十数年停滞してたヴァラド前線は次第に衰え、やがて消えるそうです 4
編み物の魔物に取り憑かれてました
地平線へと沈みかけた陽は山陰に隠れ、やがて空は群青色に染まっていく
冷えきった夜の空気
街の入り口で、防寒具に身を包んだフィリアは白い息を吐きながら周囲をしきりに見渡す
「そろそろ?」
そう隣に立つ3人へと声を掛けると、リーゼが答えた
「えぇ、そろそろ来る筈です」
彼女の言葉の通りに街道の向こう側から灯る光
徐々に大きくなっていき、地面とタイヤの擦れ合う音が鮮明に聞こえ始めた頃には、セドの肩が自然と上がり出す
「来た」
見えてきた2台の車に、いよいよかとフィリアは呟く
1台はいかにもなベンツの様な黒塗りの車、1台は緑の布が貼られたトラック
それが彼女達の前に音も無く止まり、彼女達の間に張り詰めた空気が流れた
運転手が出てきて、後部座席の扉を開くと中から初老の男性が出て来る
ーー大きい・・・
エオーネと同じ、180cmはあろうかと言う巨体を見上げた
身体は服の上からでも分かるほどに筋肉が盛り上がり、無言で佇む姿だけでも威圧感を感じる
王国の守護
大貴族たるヴァラド家の現当主ソガラ・ヴァラド
彼が大貴族たる所以を、フィリアは全身で感じ取った
「いらっしゃいませ、お義父様」
貞淑に挨拶をしたリーゼにソガラは笑みを浮かべる
「おぉリーゼ、息災か?」
「はい、お義父様もお元気そうで、お仕事の方は如何ですか?」
「変わり無しだが・・・優秀な義娘がいなくなったから苦労しとるよ」
「まぁ、お上手ですこと」
何気ない会話に笑い合う2人
久方ぶりに会った娘との親子の時間がそこにはあった
そして、それはセドに対してもである
「セドは・・・どうだ・・・?」
「俺の方も変わり無しです。・・・父上」
「そうか・・・」
先程と同じ
だが、お互いにぎこちなさが宿っていた
暫しの沈黙が2人の間に流れる
それはまるで、離れていた時間の長さを象徴している様だった
「ソガラ卿、少し宜しいですかな?」
沈黙を破る様に声が掛けられた
目を向けてみれば、そこには6機のMRAが立っている
一見すれば軍用の正式量産タイプ
しかし、暗い中で目を凝らせば背中に何かを背負っているのがわかる
彼らは何なのかと、フィリアは疑問に思うが、その答えを提示する様にソガラは声を掛けた
「おぉ、すまない、紹介が遅れた」
「お義父様、この方達は・・・?」
「フィリス王女から預かった部隊だ」
そう言うと続きを促す様に先頭に立つMRAへと目を向ける
「ご紹介に預かりました。この度ソガラ卿の護衛を務めさせていただく、第23試験隊、私は隊長のオリバーと言います。よろしく」
第23"試験"隊
その名称にセドの眉が僅かに動く
「戦闘になる事は、折り込み済みという事か」
「護衛ついでに実践テストが出来るのならば、都合が良いからな」
被せる様に発された言葉を、フィリアは冷たいものに感じた
「師匠に会いに来たんじゃ・・・ないんですか・・・?」
トローネも同じ気持ちだったのだろう
困惑した気持ちをそのまま吐き出す
その問い掛けに、ソガラは目を伏せる
「トローネさん、ワシはこの国の大貴族だ・・・ならばこそ、狙う者は数多いる」
備えあれば憂いなし
彼が言いたい事を悟り、トローネは口を紡ぐ
ただ親子が合うだけ
それだけでもこの街では難しいのだ
「大丈夫」
だからこそ、フィリアは口にする
「私達も、いる」
多くは語らない
例えこの街がどの様な状況であろうとも自分達が守ると、短く伝えた
その言葉にソガラは小さく笑う
「頼りにしている」
自身に向けた真っ直ぐな言葉にフィリアは力強く頷いた
それ見たソガラは、満足げな表情を浮かべると視線をリーゼとセドへと向ける
「では、リーゼ、セド、そろそろ案内してくれるか、お前達が住んでる街を見てみたいんだ」
