118 討ち入り2
「あぁ?てめえは何を言ってんだ?」
パターガーが剣呑な口調のまま馬鹿にする。
相手がバール帝国の者ならば仲間だと主張し、ラデン王国の者であれば、国際問題だと主張する。それで言い逃れができると思っていたらしい。
(なんて下劣で愚かな男)
実際にギャフォードらが行っていたのは盗賊行為なのだ。どちらの国にとっても許されるものではない。
「何のつもりかは知らんが我々に手を出した以上、ラデン王国の者ならばタダでは済まん」
また愚言をギャフォードが繰り返す。
(本当に馬鹿ね。許せない)
チラリとティスはパターガーを見る。
「その女だけは置いておけ。賠償金代わりにな」
そしてギャフォードが自分を見て舌舐めずりをした。
あまりの気色悪さにゾットする。
「せっかく、ここでひと思いに殺してやろうと思ってたんだがなぁ」
パターガーの手が素早く動く。
「ギャッ」
「あっ」
2人、ギャフォードの隣にいた盗賊の男が倒れる。
悲鳴すらあげさせなかった。
「なっ、貴様っ!どういうつもりだっ!」
ギャフォードが倒れた2人を見下ろして恐怖に顔を歪めた。
(なんで、さっきのでこちらが手を引くと思えるのかしら)
ティスは侮蔑の眼差しを送るに留めた。
既にパターガー一人ででも制圧出来る人数しか相手方には残っていない。
それも、もう分かった。
「お前を生け捕りにして。他は皆殺しにして。お前からは全部、吐かせるってことだよ」
クイッドが低い声で言う。
大した情報など無いであろう鼠賊である。なんとも皮肉の効いた脅しだ。
「簡単には楽にしない。覚悟しておけよ。うちの国は小国の田舎で敵には苛烈だから」
かなり腹を立てたらしい。更にクイッドが加えた。秀麗な美少年からの、どすの利いた脅しである。
ギャフォードが今更、震え始めた。
(実際、女王リオナ陛下なら、容赦なくそれぐらいは、表情1つ変えずにさせるでしょうね)
自分に向けられていた極寒の眼差しを思い出す。
「おのれっ!」
ギャフォードが両手を地面についた。
「土よ、私を守る壁となれっ!」
魔術の素養もあったらしい。本来なら、一介の軍人でありながら魔術の素養もあるなど、稀有な人材だ。
(つくづく、この男は何のために)
ティスはかえって腹立たしくなる。肉体的にも素質の面でも優れていたはずなのに、性根1つでここまで無駄になるのか。
土の壁が無数に生じた。
防壁とも遮蔽物ともなるものだ。
(それはつまり、私にとっても利用できるっていうこと)
ティスは駆け出していた。
土の壁を縫って、ギャフォードに肉薄していく。
「く、来るなぁっ」
ギャフォードが叫ぶ。壁は自在に増やせるらしい。
次から次へと壁が増えていく中、空気の振動と地面の揺れ、ギャフォード自身の視線からティスは次の出現場所を予測して避ける。
「はえぇな。オレと違って狙撃のようがねぇから、近付くのはえげつないぐらいに速え」
パターガーが褒めてくれた。
(えげつないって言い方はどうにかならないかしら)
内心、ティスは思うのだった。
「な、なんだ!この妖女は!」
そして聞き間違いでなければ、敵のギャフォードからも失礼極まりない言葉を受けた。
「はっはっはっ、妖女か」
パターガーが笑っている。聞き逃しはしない。
ティスは立腹しつつ、土の壁を利用して、逆にギャフォードの背後を取った。
「誰が妖女ですか」
ティスは吐き捨て、強かに短剣の柄でその後頭部を強打してやった。
「ぐはぁっ」
みっともなく倒れ込むギャフォード。意識など刈り取っている。
『妖女』だなどとは盗賊になど言われたくないのであった。
既にほかの盗賊たちもすべて、パターガーとクイッドに殲滅されている。
土の壁がすべて崩れ落ちた。
大した術ではない。それでもただの盗賊が魔術を用いるとは思わなかった。
「お見事」
近づいてきてパターガーが言う。
ティスは無言で、その足を踏みつけてやろうとして、空振りした。避けられたのだ。ただ、したたかに足の裏を地面に打ち付けただけだった。
痛みで涙が滲む。
「ハハハッ、そうはいかねぇ」
朗らかに笑い声を立ててパターガーが言う。
「そういうところですわよ」
恨めしくなってティスは言う。
いずれ、パターガーに恋しているという少女が誰か判明したなら、真っ先に言いつけてやろうと思う。パターガーとしては、この少女に責め立てられるのは、どうやら堪えるようだから。
『妖女』呼びを笑われた上に、腹癒せまで躱されるのでは、ティスてしても救いがない。
「悪口はともかく、確かに凄い動きでした。カート隊長とはまた違って、俺、お手本にしなくちゃだなって思いましたよ」
今回はクイッドの物言いのほうが適切だ。
(それか、先にパターガー様が私を怒らせているから、気をつけているだけかもしれないけど)
ティスは思いつつ、短刀を鞘に納めるのであった。




