表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 万貴三三
第四章 生まれ廻りて集いし混沌
246/248

十数年停滞してたヴァラド前線は次第に衰え、やがて消えるそうです 3

すみません、編み物にハマりかけてました


冒険者ギルドには、今日も朝から人だかりが出来ている


今の季節であれば、冬眠が出来なかった魔獣の討伐や雪かきなどが彼らの主な仕事だ


だが、そんな人だかりも朝の時間帯が過ぎると途端に消え去る


「今日も多かったぁ・・・」


そう言って机にへたり込む受付嬢を見てゼトアは小さく笑う


「まぁアレだけの騒動があったのに、こんなに依頼を受けてくれる人がいるのはありがたい話ではないですか」


「それもそうですけど・・・にしても多過ぎますよぉ」


疲れ切った様子を見せる受付嬢にゼトアは苦笑いを浮かべた

ただ一言だけ「お疲れ様です」と呟くと自身の業務を黙々と進める


その姿を見た受付嬢も、仕事に取り掛かろうとした



そんな時だった

幽鬼の様な空気を纏う男が入ってきたのは


「ヒェッ・・・」


それを最初に発見した受付嬢は思わず喉の奥でか細い声を鳴らす


不審者が入ってきたと思い、狼狽えながら隣にいるゼトアへと、急ぎ声をかける


「あ、あの・・・ゼトアさん・・・」


「どうしましたか? 早く終わらせないと午前までに処理が終わりませんよ」


だが、当の本人はその存在に気が付いていない


黙々と事務作業を進めていくが、その間にも男は近付いてきていた


「ゼトアさん、あの人ヤバいですよ!」


「どうしたんですか、声を荒げて・・・そんな人なんて日常茶は・・・ん・・・」


ようやく気が付いた彼は、目の前にまで迫った男の姿に思わず表情を引き攣らせた


「と、灯夜さん・・・? いったいどうしたんですか・・・?」


いつもとは違う、何処となく死んだ目

表情筋が死に絶え、垂れ下がり今にも泣きそうな表情を浮かべる彼に、硬い声音で声を掛けた


すると、彼は弱々しく言葉を口にする


「何で俺謹慎処分なのか・・・いい加減教えてくださいよぉ・・・」


「あっ・・・と・・・」


その説明を彼とて忘れていた訳ではない

だが、協議中故に連絡が遅れたのだ


しかし、そうだとしても遅れたことは事実である為、絞り出すような声で一言だけ告げた


「すみません・・・」








それからすぐに灯夜は応接室へと案内された


外の喧騒も届かない静寂な空間、ソファに座れば軋む音が鮮明に聞こえる


そんな空間が、灯夜に正気を取り戻させた


ーーやべ、流石にマズったかも・・・ 


彼は謂わば新卒1年目のようなものである

さらに言えば謹慎の理由も何となくは想像がつく


それなのに押し掛けてしまった自分の行動を思い返すと、灯夜は少しばかり縮こまっていた


少し身体を動かしては視線を動かし、無意味に部屋の中を見て回る


ーー俺が原因なのに、やっちゃったなぁ・・・


鼓動が早鳴り、冷や汗が止まらない

自身が来た事を忘れてくれないかと懇願する


しかし、無情にも部屋のドアは開かれた


「灯夜さん、お待たせしました」


「いえ、全然待ってないです!!」


肩を大きく動かしながら叫ぶ


何事かと驚くゼトアではあったが、小さく笑うとソファに腰を下ろす


これから説教されるのでは無いかと思い、灯夜は身体を震わせる


だが、彼は無言のまま、ただ手に持つ一枚の紙を机の上に置いた


首を伸ばし見てみると、そこには依頼者と書かれている


「これが灯夜さんを謹慎処分にした理由です。読んで下さい」


どういう事なのか、そう眉を顰めながらも紙を手に取り目を通す


「これ・・・」


一通り目を通し、その内容に目を見開く



依頼種別:護衛

依頼者:ソガラ・ヴァラド


