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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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121/124

121 盗賊をめぐる折衝2

 とりあえずはパターガーからも形だけの謝罪を貰って、それでこの場は終了だ。あとはパターガーやティスと軽く弁当の兵糧でもとりながら近況を交換したい。レビアとのことについては、からかい倒してやりたい。

 アニスとしては、そのつもりだったのだが。

「申し訳ありませんが」

 パターガーが忌々しげに、足元に転がる軍人もどきの盗賊を見下ろす。

 もともと顔の造形が怖いので、アニスにとってすら、なかなか迫力がある。

(これに無条件で惚れ込めるのは、レビちゃんぐらいのものね)

 可愛らしい姉妹弟子を思い起こしつつ、アニスはデズモンドにすがりつく。

「なかなか性悪な盗っ人だったんでね。開き直りやがって、俺は腹の虫が治まらないんでさぁ。腹には据えかねております」

 パターガーが低い声で丁重に、しかし、ハッキリと苦情を申し立てた。

 一国の皇太子が相手でも退くことはない。むしろ言うべきことを言っておかないと気が済まないらしい。

(お師匠様らしいわね)

 アニスはデズモンドに身を寄せたまま嘆息する。

 鎧の冷たさが心地よい。

「パターガー殿?それは、つまり?」

 苦言を呈されるとは思っていなかったらしい。デズモンドが困っている。

 よほど何か、開き直られた時にあったのだろうか。

「この男は俺が自分を討つと、貴国への宣戦布告になると。そう言っていたんですがね?それは間違いありませんか?」

 盗賊男の言うとおりなら、自分たちとパターガーたちとは今、戦争をしている相手同士ということになってしまう。

 そんな馬鹿な理屈はないのである。

「まぁっ」

 よって、アニスはわざとらしく大きく目を見張る。

 たかだか地方軍の軍人崩れの盗賊を討ったことで、バール帝国とラデン王国とが戦争をするわけもない。

「わが国は略奪を許している国家ではありませんよ?」

 アニスはパターガーに首を傾げて言い切った。

「なんてことを言うんだ、この賊徒め」

 デズモンドも眼尻をあげて捕虜を詰る。

「ご、誤解ですっ!殿下っ!わ、私は!」

 盗賊が大声を上げた。

 ちょうどラデン王国の若者が口の戒めを解いたのである。

「あら?そちらは?」

 アニスは微笑んで少年に話しかける。

「クイッドと申します。ラデン王国歩兵隊に所属しております」

 落ち着いた口調でクイッドが名乗った。

「お師匠様がつけているぐらいだから腕が立つ人なのでしょう?」

 アニスはパターガーに問う。有能な人材は頭に入れておいた方がいい。どこで再会し共闘するからも分からないのだから。

「誤解だと?ならなぜ、軍営ではなく、こんな山の砦の中にいる?周りにいるのも賊徒ばかりではないか。私もパターガー殿の気持ちはよく分かる。自国の民を襲われて軍人が黙っていられるものかっ!」

 デズモンドが一喝している。

「そもそも、誰が私への直答をお前に許可したのだっ!」

 つまりは盗賊の言い訳など聞く気はないということだ。

「その論法だと俺も黙っているべきでしょうかね」

 生真面目な顔でクイッドが言う。

「まぁまぁってところではありますかね。うちの若手の中じゃ有望株ですがね」

 パターガーが笑って告げる。

「あまり強い人たちじゃありませんでしたから。パターガーさんやカート隊長との訓練の方がきつかったです」

 肩をすくめてクイッドが言う。

「あと、この人はギャフォードっていう地方軍の人だそうです」

 さらりとクイッドが加えてギャフォードの身元を明かす。

「他にも結託しているものが、この辺りの地方軍にいないか。私のほうで調査をしておきますわ」

 アニスは微笑んで告げる。

「大丈夫かい?君も激務だろうに」

 デズモンドが気遣ってくれた。

「問題ありませんわ」 

 本当はまた少し寝る時間を削ることとなるだろう。

 アニスは思いつつも笑顔を見せた。デズモンドにあまり弱いところを見せたくない。心配もさせたくないのだが。

「まぁ、こっちとしちゃ、そちらが話しの分かる方々で良かったい。俺は最悪、ここで戦闘になると思っていましたよ」

 ボソッとパターガーが呟く。

 来るのが自分やデズモンドとは限らないことを思えば、当然の危惧だった。

「こちらも良かったですわ。お師匠様と交戦すれば、こちらの兵士はただでは済まないんですから」

 アニスは肩をすくめて見せた。

「アニスの言うとおりだ。パターガー殿、それにこちらを見くびりすぎだ。この鼠賊にも言ったが、自国の民を傷つけられて、黙っていられる為政者はいない。貴殿の気持ちは理解している」

 苦虫を噛み潰したような顔でデズモンドが言う。

 バール帝国側の手落ちであることは明らかだ。決まりが悪いのだろう。

「では、丁重に御礼を申し上げて、ご帰還いただくということでよろしいですね?本来、我々が駆除すべき賊徒を倒してもらったのですから」

 アニスは一件落着のつもりで双方に告げるのだった。


 

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