほど嬉しかったらしい」

 あまり表情が動かない。

(この人って本当に狂戦士なの?)

 騎馬隊の重要性もしっかり理解しているところも意外だが。

「だから、事前の話はしておくべきだが、あんたの名前での発議自体は、陛下も了承されるのではないかと思う」

 カートが淡々と言葉を並べる。

「いざとなれば、女王に代わって有能な聖女が飛び出してくる。これは、他国にとって恐ろしくも羨ましいことだから」

 カートがここまでで言葉を切った。

 突飛な考えではある。

(更には、自分の責任を軽くすれば、あんたとも結びれる可能性が出てくる。そこまで織り込み済みでしょうね)

 エストは苦笑いを浮かべた。

「いいわ。次の議題にあげる。起案は自分で作ってね」

 エストは更に思案を巡らせる。

(女王陛下の根回しには驚かされているけど。また、驚かされるかしら)

 自分でも大丈夫なようにあらかじめしてあった。

 貴族の諸侯に対しても同様であれば、会議では思わぬ反応を受けるのではないか。

(平然と了承されでもすれば、私は本当に驚く)

 エストとしては、そこを探るのにもちょうど良いのであった。

「了解した」

 カートが去ろうとしたところ。

「あっ」

 レビアが盆の上に焼き菓子を持って帰ってきた。

「シュルーダー卿、申し訳ありません。その」

 一応、貴人の足を止めさせたことで、レビアが謝罪する。

 下を向いて悄気ていた。表情に乏しく、人間離れしたカートが苦手な様子だ。

「いや、問題無い」

 カートがやはり表情を変えずに返す。

「すいません、カートさん。私が休憩したくてお菓子をお願いしていたので」

 エストも口添えした。

「ぶつからなかったので。この足だから、いつもの元気の良さでぶつかられるときついが」

 さらりとカートが負傷者であると告げる。

 レビアが複雑な顔だ。

「この娘はいつも明るくて元気が良い。パターガーの奴とは最近、どうなのか。あいつはいつもあの調子だから、自分から近寄ってくれる娘を見ていると、俺も救われる」

 エストはカートの言葉に驚いた。

「それが、帰還してから、無事だったお祝いしたいのに、まだ出来てません」

 パターガーのことでは遠慮をしないレビアが口を尖らせる。

「分かった。俺からも言っておく」

 すたすたとカートが去っていく。

「意外と良い人なのね」

 エストは率直に告げた。

「はい、だから、女王陛下もあんななんです」

 レビアも頷くのであった。

 

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