108 討伐方針2
「私としては、とっとと叩き潰して、女王陛下の鼻を明かしてやりたいのが本音ですわね」
ニッコリと笑ってティスが女王リオナへの反感を口に出す。
「そういうことは胸のうちにしまっておいてくんない」
流石のパターガーも困り顔でたしなめる。
「邪魔されましたので。それに、こうしている間にも、どんな悪だくみをしているか分かりませんから。それこそ、この盗賊と私が一緒くただったら良かったのに、ぐらいは考えてらしたんじゃありません?」
ティスがつらつらと恨み言を並べる。
やはり女王リオナからの妨害は腹に据えかねるらしい。
たしなめられても一歩も退かない辺り、相当な不満を溜め込んでいるようだ。
「それでも陛下の命令には従っていらっしゃるんですね」
クイッドはポツリと言葉を差し挟む。
そこまで言うなら、断ってしまえば良かったようにと思う。
ましてティスの場合、ラデン王国の臣民ではないのだから。
「いいえ。私もこの国で生きていくつもりですから。最低限は従うつもりです」
ティスが澄まして告げる。
つまり、カートともに生きる覚悟を決めている、ということなのだろうか。
「なら、あまり陛下から睨まれるようなこと、言わないほうが良いですよ」
クイッドは指摘するに咎めた。
そもそも女王リオナを恋敵とし、強気でいられる理由が分からない。
「それと恋とは別問題ですから」
素気なくティスからは言い返されてしまう。
「まぁ、俺もとっとと終わらせて王都に戻りてぇ」
パターガーが同調した。ふざけた口調とは裏腹に地図を眺める視線は真剣そのものなのだが。
「レビアちゃんに早く会いたいですものね」
そちらは心情が理解出来て、クイッドは告げる。
「うるせぇな。いい加減にしつけぇ」
パターガーに軽く殴られた。痛みはない。音だけは大きいのだが。そういう絶妙な叩き方をしてくるのだった。
(むしろ、パターガーさんはとっとと会いに行くべきだと思います)
クイッドとしては応援してやりたいのだった。
「あら?パターガー様にも素敵なお相手がいらっしゃるのですか?」
そこは面白がってティスが尋ねている。
余計ごとを言ったということで、クイッドはパターガーに睨まれた。
気にしないこととする。
「隅に置けませんわね」
更にティスが加える。
いちいち笑顔が艶っぽいのであった。カートが骨抜きにされるのも仕方がないと思える女性だ。
(あと、なんとなく猫っぽい)
しなやかな所作や体型のせいで受ける印象かもしれない。
「こいつが勝手にそう言っているだけですよ。俺にそういう相手なんか出来るわけがねぇでしょう」
パターガーが気不味そうに言う。
「レビアちゃんが泣きますよ」
同期のためにクイッドは言い募る。
「泣くか」
パターガーが横を向く。
こんなやり取りを直接聞けば、それは本当に泣くだろう、とクイッドは見ていた。
「あら?女の子を泣かすのは頂けませんわよ?」
ティスからも苦笑いでたしなめられている。
「まったく、そんなことより作戦だ、作戦っ。方針を決めるぞ」
パターガーが地図を指差して言う。
「そうですわねぇ」
ティスが腕組みをした。
(2人共優秀なんだもんな)
軽口を叩きあっている格好だったが、パターガーもティスも眼差しは真剣そのものだった。
何一つ地図上のものを見落とさない。
「手堅くいきます?私とパターガー様にとって、ですが」
ティスが先に口を開く。
クイッドの方は何も考えつかない。
(パターガーさんがいるなら、正面から殴り込みをかけても勝てると思うけど)
だが、あまり賢い選択とは思えない。
クイッドは黙っていた。
「まぁ、似たようなことを考えてるんだろうが。一応、話してくれ」
パターガーがティスに促す。
「大した手ではありませんわ。敵の砦を徹底的に見張って。孤立している者から順に討ち取ってやるのです」
事も無げにティスが言う。
いかにも時間のかかりそうな手段だが。
「妥当だな。奇襲かけて逃げられても面白くねぇ。出来るなら一人残らず討ち取りてぇからな」
パターガーがいつも通り、盗賊への嫌悪感をあらわにして告げる。
「えぇ。私も後で陛下からイライラするような指摘を受けたくありませんから」
肩をすくめてティスも返す。
「一人で出てくるなら、少人数ならば確実に死ぬ。そう思わせられれば、砦の中では絶望も生まれます。思い知らせてやるには良いのでは?」
さらにゾットするような冷酷な笑顔をティスが見せる。
「で、そうするとして。具体的にはどう進める?」
見張って少人数ずつ狩っていく。この方針は確定したようだ。
「ちょうど3人いますから。3交代でいかがです?」
ティスが指を3本立てて告げる。
丸一日見張り、翌日、次の者に引き継ぎ、3日目は休むという交代制だ。
「悪くねぇな」
パターガーが頷き、方針が固まったことで、3人はバール帝国との国境へと向かうのであった。




