105 合流2
かなり北上してきた。
乾燥帯で丈の低い木の多かった、エフロー近郊から気候もかわり、緑のの多い土地柄となる。
それでも引き続き街道は歩きやすく、賊徒の気配もない。視界の端には長閑な村々が見えるようになった。
(今度は女王リオナ陛下の統治のおかげなのかしら)
カートの領土を離れてなお、平穏であることは変わらない。これは国土を一貫して、女王リオナの統治が行き届いていることを意味する。
悔しいがティスとしても認めざるを得ない。
「これも、女王リオナの統治の賜物なのね」
ポツリとティスは声に出して呟く。
浮ついていた。今も浮ついている。
カートに見初められたが、女王リオナの想い人であった。なんら問題のない統治者と取り合う格好になっている。
(でも、カート様に、そんなつもりが無いように思えるから、私だって)
乗せられてしまうのもしょうがないではないかと思う。
(それは、傍から見れば、なんてところに、割って入ってるんだって、そうなるんでしょうけど)
まして、亡命当初には分かるわけもない。
この国を知れば知るほど、似合いの2人と思えてならなかった。
(私も退くつもりが、もう無いから)
どうしてもカートからの視線には意識させられてしまう。気遣いの一つ一つも優しく、想いを寄せられていると。
女王リオナの気持ちも理解は出来るが気に入らない。
(私以外の女性にも、こんな陰湿なことをしてきたのね)
非の打ち所のない、統治の手腕とは裏腹に、恋敵への行いは褒められたものではないようだ。
侍女ルルから聞く限り、似たようなことをされて、カートへの思いを断ち切った女性が後を絶たなかったとのこと。
「そろそろ、目的地かしら?」
山の間に広がる、こんもりと森が見えた。
ランパートの森だろう。カートとの出会いの場所だ。
「あっ、ティスさんだ。ご無沙汰してます」
街道と街道の交差点、二人の男が待ち受けていて、うち1人はクイッドだった。金髪で秀麗な若者だ。
(エスト様の護衛は終わったのかしら。つまり、エスト様も今は王都かしら?)
ティスは無邪気に手を振るクイッドを見て思う。
エストの方が女王リオナとの折り合いが良い。一人でも問題なく過ごしていることだろう。
「マジかよ」
もう1人は細身の長身、パターガーだ。
ともにカートの腹心の部下だ。
(別に、カート様抜きでもこういう人たちもいるんだから、問題ないってことだとも思うけど)
2人を心強く思うがゆえに、かえってティスはそんなことを思う。
「ご無沙汰しております。パターガー様もクイッド様も」
微笑んでティスは頭を下げる。
心強くはあった。ランパートの森やサカドゴミムシダマシとの戦闘で、ティスも2人の力量は把握している。
(盗賊ぐらいなら。特にパターガー様なら)
ティスはほっと胸を撫で下ろす。
おそらく、女王リオナも盗賊を看過するつもりはないのだ。一方で自分への嫌がらせの機会も見逃さない。
「女王陛下からの指示書にあった増援って、ティスさんだったんですね」
クイッドが自分をまじまじと眺めて告げる。
(ちょっと、この子は)
いかにも率直な少年兵士らしい所作だが、クイッドのこういうところがティスは苦手だ。
無遠慮なのである。
「あんまり、女性をジロジロ見んな。助平小僧め」
パコン、とパターガーがその頭を叩いて戒める。
「あんたも大変だなぁ。陛下のこったから、とは思っていたが。そのまさか、か」
自分に向き直って、パターガーが言う。
普通、増援となればこの2人にとっては、カートの部下なのだから、自身たちの上司が来ると考えるのが普通だ。
(パターガー様は切れ者だものね)
女王リオナの嫌がらせぐらいは予測できていたようだ。
ティスはもう一度、頭を下げる。
「我々3人だけですの?盗賊というのはどれほどのものなのでしょう?私には全く、知らされてないのです」
にこやかにティスは告げた。
パターガーとクイッドが気不味そうな表情を浮かべる。
やはりこの2人には詳細な情報が渡されているのだ。
(やっぱり、私の方はただの嫌がらせで、討伐の本命はこの2人ということ?)
ティスはなんとなく、女王リオナに自身の武芸が評価されているとは思えないのだった。
「あー、俺たちには、盗賊は山寨に立て籠もっていて、それもバール帝国側らしいんです」
そこまではティスも知っている。
クイッドの説明に頷いてみせた。
今度はパターガーが口を開く。
「数百って、聞かされているよ。まだ数字は確認中だが、かなり正確だと思う」
たった3人で正面から挑んで勝てる数字ではない。
(パターガー様次第かしら?腕利きなのは雰囲気で分かる)
直接、強敵との戦闘を見たことはなかった。
だが、動きの1つ1つから伝わってくる。
「誰かさんは私に死んで欲しいのかしら?」
笑顔のままティスは呟く。
パターガーとクイッドも否定しづらいようだ。
(まぁ、たとえ数百だろうと、やりようはあるのだけれど。時間がかかるかしら)
ティスはため息をつき、カートの顔をつい、思い浮かべるのであった。




