110 盗賊削減策2
「世辞はよしてくんない」
笑ってパターガーが言う。
(弓1本で接近戦も狙撃もこなす。今回は主に狙撃だけれど。敵に回せば悪夢のような御方)
ティスもその戦いぶりを見ていて、自分ならばどう対処するか想定し、結果、今は勝てないと判断した。直接対峙しても、戦果を競うような時も、だ。
「ま、本来なら俺たちだけで、やるべき仕事だかんな。正規の休憩ん時ぐらいはゆっくりしててくんない」
鷹揚にパターガーが言い、瞬きする間に木を登り、樹上から樹上へと跳躍していく。あっという間に距離が離れた。
自分よりも圧倒的に速い。
風属性魔術を無詠唱で駆使して、矢の威力や身体能力を向上させているらしい。これは、カートにも魔術師達にも出来ない、パターガーの特殊な術式とのこと。盗賊時代から駆使していた、というから、カートと出会わければ、厄介な盗賊だったことだろう。
(私はただ、パターガー様の休憩時間中、間を持たせるぐらいの役割しか、果たせていないんじゃないかしら)
ティスとしては、そう卑屈になるほどの実力差だ。
そして逆を言えば、パターガーの当番時間中は、盗賊たちにとっては悪夢のような時間だろう。
姿を晒せば射殺される。
単独どころか数人単位で動いてもなお、一方的に矢を射掛けられるのだ。
(そんな実力者の戦闘を観察できる機会はそうそうない)
よって、ティスは休憩時間を返上して、自らも岩の上に立つ。盗賊たちの行動圏をかなり絞り込んでいるので出来る行為だ。
「もう、あんなところに」
森の木々に目を凝らしパターガーの姿を視認した。
上手く隠れているのだが、盗賊からは見えずとも辛うじて、ティスの位置からは見えるのだった。
(でも、盗賊からは多分、本当にまったく見えない。よくもそんな場所を適確に見つけられるものね)
半ば呆れつつもティスはパターガーのいる場所を眺め続ける。
他ならぬパターガーが見張っている以上、その監視を盗賊がすり抜けられるわけがない。不意を討たれる懸念もなかった。
パターガーが樹上で固まったかのように動かなくなる。
同じ姿勢のまま山寨を凝視していた。
そろりと矢筒に手を伸ばす。
(あっ)
ティスが思った時にはもう、矢を放たれていた。
山寨の方から鳥が数羽、飛び立ったのが見える。ティスからはハッキリと見えないが、敵を仕留めたようだ。
その繰り返しだった。
殺気を漏らさず、一方的に盗賊を削っていく。
ティスに分かるのは手を動かして矢を放ったことだけ。
近くに人の気配を感じた。
ティスは素早く振り向いて、接近してきたのがクイッドであることに気付く。
肩の力も抜いた。
「2人で盗賊を全部、ほとんど仕留めちゃうんじゃないですか?」
クイッドが挨拶も抜きに切り出す。
パターガーの位置には気付けないらしく、視線はティスにだけ向けていた。
「さあ?どうでしょう?」
ティスは笑って答える。
ここ数日、自分は役に立てなかった、とクイッドが考えているようだ。それぐらいは分かる。
(その武器ではね)
ティスはクイッドの手斧を一瞥する。
今回の任務では一番、戦果を上げづらいのがクイッドだ。手斧で接近戦を行い、円盾のおかげで手堅く身を守る、典型的な前衛である。クイッドの場合、敵を効率よく倒すには後衛の協力が必須だ。
闇討ちを主とする任務ではら敵に近寄らなくてはならない分、不利だろう。隠密行動には向かない。兵士らしい兵士というクイッドの特性が、ここでは裏目に出ていた。
「パターガーさんはともかく、ティスさんよりも働けないんじゃ。俺、どやされちゃうなぁ」
クイッドが嘆いている。
捉えようによっては、ティスに失礼な物言いなのだが。悪気のある少年ではないことも分かってはいる。
「あら?そう悲観することはないんじゃありませんか?パターガー様の性分からして、どやされるのなら、その場でどやされるのではなくて?」
笑顔のままティスは指摘してやった。
(それに、言うほど、悪い働きではなかったように私は思うけど?)
盗賊を倒した人数こそ少ないものの、任務に対する不利を補って、当番時間中の盗賊の封殺には成功している。
パターガーやティスの休憩時間を確保する、という最低限は達成してくれていた。
「パターガーさんじゃなくって、カート隊長の方ですよ。後でこの結果を知って。おまけに愛しのティスさんに戦ってもらった、なんて知られたらどれだけ文句を言われることか」
クイッドの言うとおりかもしれない。カートの自分への態度を見る限りでは、なぜ安全圏にいなかったのか、いられなかったのかは追及されかねなかった。
「でも、その場合はパターガー様も同罪では?まして任務である以上、そこはご理解頂けるでしょう」
微笑みを維持してティスは告げる。
胡乱な眼差しを向けられた。
「覚悟しといたほうがいいですよ。ティスさんもなんで自分から離れて戦いに身を投じたんですか、ぐらいは責められるでしょうから」
クイッドの言うとおりになったとして、こそばゆいだけだ。
話している間にもパターガーが盗賊を時折、仕留めている。始めた頃は盗賊も用心しておらず、パターガーにかなりの数を削られていたものだ。
(そろそろかしらね)
なかの人数も減ってきたのなら、次はトドメだ。
ティスは心の内で呟くのであった。




