111 盗賊削減作戦3
そろそろ山寨の内部を探ることも視野に入れなくてはならないかもしれない。パターガーにも打診すべきだろう。
ティスはそんなことを考え始めていた。
「あーあ、パターガーさんの後だと俺、いよいよ働き場が無いから、挽回も出来ないし」
クイッドが頭を抱えていた。
戦い慣れはしていて、物怖じもしない。こんな任務でも、どこか余裕を感じるのだった。
(むしろ、パターガー様はこの任務と貴方との相性を考えて、負担を減らしてくれているように見えるのだけど)
ティスは内心で指摘する。
当番の順番を決めたのはパターガーだ。当初、ティスとしても何のこだわりも無いので反論せずに受け入れた。
「たかが盗賊でも、囲まれれば危ないですから。パターガー様が数を削ってくれているのは、粗相させてそういうことが出来ないようにするためでしょう」
ティスは類推したパターガーの意図を自分なりに披露する。
「分かってますよ。でも、それでどやされるんだから、ひとたまりもないです」
クイッドが膨れっ面だ。
「叱咤激励ですよ」
ティスは言い放つのだった。
クイッドがため息をつく。
「少しはお役に立ててるんなら良かったです」
言い放ってクイッドが洞窟の中へと入っていった。
食料の残数や飲水の確認をしてくれているらしい。他にもヨギラス騎馬隊との情報交換などもクイッドがしていた。
細かいところでは気を利かせてくれている。
(さてと、私は)
ティスは洞穴から離れて下山した。
あくまで洞穴は任務中の休憩場所だ。ティスは休憩時間中は近くの村で過ごすこととしていた。
途中、カートから貰った私服に着替える。
元々いた国だ。地勢ぐらいは頭に入っている。
(カート様とのんびり過ごせれば良かったけど)
ティスはため息をつく。
休憩時間はどこにいても良いことにはなっていて、落ち着いて村の食堂で食事を取り、徹夜するので宿を取って熟睡することとしていた。
既に肩のあたりに重しのような疲労を感じる。無理をすれば動けるがしなくてもよい無理をしたくはない。
何度目かになる宿泊の手続きを宿屋の女主人とし、取った部屋で寝台に入る。誰に世話を焼いてもらうでもない。
(私の生活なんて、本当はこれぐらいでちょうどいい)
なんとなくティスは胸のうちで呟く。
お湯で身体を清め、寝巻きに着替えて横たわる。意識するまでもなく眠りに落ちた。
どれだけ眠ったのか。
気付くともう朝だった。半日以上は眠っていたのではないか。
眠りに落ちたのは昨日の夕飯時のもっと前なのだから。
「よく眠っていたみたいだねぇ」
宿を出る手続きの時、珍しく女主人に声をかけられた。夫と二人で宿屋を切り盛りしているらしい。小太りの、気の良い女性だ。
嫌いではないが親しくなろうという気もなくて、ティスは余り話さないようにしていた。ただ、もう一泊、休もうと思っているので、出る手続きの後はまた、泊まる手続きをそのままする。
「ええ。お肌には悪いんですけど、泊まりがけの仕事をしているので」
肩をすくめてティスは告げる。
「そうなのかい。大変だねぇ。品の良い、育ての良さそうな娘さんなのに」
何を誤解されたのか。女主人が痛ましげな顔をする。
「よく、この辺りを散歩しているようだけだ。この後も歩くのかい?」
女主人が更に質問を重ねてきた。
「はい。お散歩するのが好きで。また、夜に戻ってきますので」
ティスは宿泊代を前払いしようとする。
「気を付けるんだよ。最近、デカい魔獣を見たって人がいるから」
声を潜めて女主人が言う。
(ここで声を潜めても)
ティスはつい口元を綻ばせてしまう。相手の純朴さに心が和む。
「大きな魔獣、ですか。怖いですね」
ティスは顔を顰める。
バール帝国の苦境は当然、自分も聞いていた。
(でもこんな長閑な村が魔獣に怯えるほどだなんて)
ティスは胸を痛める。
(盗賊が他国を荒らしに来るくらいだから、本当はおかしくはないのでしょうね)
一方で思い至るのだった。
聖女エストが出国してからは特に苦しいらしい。そしてアーノルドが負傷したという噂もあった。
「牛だってさ。こぉんな大木もなぎ倒しちゃうっていうよ?」
女主人が大きく両腕を広げて告げる。
(ラウドオックスかしらね。そんなに大きいというのなら)
ティスはなんとなく思い起こしていた。
かなりの難敵だ。あまり出会したいものでもない。
黒く厚手の毛皮に巨大な角、屈強な肉体を持つ。ちょっとした家屋ぐらいの大きさもあるので、生身ではひとたまりもない。
「怖いですね」
ティスは頷く。
「そうだよぉ。あんたみたいな綺麗なお嬢さんなんか、すぐに踏み潰されちゃうんだから」
心配げに言う女主人に対し、ティスはもう一泊分、追加の手続きをする。
「もう何度目かになるけど、あんた、最初から連泊の手続きをしといてくれればいいのに」
そして女主人が呆れたように告げるのであった。




