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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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127 回答1

 ティスが屋敷を出て10日後、カートは女王リオナとその一行の訪問を受けることとなった。一応、査察ということらしい。驚くことに留守中の王都リクロについては、聖女エストに丸投げしたと言っている。

 今のところは、特に問題かあった、とをカートも聞かない。聖女エストによって、つつがなく運営されている様子だ。

(しかし、いつまでいるのやら)

 既に20日近くが経過していた。

(いっそ、俺もティス殿を無断で追っかけて、盗賊どもとやらを皆殺しにしてしまえば良かった)

 カートは金色の瞳でじぃっと自分を見つめる女王リオナを前にして思う。ティスがいないと、このエフローでの生活も退屈なのだ。

「見事だわ、カート。もう、エフローはすっかり平穏だもの。また、王都に戻ってほしいのだけど」

 微笑んで女王リオナが言う。気のせいでなければいつもよりも声が弾んでいる。

 味気ない景観のエフローだが、王都リクロに籠りきりの女王リオナにとっては目新しいのかもしれない。

 良い気分転換ではあるのだろう。外出の度、カートは付き添いを務めてきた。

「王都リクロが荒れている、と。そういう話も聞きませんが?」

 カートは戸惑いつつも訊き返す。

「ええ、エストさんが上手くやっているようよ。ちょっと悪戯で、抜き打ちにはしたけど。大国バールの皇太子婚約者だったのだから。高度な教育は受けているの。あぁ見えて頭も良いのよ?あの娘は」

 ニッコリと女王リオナが言う。

「しかし、バールと我が国とではいろいろ違いすぎるのでは?」

 当然の懸念をカートは口にする。こういう時のために受け入れたとでも言いたいのだろう。

「あの娘は追い詰められた時のほうが強いから。それぐらいでちょうど良い思うの。かなり効率よく政務を執っているわね。時々、報告は受けているのよ、私も」

 上機嫌で女王リオナが言う。

 なぜ上機嫌なのか、カートとしては考えたくない点だ。

 ここ20日間、似たような話ばかりをしている気もする。

「国境を越えたところにいた、バールの軍人崩れの盗賊団も、ティスさんたちが討伐してくれたけど。隣国が荒れていると、私たちも落ち着かないわね。黒騎士の動静も分からないままだし」

 女王リオナが肩をすくめて告げる。

 静養も兼ねての来訪だとカートは言われていた。エフロー近郊の状況を実地で見ておきたかったとのこと。どちらかと言うと休んでいるのは女王リオナを自分に押しつけて遊んでいる、護衛の2人の方かもしれない。

「俺に、隣国の問題を解決して来いとおっしゃるのですか?」

 用心してカートは尋ねる。

 そして足と杖とを見た。

(それとも、ティス殿にそれを、押し付けるおつもりか?)

 現に他国へと、ティスを追いやっている。カートは女王リオナの言葉を待つ。

「そう、ね。貴方なら国境の垣根を取っ払えば、できるかもしれないわね。それも、本気を出せば、でしょうけど」

 頬に手を当てて女王リオナが言う。

 測るような視線を、カートの足と杖に注いでいた。

 同じように視線を注がれたとして、相手がティスであれば、自分は骨抜きになる。

 だが、女王リオナの場合、長年の関係性もあって、仕事相手としか思えない。

「やってくれるの?」

 ニッコリと女王リオナが笑う。

「ご命令とあらば」

 カートは即答した。

 忠誠心は自分なりにきちんと持っている。命令には従う。だが、黒騎士討伐にバール帝国へ自分が侵入するのは問題となるだろう。

(多分、一人で行っても侵攻と思われるだろうな)

 自分はラデン王国歩兵隊総隊長なのだから。

「そんな命令、出すわけないって知ってて、そんなことを言う」

 女王リオナも、どういうわけだか楽しそうなのであった。

 昔から自分といるときはいつも楽しそうなのだが。

「貴方をバール帝国へ安売りするわけがないじゃないの。ティスさんならともかく」

 少しだけ女王リオナの言葉にトゲが含まれる。

「ティス殿は軍属ではありませんよ。そもそも今回の盗賊討伐も行くべきではなかったと、俺は思いますね」

 カートは淡々と言い返した。

 女王リオナの金色の瞳がキラリと光を放つ。ただ陽光を弾いただけだ。

「私はただ依頼しただけよ?まさかすんなり向かうとは思わなかったけど」

 女王リオナがとぼけて言う。

 実際の文面をカートは知らない。目を通す前にティスが旅立ってしまったからだ。

 だが見られてもいいようにら本当に依頼という形を取っていたのだろう。

(この御方はそれぐらいはやる)

 カートはため息をつく。

「逆に、断って怖気づく姿を見ていたら、貴方はどう感じたのかしら?」

 それが答えだというのだろう。笑って女王リオナが告げる。

 カートは無言で女王リオナを見返す。相手も自分を見ているので、睨み合うような、見つめ合うような格好となった。

(もう、そういう話をきちんと、つけなくてはならないか)

 そして、流石に今回の盗賊討伐をティスに押し付けたことで、カートも疑いを確信に変えるのであった。




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