「わかりましたわ、お兄様」
「あ、あぁ・・・父上、こちらです」
頭を下げセドへと視線を送ると、彼は僅かに固くなりながらも頷く
そして、彼らは街の中へと向かい歩き出した
「動きました」
街の中心、役場のバルコニー
変身した灯夜はスーツの望遠機能を使い、護衛対象が動き出したのを見ると呟く
その言葉に反応して、彼の隣で蠢く影があった
「お、ようやく動いたのかい、とっとと出て来て終わらせておくれ、寒くて仕方がない」
「そんな物騒な事言わないで下さいよ・・・何も無い方が良いんですから・・・」
肩を下げ、ため息を吐きながら顔を隣に立つダーカーへと向けた
腕を組み肩を上げて、縮こまりながら震える彼女は、視線を向けられると声を荒げる
「誰のせいだと思ってるんだい・・・? 私の作ったライトニングを勝手に改造した癖に!」
改造した
それは彼が新たに手にした力、フォトンの事だ
しかし、灯夜としても自分の意思とは関係ない所で勝手に改造された様なものである
納得が行かず口を開き、オズオズと言葉を紡ぐ
「いや・・・あれは、その・・・俺も知らない内に・・・」
「あぁ?」
「すみません・・・」
言い訳虚しく、怒りの滲む鋭い視線を向けられ縮こまる
そんな彼らへと湯気の立ち上るカップが差し出された
「こらアイン、ダメじゃないか・・・あんまりトウヤくんを虐めてやるなよ」
「イダチ・・・あんたも・・・!」
「それに、彼の新たな力はわざわざ直接見ようとするくらい、興味深いものなんだろう?」
「う・・・まぁそれは・・・」
「温かいものでも飲んで落ち着けよ」
「ほら」と差し出されたカップを、ダーカーは渋々受け取る
手のひらに広がる温かな感覚へと意識を向けた彼女は、ただ静かにカップへと白い息を吹きかけた
その姿を見てイダチは満足そうに微笑む
「ほら、トウヤくんも」
「ありがとうイダチ・・・あぁ、すまん、場所まで借りたのにこんなことまで・・・」
「気にするなよ、君にはこの街を守ってもらってる借りがある・・・それに、俺個人としても気になる事があるしな・・・」
手すりに背中を預けながら発された言葉に、灯夜は眉を顰めた
「気になる事・・・って、なんだよ?」
「・・・スーラ様のな、机の中に気になる文書を見つけたんだ」
「ラスの・・・?」
突然発された亡き義父の名に、ダーカーは困惑した様子を浮かべ、イダチは「あぁ」と小さく頷く
「組織の目的について調べていたらしいのだが・・・何らかの存在を復活させようとしていた様だ」
「何らかって何だよ」
「そこまではスーラ様も分からなかったらしい・・・正直、1番の問題はその目的がハッキリとしない事なんだ」
その言葉に灯夜もダーカーも困惑する
「訳がわからない・・・何かを復活させる事が目的じゃないのかい?」
「復活させる事はさせる・・・だが・・・」
目的というものには得てして途中経過としての目標が存在する
それらを達成する為に人は行動するのだがーー
「奴らが、それを使って何をしたいのかがわからないんだ」
何かを復活させるなどはあくまで"目標"に過ぎない
重要なのはそれを使い、何をするかなのだから
「それって・・・」
果たして、組織の目的とは何か
魔国の下部組織としてならば、魔国の為に
そう結論付けれるが
言いしれぬ不安感から、灯夜は胸の内に気持ち悪さが浮かぶのだった
第23試験隊
王国軍試験部隊のひとつ
基本的に戦場に出る事はないが、今回は
1.灯夜達と8大罪のいるベガドの街である事
2.護衛対象がソガラ
という事もあり、実戦テストを行うことに
使用される試験機は特務遊撃隊からの情報をフィードバックした新型量産機の技術検証機
王国側としては戦後を見据え、高価な特務遊撃隊機と安価な新型軍用MRAによるハイローミックス構造的なのを考えている




