106 合流3
「情報が信頼出来るというのは、誰か潜入してますの?」
ティスはパターガーに尋ねる。無遠慮なクイッドとはあまり話したくないのだった。
「いや、うちの国の場合は、あまりそういう人手のさき方はしていねぇ。ヨギラス殿がいるからな」
どういうわけだか嫌な名前が出てきた。
同時に馬蹄の音が響く。
「俺たちだけじゃないんですよ。今回の任務に携わっているの」
クイッドが音にしてくる方を向いて言う。
ティスも直立したまま騎馬隊を視認した。
100騎ほどだろうか。槍ではなく得物は剣で統一された集団だ。
(軽装の、騎兵隊ね)
ティスは目を細める。
先頭の騎兵には見覚えがあった。
「ヨギラス殿という、うちの国の騎馬隊隊長だ。カートさん辺りからもう紹介ぐらいは受けているかもしれんが」
パターガーが穏やかな表情で言う。
(私にとっては嫌な相手ですわ)
ティスは女王リオナに付き添っていた、態度の悪い剣士を思い出す。
見下した態度で終始、無礼であった。
「ふん」
案の定、自分を見るなり、ヨギラスが鼻を鳴らす。
どうやら存在すらも不満らしい。
(私も、あなたの陛下からのご命令がなければ、こんな場所に顔を出すこともなかったんですけど)
恨むなら女王リオナを恨めと言うのだ。
少なくともティスのせいではない。
「パターガー殿、御手を煩わせることとなり、申し訳ない。しかし、山間に立て籠もる相手では、まして他国の中となれば我々では攻め落とすところまでは難しい」
パターガーに対しては、礼儀正しくヨギラスが言う。
視線の温度すらも違った。仲間同士でこれまでにも連携して各種事案に対応してきたのだと窺える。
「ちょっとした賊徒ぐらいなら、まぁ、カートさん抜きでもなんとかなるでしょうよ。時間は人数次第でかかるかもしれんが」
パターガーが肩をすくめて言う。
「ご謙遜を。パターガー殿はカート殿と並ぶ、わが国の双璧だ。御力への疑いなど一片もない」
ヨギラスが下馬して言う。
(自分はさほど強くはないのに、私へはそういう態度)
ティスは冷ややかな視線を向ける。
ヨギラスには見向きもされないのだが。
「ま、助っ人もいるからな。やれるだけはやってみますよ」
パターガーもヨギラスへは丁重に応じている。
一目置いているような様子だ。
「密偵の女、か。潜入任務の捨て駒にはちょうど良いでしょう」
吐き捨てるようにヨギラスが言う。
「宜しくお願い致します。ヨギラス騎士団長閣下様」
出来るだけ厭味ったらしく聞こえるように、ティスは告げて頭を下げる。
「貴様になどよろしくされるものか。俺たちは面で国土を守らねばならん。盗賊の潜入を防ぐのだ。パターガー殿たちが討伐の主力だ。個人ではカート殿に並ぶ、一大戦力なのだからな。貴様が足を引っ張り、打ち漏らしが出るやもしれんから、俺たちの仕事が必要になったのだ」
クドクド、グダグダとヨギラスが言葉を並べる。
(つまり、直接、一緒に連携することはなさそうね)
自分に関係しそうな情報だけを、ティスは取捨選択して理解した。
自分にとってヨギラスが本件においてはどうでも良い相手だということが判明したということでもある。だから好きなように言わせておけばよい。
「ヨギラス殿。ティス殿に思うところがあるようだが、任務の説明ぐらいはするべきでは?陛下からも何も聞かされていないらしい」
執り成すようにパターガーが言葉を挟む。
「陛下から命令書は送られているはずです。後は現場で探れば良い。密偵なのですから。探るのは得意中の得意でしょう」
ヨギラスが容赦なく言い放つ。
「誰と恋仲になろうと個人の自由ですが。もともとの他国人が我が国の歩兵隊長と恋仲になるなど。身の程をわきまえろというのです」
更には悪びれずにヨギラスが言う。
久方振りに面と向かってカートとのことを痛罵された。
頭にカッと血が上りかける。
なんとかティスは抑え込もうとした。
「陛下もそのことについては、何も仰ってないのですから、我々が何を言ったってダメでしょう」
カラカラとパターガーが笑う。
ヨギラスが腕組みした。
「パターガー殿は公平な御方だ。救われたな、密偵め」
ヨギラスが矛を収めて自分を無視することとした。
完全に背中を向ける。
(まぁ、そのほうが私も有り難いわね)
絡まれてはいなすほうが面倒臭い。
「俺がここに来たのは、この女のためではない。パターガー殿、クイッド君にくれぐれも気をつけるようにと。盗賊とはいえ数がおりますし、どうやら若干の正規兵も紛れているようだ」
バール帝国としては、正規兵にまで盗賊に落ちぶれられてはとんだ恥さらしである。
「そして、あとは物見で分かる範囲の図面を作ってきましたから。良いように活用してください」
ヨギラスがパターガーに紙片を渡すのであった。