「はい、灯夜さんにはこの任務についてもらいたく一時的に謹慎処分という程にさせていただきました」


「え、いや・・・でも、なら何で・・・」


意味が分からず、困惑から苛立ちが芽生え眉を顰めるが、ゼトアは尚も態度を崩さず答えた


「さぁ・・・そこは私にも知らされていないのですが、何があっても良いようにと・・・」


濁された言葉に、不満げな表情を灯夜は浮かべる


何故なのかと腕を組み、唸り考えたようとした

されど、答えは出ない




「フェイル」




そんな時、徐にゼトアの口から発されたに名前にビクリと肩が震えた


顔を上げてみると、彼は眉を下げ困ったように微笑んでいる


「ゼトアさん・・・?」


何故だかこちらを見ていない様に見えた


自分では無い"何か"に向けて言葉を発しているのだと思ってしまう


「きっと実力が見たいんですよ、あなたが最初から姿を見せていると、敵も出てこないかも知れないですから」


「あ・・・あぁ、そういう事ですか」


だが、彼が再び言葉を発すると、一瞬だけ垣間見えた違和感は消えていた

いつもと変わらぬゼトアの姿に、灯夜は胸を撫で下ろす


そして、渡された依頼が初代勇者フェイルの生まれ変わりに対しての依頼なのだという事も理解した


「えぇ、何せフェイルの功績は凄いものばかりですからね、彼は本当にすごい」


「はは・・・やば・・・」


熱を込めて讃える姿に引き攣った笑みを浮かべる


しかし、この時灯夜の頭の中では、別の思考が巡り始めていた


浅間灯夜は初代勇者フェイルの生まれ変わりである

その事は、既にフィリスへと伝えられている


何故今回の様な依頼が来た事も納得はできた


同時に、嫌な想像も働く


「・・・あれ・・・これってまさか、監視とかそういう?」


ふと、頭をよぎった考えを口にすると、ゼトアは眉を下げた


「えぇ、まぁ・・・それも含まれているでしょうね、あなたという存在は恐ろしいですから」


恐ろしい

突きつけられた言葉が明瞭に耳へと入り頭の中で響く


力無く顔を伏せると、手で覆い「あぁ」と小さく声を漏らす


「そりゃ・・・そうですよね・・・」


初代勇者とは今なお超えるもの無しと評されるほどの存在


そんな者の生まれ変わりが現れたのならば、厄介極まりない事この上ないだろう


今に至って、それがようやく想像出来た

何故セドに伝える許可を出したのかと、己の軽率さを呪う


「俺ってそんな厄介な存在なんですか・・・?」


一体この先どうなるのか

胸中に滲み出てきた不安を言葉に乗せて発する


そんな彼の心情を感じ取りながらも、ゼトアは頷く


「・・・そう考えてる人もいるでしょうね」


「あぁ・・・マジかぁ・・・」


乾いた笑いが溢れた


危険物扱いされてる

そう思うと、心に重くのし掛かるものがあった


「俺・・・解剖とかされます・・・?」


「いやいや、されませんよ」


顔を上げることなく、力無く妄想を言葉にする


そんな言葉を一蹴するゼトアの声を聞き、一時灯夜は安堵した


だが、解剖はされないでも、王国に身柄を拘束されるのではないか

この街から離れなければならないのでは無いか


そんな想像が次々と頭を巡っていき、心が重くなっていく


「大丈夫ですよ、君は何もされませんよ」


投げかけられた気休めの言葉

何の感情も宿っている様子もない平坦な声の羅列は灯夜の心を逆撫でした


「どうして」


感情的になり、言葉を返そうと顔を上げた


「どうして、そんな事わかるんで・・・す・・・」


その瞬間ーー


言葉が尻窄んでいく


僅か一瞬

目を離した隙に起こった些細とも言える。小さな変化



まるで人形の様にのっぺりとした

不自然なまでに"満面"の笑みを浮かべているゼトアの顔に、灯夜は息を呑む


ーーあれ・・・?


