121 盗賊をめぐる折衝2
とりあえずはパターガーからも形だけの謝罪を貰って、それでこの場は終了だ。あとはパターガーやティスと軽く弁当の兵糧でもとりながら近況を交換したい。レビアとのことについては、からかい倒してやりたい。
アニスとしては、そのつもりだったのだが。
「申し訳ありませんが」
パターガーが忌々しげに、足元に転がる軍人もどきの盗賊を見下ろす。
もともと顔の造形が怖いので、アニスにとってすら、なかなか迫力がある。
(これに無条件で惚れ込めるのは、レビちゃんぐらいのものね)
可愛らしい姉妹弟子を思い起こしつつ、アニスはデズモンドにすがりつく。
「なかなか性悪な盗っ人だったんでね。開き直りやがって、俺は腹の虫が治まらないんでさぁ。腹には据えかねております」
パターガーが低い声で丁重に、しかし、ハッキリと苦情を申し立てた。
一国の皇太子が相手でも退くことはない。むしろ言うべきことを言っておかないと気が済まないらしい。
(お師匠様らしいわね)
アニスはデズモンドに身を寄せたまま嘆息する。
鎧の冷たさが心地よい。
「パターガー殿?それは、つまり?」
苦言を呈されるとは思っていなかったらしい。デズモンドが困っている。
よほど何か、開き直られた時にあったのだろうか。
「この男は俺が自分を討つと、貴国への宣戦布告になると。そう言っていたんですがね?それは間違いありませんか?」
盗賊男の言うとおりなら、自分たちとパターガーたちとは今、戦争をしている相手同士ということになってしまう。
そんな馬鹿な理屈はないのである。
「まぁっ」
よって、アニスはわざとらしく大きく目を見張る。
たかだか地方軍の軍人崩れの盗賊を討ったことで、バール帝国とラデン王国とが戦争をするわけもない。
「わが国は略奪を許している国家ではありませんよ?」
アニスはパターガーに首を傾げて言い切った。
「なんてことを言うんだ、この賊徒め」
デズモンドも眼尻をあげて捕虜を詰る。
「ご、誤解ですっ!殿下っ!わ、私は!」
盗賊が大声を上げた。
ちょうどラデン王国の若者が口の戒めを解いたのである。
「あら?そちらは?」
アニスは微笑んで少年に話しかける。
「クイッドと申します。ラデン王国歩兵隊に所属しております」
落ち着いた口調でクイッドが名乗った。
「お師匠様がつけているぐらいだから腕が立つ人なのでしょう?」
アニスはパターガーに問う。有能な人材は頭に入れておいた方がいい。どこで再会し共闘するからも分からないのだから。
「誤解だと?ならなぜ、軍営ではなく、こんな山の砦の中にいる?周りにいるのも賊徒ばかりではないか。私もパターガー殿の気持ちはよく分かる。自国の民を襲われて軍人が黙っていられるものかっ!」
デズモンドが一喝している。
「そもそも、誰が私への直答をお前に許可したのだっ!」
つまりは盗賊の言い訳など聞く気はないということだ。
「その論法だと俺も黙っているべきでしょうかね」
生真面目な顔でクイッドが言う。
「まぁまぁってところではありますかね。うちの若手の中じゃ有望株ですがね」
パターガーが笑って告げる。
「あまり強い人たちじゃありませんでしたから。パターガーさんやカート隊長との訓練の方がきつかったです」
肩をすくめてクイッドが言う。
「あと、この人はギャフォードっていう地方軍の人だそうです」
さらりとクイッドが加えてギャフォードの身元を明かす。
「他にも結託しているものが、この辺りの地方軍にいないか。私のほうで調査をしておきますわ」
アニスは微笑んで告げる。
「大丈夫かい?君も激務だろうに」
デズモンドが気遣ってくれた。
「問題ありませんわ」
本当はまた少し寝る時間を削ることとなるだろう。
アニスは思いつつも笑顔を見せた。デズモンドにあまり弱いところを見せたくない。心配もさせたくないのだが。
「まぁ、こっちとしちゃ、そちらが話しの分かる方々で良かったい。俺は最悪、ここで戦闘になると思っていましたよ」
ボソッとパターガーが呟く。
来るのが自分やデズモンドとは限らないことを思えば、当然の危惧だった。
「こちらも良かったですわ。お師匠様と交戦すれば、こちらの兵士はただでは済まないんですから」
アニスは肩をすくめて見せた。
「アニスの言うとおりだ。パターガー殿、それにこちらを見くびりすぎだ。この鼠賊にも言ったが、自国の民を傷つけられて、黙っていられる為政者はいない。貴殿の気持ちは理解している」
苦虫を噛み潰したような顔でデズモンドが言う。
バール帝国側の手落ちであることは明らかだ。決まりが悪いのだろう。
「では、丁重に御礼を申し上げて、ご帰還いただくということでよろしいですね?本来、我々が駆除すべき賊徒を倒してもらったのですから」
アニスは一件落着のつもりで双方に告げるのだった。




