107 討伐方針
「では、パターガー殿、クイッド君。2人が頼みです。賊徒などをのさばらせておくわけにはいかん。思い知らせてやってください」
ヨギラスが鹿毛の馬にまたがり駆け去っていく。
無言で待っていた騎兵たちも従って西へ去っていった。
「なんで、私がこんなに嫌われるのかしら。」
ティスが険しい顔で首を傾げる。確かに敵意を一方的に向けられていた。
「ま、女王陛下を慕う人間は多い。カートさんのこともだな」
パターガーが苦笑いだ。
普通、女王リオナの名前が出てくれば、ラデン王国国民であれば皆、萎縮する。
クイッドも例外ではない。身の引き締まる思いをするのだが。
「あら、そういうまのはでは、私は腕前で黙らせるしかありませんわね」
しかし、動じることなくティスが言い放つ。武芸の方にはかなりの自信があるらしい。
(エスト様の護衛をしていたぐらいだし、弱いってことはないと思うけど)
お手並み拝見、とクイッドは妙な格好の美女ティスを見て思う。
ほっそりとした肢体に、黒い装束を身に纏っている。戦闘装束というらしい。エストよりも少し背が高いが、自分よりも小柄だ。切れ長の瞳からは怜悧な印象を受ける。
(ランパートの森でも、一回は見ているはずなんだけど)
ズボンのようでいて、太腿の側面など、妙なところで肌を見せてくる。眩しいほどに色白なので、角度によっては目のやり場に困るのだが。
(カート隊長もこの格好に、骨抜きにされたのかな)
そして、ここにも姿を見せない上司に対し、失礼なことをクイッドは思う。
「あれ、そもそもカート隊長は一緒じゃないんですか?」
ふと気になって尋ねる。
愛しい、あれだけ入れ込んでいた恋人をなぜこんなところに派遣しているのだろうか。
「隊長なら、盗賊ぐらい何人いたって、簡単に一人で倒しちゃえるのに」
クイッドはここまで告げて、ふとティスの瞳を見て首筋に寒気を覚えた。
(こっわっ)
殺気がダダ漏れだ。
おそらくは自分ではなく女王リオナ辺りに怒っているはずなのだが。
「馬鹿っ、そんなの察しろよ」
パターガーもあえて明言はしない。
ようやくクイッドも理解した。
(あぁ、女王陛下がティスさんをカートさんから引き剥がすのに、この件を使ったんだな)
だから手早く、とっとと片付けたいという欲求に繋がるのだ。
クイッドは2振りの短剣を腰に差したティスを見て思う。
「その短剣2本、なんか力を感じますけど。なにか特別な剣ですか?」
鞘が光沢を帯びていて、どこか神々しい。
「あら?お分かりになるんですか?ただの剣でしたけど、ラデン王国に来てから、エスト様が実験と称して魔力を注ぎ込んでくださいましたの」
微笑んでティスが言う。
つまりエストによって神聖魔力を付与された短剣ということだ。
「そりゃ、すげぇな」
パターガーがマジマジとティスの武器を覗き込む。
「魔獣には強くなったようですが、本件みたいに人間相手にはどうかしら」
ティスが首を傾げる。
「それも、そうだな」
カラカラとパターガーが声を上げて笑う。
「で、どうするかな?」
パターガーが手頃な岩を見つけて、そちらへと2人を誘導する。
平らな岩の上に、ヨギラスから受け取った地図を広げた。
「腹が立つほどに精細な図面ですわね」
ティスが地図を見下ろして顔をしかめる。
散々、罵倒してきた相手が精細な図面を描けるということに複雑な気持ちを抱いているのかもしれない。
「あの人はこういうことには慣れてる。こっちは歩兵だからな。連携して広い範囲を索敵しようって意識が強いんさ」
パターガーが一貫して宥めるような口調だ。
女王リオナに睨まれ、上司と恋仲だというティスにも公平で、気さくな態度を崩さない。
(そんなんだから、当たり前にレビアちゃんに懐かれて、恋されているのに)
クイッドとしては、そちらがもどかしいぐらいなのだった。
「さすがに中の状況までは分かりませんわね」
地図に視線を落としたままティスが加えた。
確かに山寨の内部についてはほぼ空欄だ。輪郭だけがなぞられている。
「そりゃぁな。馬連れて忍び込むわけにもいかねぇだろうさ」
パターガーが相槌を打つ。
クイッドは黙っていた。この話し合いからして、お手並み拝見なのである。
(それに多分、俺、黙って聞いている方が良い。考えも回らせられるし)
クイッドは2人のやりとりに耳を傾ける。
「私なら、潜入して中の図面も作れますけど?」
ティスがゾクリとするような笑みを見せた。
(同じ笑顔なのに、表情豊かな人なんだなぁ)
カートといるときはいつも澄ましていた。エストの侍女という立場もあったからだろうか。
(ここでは、戦う人って顔だよな)
好戦的なティスの横顔を見てクイッドは思う。
「それは別にいいかな、まだ。それは次の段階だな」
パターガーが言い、ティスの潜入は無しになるのであった。




