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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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118/123

118 討ち入り2

「あぁ?てめえは何を言ってんだ?」

 パターガーが剣呑な口調のまま馬鹿にする。

 相手がバール帝国の者ならば仲間だと主張し、ラデン王国の者であれば、国際問題だと主張する。それで言い逃れができると思っていたらしい。

(なんて下劣で愚かな男)

 実際にギャフォードらが行っていたのは盗賊行為なのだ。どちらの国にとっても許されるものではない。

「何のつもりかは知らんが我々に手を出した以上、ラデン王国の者ならばタダでは済まん」

 また愚言をギャフォードが繰り返す。

(本当に馬鹿ね。許せない)

 チラリとティスはパターガーを見る。

「その女だけは置いておけ。賠償金代わりにな」

 そしてギャフォードが自分を見て舌舐めずりをした。

 あまりの気色悪さにゾットする。

「せっかく、ここでひと思いに殺してやろうと思ってたんだがなぁ」

 パターガーの手が素早く動く。

「ギャッ」

「あっ」

 2人、ギャフォードの隣にいた盗賊の男が倒れる。

 悲鳴すらあげさせなかった。

「なっ、貴様っ!どういうつもりだっ!」

 ギャフォードが倒れた2人を見下ろして恐怖に顔を歪めた。

(なんで、さっきのでこちらが手を引くと思えるのかしら)

 ティスは侮蔑の眼差しを送るに留めた。

 既にパターガー一人ででも制圧出来る人数しか相手方には残っていない。

 それも、もう分かった。

「お前を生け捕りにして。他は皆殺しにして。お前からは全部、吐かせるってことだよ」

 クイッドが低い声で言う。

 大した情報など無いであろう鼠賊である。なんとも皮肉の効いた脅しだ。

「簡単には楽にしない。覚悟しておけよ。うちの国は小国の田舎で敵には苛烈だから」

 かなり腹を立てたらしい。更にクイッドが加えた。秀麗な美少年からの、どすの利いた脅しである。

 ギャフォードが今更、震え始めた。

(実際、女王リオナ陛下なら、容赦なくそれぐらいは、表情1つ変えずにさせるでしょうね)

 自分に向けられていた極寒の眼差しを思い出す。

「おのれっ!」

 ギャフォードが両手を地面についた。

「土よ、私を守る壁となれっ!」

 魔術の素養もあったらしい。本来なら、一介の軍人でありながら魔術の素養もあるなど、稀有な人材だ。

(つくづく、この男は何のために)

 ティスはかえって腹立たしくなる。肉体的にも素質の面でも優れていたはずなのに、性根1つでここまで無駄になるのか。

 土の壁が無数に生じた。

 防壁とも遮蔽物ともなるものだ。

(それはつまり、私にとっても利用できるっていうこと)

 ティスは駆け出していた。

 土の壁を縫って、ギャフォードに肉薄していく。

「く、来るなぁっ」

 ギャフォードが叫ぶ。壁は自在に増やせるらしい。

 次から次へと壁が増えていく中、空気の振動と地面の揺れ、ギャフォード自身の視線からティスは次の出現場所を予測して避ける。

「はえぇな。オレと違って狙撃のようがねぇから、近付くのはえげつないぐらいに速え」

 パターガーが褒めてくれた。

(えげつないって言い方はどうにかならないかしら)

 内心、ティスは思うのだった。

「な、なんだ!この妖女は!」

 そして聞き間違いでなければ、敵のギャフォードからも失礼極まりない言葉を受けた。

「はっはっはっ、妖女か」

 パターガーが笑っている。聞き逃しはしない。

 ティスは立腹しつつ、土の壁を利用して、逆にギャフォードの背後を取った。

「誰が妖女ですか」

 ティスは吐き捨て、強かに短剣の柄でその後頭部を強打してやった。

「ぐはぁっ」

 みっともなく倒れ込むギャフォード。意識など刈り取っている。

『妖女』だなどとは盗賊になど言われたくないのであった。

 既にほかの盗賊たちもすべて、パターガーとクイッドに殲滅されている。

 土の壁がすべて崩れ落ちた。

 大した術ではない。それでもただの盗賊が魔術を用いるとは思わなかった。

「お見事」

 近づいてきてパターガーが言う。

 ティスは無言で、その足を踏みつけてやろうとして、空振りした。避けられたのだ。ただ、したたかに足の裏を地面に打ち付けただけだった。 

 痛みで涙が滲む。

「ハハハッ、そうはいかねぇ」

 朗らかに笑い声を立ててパターガーが言う。

「そういうところですわよ」

 恨めしくなってティスは言う。

 いずれ、パターガーに恋しているという少女が誰か判明したなら、真っ先に言いつけてやろうと思う。パターガーとしては、この少女に責め立てられるのは、どうやら堪えるようだから。

『妖女』呼びを笑われた上に、腹癒せまで躱されるのでは、ティスてしても救いがない。

「悪口はともかく、確かに凄い動きでした。カート隊長とはまた違って、俺、お手本にしなくちゃだなって思いましたよ」

 今回はクイッドの物言いのほうが適切だ。

(それか、先にパターガー様が私を怒らせているから、気をつけているだけかもしれないけど)

 ティスは思いつつ、短刀を鞘に納めるのであった。

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