119 討ち入り3
ギャフォードだけが生きていて、地面に転がっている。残りの盗賊について、クイッドにしろ、パターガーにしろ、生け捕りにしようという発想はなかったらしい。
「まぁ、いいですわ。覚えておいてくださいね?で、この男の身柄は王都リクロに?」
怒りを押し込めてティスは問う。いつか油断しているときに脛辺りを蹴り飛ばしてやろうと決意した。
「そうだなぁ。うちの国に害をなした。うちで罰を下してやりたい、っていうのが、俺の本音だな」
パターガーが頷く。
被害を受けたから直接に思い知らせる。気持ちとしては分かるが、バール帝国とラデン王国の間で犯罪者の扱いがどういう取り決めになっているのか。
(本当は、そっちの関係で、この男をどうするかを判断すべきじゃないかしら)
ティスはチラリと思う。
自分へのふざけた態度はさておき、盗賊というものへのパターガーへの厳しさは根深いものがあるようだ。
本来なら大国であるバール帝国側の司法に引き渡すのが筋である気がする。捕らえたこの場所もバール帝国の国土なのだから。
「俺も、まだバールにバレていないなら、こっそり引き取って、ボコボコにしちゃえばいいって思います」
こちらもクイッドが過激なことを穏やかな顔で言う。
ティスはため息をつく。
「まぁ、私も酷い呼ばれ方をしましたので?少々、思うところはございますけど?」
そして忌々しい盗賊を睨みつける、
「ただでさえ国境を侵しているのですから、捨て置くのが穏当に思いますわ。こてんぱんに動けないようにして、ですけど」
ティスとしては、外交問題も考えるべきだと思うのだった。
「そこは陛下が上手くやるだろ」
しかし、事も無げにパターガーが言い放つ。
「そうですよ。陛下だって、自分の国に被害を出した盗賊の顔を見たいに決まってます」
クイッドも穴だらけの理屈を言うのだった。
そもそも大前提として、この2人が盗賊の身柄をこうも持ち帰りたがるとティスは思ってもいなかったのだが。
「おいっ」
ふと背後から声が響く。
飛び上がるほどには驚かなかったのは、声がヨギラスのものだったからだ。
(そして、本当に感じの悪い人)
わざわざ太くて嫌な声を出したのは、手前側つまり自身に近い位置にいたのがティスだからだろう。
ただゆっくり振り向くと、たった一人で息を切らせて砦の入り口に立っている。負傷しているようではないが、何やら焦っている様子だ。
「ヨギラス殿、どうされた?部下は置いてきたのか?」
パターガーも訝しげだ。
「バール帝国の1団がこちらに近づいている。自身でこの盗賊に気付いて討伐に来たか。我々の動きに気付いたか、だと思う」
ヨギラスが説明し、肩をすくめてみせた。
(貴方の見立てでは、後者なのね。それも多分、騎馬隊を捕捉された)
ヨギラスを嫌ってはいるが、ティスも咎めようとは思わなかった。この速報をするためにそもそも展開していたのだから。盗賊の打ち漏らし防止という役割もきちんと果たしてくれていた。
「ちっ、しょうがねぇ」
パターガーが舌打ちした。ここでの決定権は一応、カートの副官であるパターガーにある。
ティスは続く言葉を待つ。
「ヨギラス殿は離脱してくれ。こいつを置き去りにして、自分に都合の良いことばかりを主張されても腹が立つ。俺が残って何があったかを説明しておく」
そうするとギャフォードの身柄をバール帝国へ引き渡すことになりそうだから、舌打ちしたのだろう。
「そう、上手くいくかしら?私たちが一方的にバールの軍人を打ちのめして殲滅したように見えません?」
ティスは危惧して指摘する。
「貴様のような胡散臭い女であればそうだろうが、パターガー殿の両国での信頼は厚い。一緒にするな」
なぜだかヨギラスに詰られた。何をどう言っても、上手いことなじる話に持ち込むのである。
「まぁまぁ。詫びるべきは詫びる。国境を無断で越えちまった負い目はあるしな。穏当に済ませるよ、穏当に」
パターガーが取りなすように言う。
確かにパターガーほどであれば、穏当に済ませない手もあるのかもしれない。
(つまり、やってきた1団も殲滅しちゃうってこと?)
ティスとしては、そら恐ろしくなる考え方ではあった。
「ヨギラス殿は、というわけで、離脱してくんない。部下ももう逃がしてるんだろ?」
更にパターガーが手をひらひらと振って告げる。
一方、無言のままだったクイッドを見ると、ギャフォードをぎっちりと縄でグルグルに縛り上げていた。
(本当に、パターガー様なら、相手がバール帝国でも説明すれば事足りるってこと?)
ティスはまだ信じられないのだった。
だが、自分を睨みつけてから、ヨギラスが大人しく去っていく。
別に余分な喧嘩もしたくないので、ティスはただ黙って見送る。
「ま、これでバールにこの阿呆を引き渡すことになっちまいそうだが、致し方ねぇか」
パターガーが嘆息して告げる。
しばらく3人で待つと馬蹄の音が響いてきた。
近付いてくる。斜面を駆け上がっているのだ。
(これだけ速いなら、確かにこの男を抱えて逃げるのは無理だったわね)
なんとなくティスは思いつつ、近付いてくる騎馬隊を眺めていた。
そして驚く。
「ここか、盗賊の根城とやらは」
先頭の騎兵。よく見た顔だった。
「デズモンド皇太子殿下」
ティスはその名前を呟く。
「あら?ティスさんじゃない」
そして、その後ろから、可憐な美少女が姿を見せるのであった。




