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歩兵隊長は聖女の侍女に恋をする  作者: 黒笠


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109/124

109 盗賊削減作戦1

「もう1週間もご無沙汰だ」

 髭面の男が言う。

「どいつもこいつも怖じ気付きやがって。盗賊なんぞしてて、今更、怖いものなんてあるかってんだ」

 また別の男が言う。痩せたのっぽである。

 いずれも粗末な剣や斧を持つ。総勢5名の1団だ。

 聞こえてくる会話に眉を顰めつつ、ティスは山から下りてくる道で、その背後を取る。

(まったく、下卑た人たちだこと)

 音もなく樹上から飛び降りて、背後から3人を仕留める。短剣で背中から急所を一突きだ。

「うわっ」

 異変に気付いて振り向いた2名。

 ティスはその首筋を一片の迷いもなく斬りつける。

(呆気ない)

 見張りからも見えない位置であることは把握しているが、素早くまた樹上に戻った。

 交代までの時間、ティスは絶えず動き回ることとしている。尻尾すらも掴ませない。盗賊たちから見て、煙のような存在であろうと思う。

(そのほうが多分、厄介で怖いはず)

 ティスは木々の合間を抜けて、岩穴へと隠れる。

 ヨギラスからの地図を参考としつつも、自分でも隠れ場所、潜伏場所を何箇所か見繕っておいた。

「敵もだいぶ用心し始めていたけど」

 5名というのは、この戦いを始めてからは一番多い。

 だが、これ以上、大勢を繰り出すことも盗賊には難しいだろう。

(ヨギラス様たちが多勢の動きには目を配っているものね)

 軍団の動きをすれば、騎馬隊に捕捉、殲滅される。

 盗賊たちもそれは分かっているから、少人数での略奪をしようとするのだが。

(少人数で出てくれば、私たちに討たれる)

 既にティス自身、10回の当番をこなしている。

 つまりちょうど一ヶ月ほどが経過した勘定だ。

(3人でもう、どれだけの敵を倒したかしら?)

 合計して、3桁は軽く下らない。盗賊のかなりの部分を削ったはずだ。

「そうすると、たぶん、もう、出て来ない。今回はこの5人で私も打ち止めかしら」

 声に出してティスは呟く。

(で、そうすると後はトドメをどの段階で刺すか、だけど)

 ティスにもそこの決断、判断がまだつかない。

 狭い所で、襲撃を警戒している相手のところに踏み込むのだ。好機にだけ襲いかかって少人数を討つのとはわけが違う。

 やがて、夜を迎えた。

 暗く、視界が利かなくなるのだが。始めのうちは盗賊たちも侮っていて、篝火などを持って夜襲に出ようとしていた。容赦なく削り続けるうち、火を使わなくなる。

(それすらも甘い)

 ティスは夜目が効く。

 暗がりの中を影が動いていた。

「こんなところ、いられねぇよ」

 怖気づいて逃げようという者だ。

「みんな、殺られた」

 もう1人が相槌を打つ。

 ヒソヒソ声だが、全部ティスには聞こえている。

 近づいてくるところ、ティスは自身も忍び寄って、背後に回った。

(許すわけがない。逃げようたって。ここまでにどれだけの人を傷つけて奪ってきたの?虫が良すぎる)

 ティスは気配を消して、殺気を放つ。

 驚いて振り向く2人。目を見開くだけの木偶をティスら仕留めた。

 一晩、寝ずに警戒を続けるも、仕留められたのはこの2名だけだ。何人残っているのかは分からない。後は砦の中に立て籠もっているようだ。

 夜が明ける。ティスは湿らせた布で顔や首筋を拭う。

 視線は砦に向けたままだ。水浴びや入浴などする余裕はないものの。最低限の汚れや気分の切り替えはしたい。

 足下に禿頭が見えた。色黒の細長い身体。手足も細くて長い。

 パターガーだ。

 ティスはひらりと樹上から飛び降りる。

「交代の時間だ」

 パターガーが笑顔で告げる。

 矢筒と弓を装備していた。まる1日半の休憩をしているからか、血色も良い。

「矢の補給はいかがでしたか?」

 ティスは抜き身の短剣を手にしたまま尋ねる。

 本当に引き継ぐまでは気を抜かないと決めていた。

「上々よ」

 パンパンに膨らんだ矢筒をパターガーが叩いて告げる。

 前回、交代する時に、だいぶ手持ちが減った、とぼやいていたのだ。

「お金がかかりやすわね、弓使いの御方たちは」

 なんとなくティスは言う。

「仕事とはいえ、出費がかさむのではありませんか?」

 見た目によらず真面目なのである。パターガーという人物を知るにつけ、大変さをねぎらいたくなる。

「なぁに、矢代は経費で落としてもらえるんさ。いつもそこはきちんとしてもらえている」

 カラカラとパターガーが声を立てて笑う。

「で、戦果は?」

 低い声でパターガーが問う。

「7名ですわ。死体は晒してあります。パターガー様の、この出番では敵が出てこないかもしれませんわね」

 出来るだけ柔らかく微笑んでティスは言う。

「7名か。これだけ警戒されてるのに大したもんだ。クイッドの野郎にも見習わせてならねぇとな」

 パターガーが手放しで賞賛してくれた。

 警戒されていることの大変さを誰よりも理解してくれている様子だ。

 そしてその上で、誰よりも盗賊たちを仕留めているのがパターガーだ。

「パターガーさまには敵いませんけどね」

 故にティスは苦笑いで告げるのであった。


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