何事かと顔を伏せ目を擦ると、今一度彼の顔を注視する


そこには心配そうな眼差しを向ける彼の姿があった


「どうしました?」


「あ、すみません・・・何でもないです」


灯夜は、それだけ言うと口を閉じる


そんな彼をゼトアは不思議そうに見ながらも言葉を続けた


「まぁとにかく・・・何もされないに決まってます。あなたは"フェイル"なんですから」


やはり、何かが違うと感じてしまう


小さく嗤い、まるで嘲る様に発された言葉

その言葉に、いつもの彼とは明らかに違う何かを、灯夜は感じざるおえない


「いや、その・・・ですから、それはなんでかって・・・」





その言葉が契機だった


景色が変わったーー


そう思える程に、部屋の空気が重くなり

明るいはずの室内が仄暗く感じる


確かな異変に灯夜は眼を見開き、何が起こったのかと思考を巡らせようとして、止まった


「"灯夜"さん」


目の前にいる筈なのに、声が遠くから聞こえた


「ですから、大丈夫です」


視線の先にあったのは黒

深淵よりも奥底が見えない、吸い込まれそうな程に、暗く沈んだ瞳


「君は言うなれば・・・この世界の産んだ終末兵器」


薄く微笑んだ姿に、先程までの温和な笑顔の面影は無く

形だけとも言える程に、その表情に感情の機微を感じられない



美しくも悍ましいとも言えるその表情に、灯夜は息を呑んだ


「誰も・・・あなたに、手を出せませんよ」


ゆっくりと眼を細め微笑む彼の姿に、灯夜の手が僅かに震えた

仄暗い瞳に、何処までも落ちていきそうな感覚に陥った


鈍く巡り始めた思考が、彼の言葉を反芻する


終末兵器

まるで、自分が生まれたのは原初の魔王を倒す以外にも目的がある様な言い方


声を出し問いかけようとするが、喉が動かない


「それって・・・どういう・・・」


やっとのことで絞り出した声は、彼自身も驚く程に掠れていた


首を傾げ、ゼトアはほんの僅かに考える仕草をする


「今はまだ、知らなくても大丈夫ですよ」


しかし、返って来たのは説明する気は無い、暗にそう伝える言葉


意味が分からず、ただ彼の顔をじっと見つめ続けた


ほんの一瞬、沈黙が2人を包み込む


知っている筈の男の何か含む様な言葉

灯夜の胸中には、得も言えぬ気持ち悪さだけが残った


「・・・ゼトアさん、今日・・・あんた、おかしいぞ」


取り繕う事もできず、溢れ出しすままに言葉震えた声で言い放つ


「そうかも・・・知らないですね・・・」


そんな事を言われても、彼は笑みを絶やさない


「・・・依頼はわかりました。失礼します!」


いつもとは違う様子に無理やり身体を動かし席を立つと、灯夜は逃げる様に部屋を後にしようとする


感情のままにドカドカと足音を鳴らしドアノブへ手をかけた


「そうだ」


そこで何かを思い出したかの様に、ゼトアは声を上げる


灯夜は振り向く事なく部屋を後にしようとしたがーー


「マインの最後は・・・どうでしたか?」


哀愁の漂う声に、ドアノブを捻ったまま手が止まる


灯夜の生みの親にして、滅び行く世界を何度も経験した神父

脳裏に浮かんだ彼の顔を思い出し、重く感じる口をゆっくりと開いた


「・・・笑いながら逝ったそうですよ」


その言葉に背後から小さく息を漏らし笑う声がした


「・・・そうですか、それは・・・良かった」


振り向かなくともわかる

彼は今安堵の表情を浮かべているのだと


眉間に皺を寄せ、小さく息を吐く

そうして、別れを告げる様に扉を開けて部屋から出た



1人残されたゼトアはソファに背を預けると小さく息を吐く


「・・・あなたは笑って終われたのですね」


小さく呟かれた言葉は、緩い空気の中へと消えていった





「羨ましい」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