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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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115/123

115 デズモンド西へ行く2

「申し訳ありません。殿下の御身は1つであるゆえ、自分の担当区域で、このような」

 詫びる言葉にもレーンが詰まり始めた。

 確認に向かうというのが正しいからだ。探索していたレーンの謝罪など不必要なのである。

(これ以上、民に被害を出すわけにはいかない)

 バール帝国側でも、ラデン王国側でも、だ。

 間違いであれば、それはそれで確認できたということで任務の成功である。少なくともデズモンドはそう考えていた。

「良い、黒騎士がどこにあらわれ、どこに魔獣を繰り出すか分からない以上、私のいる場所に正解はないんだから」

 逆にどこにいようとも正解だとも考えられる。

 まるで頓知のような状態だ。

 デズモンドは立ち上がる。最低限の武装があれば良い。

「とにかく急ごう。動くならすぐにでも動き出したいんだ、私は」

 デズモンドはレーンを急かす。

 馬には移動のためならば乗ることが出来る。だが、戦闘の方はどうも苦手であり、到着してそのまま斬りかかるということは出来ない。

 一旦、馬から下りて剣を抜き、徒歩で近付くのである。馬に乗ったままの戦いは本当に苦手なのだ。

(まず、剣が振りづらい。馬を斬りそうになってしまう。そもそも、なんで馬はすぐ離れないのだろう)

 まず馬の尻を剣で叩いて追っ払うところから始めなくてはなりないのであった。

 馬に乗るのだけは億劫であり、デズモンドはため息をつきながら陣幕から出る。そのまま馬屋へ向かう。

 柵で囲っただけの、応急で簡素なものだが、とりあえず移動用の馬を待機させていた。

「殿下?」

 馬の準備をしていると、馬乗のアニスが目を見開いて近付いてくる。直下兵団も一緒だから周辺の見回りをしてくれていたらしい。

 整った、いつも通り可憐な顔だが、若干、砂塵で汚れている。それでも内面の気立ての良さもあって、砂塵でその魅力が損なわれることはない。

「どこかへお出掛けに?私もご一緒しますわ」

 アニスがさりげなく矢の残数を確認している。

 この時期にお出かけというのは即ち、どこぞで戦闘ということなのだった。

 故に弓手のアニスにとっては矢の残数というのは死活問題なのだ。

(まったく、私には過ぎた婚約者だよ、君は)

 いざとなればデズモンドを守って戦うつもりなのだろう。弓も部下を呼んで少し短いものに持ち替えている。馬上でいつも使うものと、デズモンドを守るために速射する用途のものとで、使い分けているらしい。

「お出かけ、というには少し遠出だね。西の国境付近に、未確認の騎馬隊が出没しているらしい」

 端的にデズモンドは現状を説明した。

 更にそっとアニスの華奢な身体を抱き寄せる。柔らかく壊れてしまいそうだ。

「まぁ」

 デズモンドの腕の中でアニスが考える顔をする。

「西のベルグランド地方のことです?あそこの地方軍、ちょっと最近、機能してなかったみたいで」

 珍しくアニスが険しい表情を浮かべた。

「ちょっと、シメてあげるべきかしら?って最近、思い始めていたところだったんですの」

 地方軍のことにまで目を配ってくれていたらしい。

 視野が広いのであった。そして狙いを定めると確実に完遂する。

 それがアニス・エルニスという公爵令嬢なのであった。

「だが、騎馬隊だというんだよ」

 デズモンドは自身の感じていた違和感を伝える。

 騎馬の盗賊団。今、口に出してみても違和感を覚える。

「あら?それは確かに変ですわね。騎馬がいるという報告は入っておりませんもの。あちらはラデン王国に近いだけあって、歩兵が多めでしたから」

 アニスが訝しげな顔をする。眉根も寄せていた。

 自分に抱きしめられたままである。

 お互いに仕草こそ甘い雰囲気なのだが、話す内容はどこまでも硬い。

「何かの伝手で馬を得た。それかこちらの正規軍が、騎馬隊が盗賊に身を落としたか。それは、私も考えたがね」

 いずれにせよ、馬の頭数が足りない。騎馬隊が出現するはずのない土地柄だ。

「盗賊団はいるのでしょうね。被害の申告はまだですが。例えば他国で略奪をすれば発覚が遅れます。国と国との問題になろうとも、盗賊団をするような人たちはそんなの気にしませんから。まして、正規軍を装っていれば、被害を及ぼした国から、私たちが守ってくれるとでも思っているのか」

 淡々とアニスが言葉を並べる。

 話をしているうちにデズモンドにも見えてきた。

 アニスが疑っているのは、バール帝国の正規軍が盗賊団に身を落とし、近隣のラデン王国で略奪をなしているということだ。

「では、騎馬隊か歩兵隊かなどと細かいことは気にしていられない。我が国の名で他国の民に略奪を為すなら、私自ら出向く。そして皆をたたっ斬っでやろう」

 デズモンドは言い放つ。

 そしてアニスから身を離した。名残惜しいがイチャついている場合ではない。

「勇ましいですわね。では、私も行きます。不測の事態があってはいけませんから」

 こうしてデズモンドはアニスとともに西へ向かうこととなるのであった。




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