第38話 十数年停滞してたヴァラド前線は次第に衰え、やがて消えるそうです
俺の文章
どういうのが正解なんですかねぇ
色々変えてみてるけど、まぁじでわっかんね
灯夜が帰還してから翌日の夜
バーエオーネには明るい笑い声と、氷が揺れるグラスの硬い音が重なり合っていた
今日という日の終わりを告げる音
「俺、ここにいて良いんですかね」
そんな中で、ただ1人
目の前に置かれたアルコール入りのグラスに口を付けず見つめていた灯夜は、静かに呟いた
「どうしたの?」
藪から棒にどうしたのかと
顔を覗き込みながらエオーネは声を掛ける
すると、躊躇いながらも少しずつ話し始めた
「あぁいえ、俺って・・・この世界に来たと思った"春"に生まれたわけじゃないですか・・・」
その言葉に何が言いたいのかわかり、「あぁ」と短く頷いた
「実質新生児みたいなものだし、飲んで良いのかってこと?」
「はい・・・」
眉間に皺を寄せ、深刻そうに灯夜は頷く
エオーネは一瞬考える素振りを見せるが、そんな事で悩んでいるのかと思うと、次の瞬間には思わず噴き出し笑ってしまう
「な、何ですか」
頬を赤らめ、抗議的な表情を灯夜は浮かべる
「ごめんなさいね、今更じゃないって思って」
「今更って・・・いや、まぁそうですけど」
「そもそも新生児ならそんな悩みを持たないわ」
「あ、確かに・・・」
言われてみればそうであった
そもそも、生まれは確かに最近とは言え、身体は立派な大人であるし
今に至るまで飲み散らかしてきたのに今更心配する事でもない
「それも・・・そうですね、そうですね!」
単純
エオーネの言い分に納得した表情を浮かべると、灯夜は早速とばかりにグラスを手に取ろうとした
のだがーー
「あれ・・・あれ!?」
目の前に置かれていた筈のグラスが見当たらない
落としたかと思いカウンターの下を覗き込むが、埃ひとつ落ちていない
「何でな・・・」
そう思い周囲を見渡してみると、呆気なく犯人は見つかる
「新生児の灯夜くん、飲酒はダメですよぉ、ちゃんとミルクを飲まないとぉ」
「茜さん!?」
カウンターの端に座っていた筈の茜が彼の背後に立っていたのだ
その手には彼のグラスが握られている
「ちょ、返して下さいよ!」
「ダメでーす。没収でーす」
盗られたグラスを取り戻そうと何度も手を伸ばすが、その度に茜は煽りながらひらりと身を翻して躱わす
側から見れば、まるで子供の様な戯れ合い
「・・・ガキかよ」
そんな2人を見て篝野は呆れた表情を浮かべる
「茜も嬉しいのよ、灯夜が帰って来てくれて」
「・・・それでアレはガキだろ」
雫の言い分を理解出来ない訳ではないが、今も尚続くグラスの奪い合いにその言葉が出ざるを得ない
「あっ・・・そうだ、おい、坊主!」
そんな彼らを見て、何かを思い出したのか
篝野が灯夜へと声を掛けた
「ん、何だよおっちゃん」
突然どうしたのかと思いながら振り向くと、言い辛そうに頭を掻きながら口を開く篝野の姿が見えた
「おっちゃん言うな、それで・・・なんだ、あれから身体の調子はどうだ?」
言い淀みながらも発された言葉に、心配してくれてるのかと思い灯夜の顔に笑みが浮かぶ
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
ほらこんなに、と肩まで上げた腕を折って全身でアピールする
しかし、それを見た彼の顔に落胆の色が仄かに浮かぶ
「いや、なんかほら・・・初代勇者が元になってんだし、空飛んで光線出せたりとか、変身しなくても光速で動けたりとか、スーパーパワーに目覚めた! みたいなそんな感覚はないのか?」
「空飛んで光線って・・・そんなの特に無いよ」
確かに光魔法を使える装備"は"作り出した
だが、他の変化と言えば魔力が増えたくらいで、彼の言うような典型的な力には目覚めてはいない
先程よりも落胆の色を濃くした様子に、フィリアも不思議に思う
「気になる?」
「あ、あぁいや・・・何も無いなら、いいや・・・」
問い掛けられた言葉にそれだけ返すと、再びグラスを手に取り仰ぎ始める
いったいどうしたのかと、灯夜は思わず眉を顰めた
そんな時だ
鈴の音を響かせ店の扉が開かれたのは
誰が来たのかと、皆が黙り込み視線を扉へと向けてみればーー
「あ、セドさ・・・」
「やぁ、みんな! 元気にしているか!」
何やら気味の悪い程に笑顔を張り付かせたセドの姿が見えて、皆の思考が鈍くなり、動きが止まる
「ん・・・え? 誰?」
先程までの熱が一瞬で消え、冷たくなっていく空気
発せられた一声に、何とか灯夜だけが声を絞り出すが、彼は止まる事なく勝手に1人で喋り続けた
「今日も星が綺麗だな、うん!」
空など見えるはずのない、照明の光が煌々と灯る天井を見上げ1人で満足げに頷く
その何とも言えない姿に皆が同じことを考えた
ーー誰だこいつ
いつもの様な気取った雰囲気は消え、無理に作り出した様な快活な姿を見せていた
ここまで明るいと、逆に不気味である
ひょっとして、またウココツが分体を使って悪さをしようとしているのでは無いかと、疑心暗鬼になり武器を構えようともした
だが、感じる魔力は確かにセドのもの
その事実が余計に困惑に拍車をかけた
「あの・・・どうしたんですか・・・?」
恐る恐る尋ねてみるが、彼は良い笑みを浮かべたまま答えた
「べ、別に何も無い・・・そうだ、皆でピクニックでもどうだ!」
彼の方から出掛けることを提案するなど、余計に気味が悪かった
ーーあれ・・・?
そこで灯夜は気がつく
ーーめっちゃ口の端動いてる
彼の口角がヒクヒクと震えている
無理して笑顔を作っているのが丸わかりだ
これは何かあるな
そう皆が気が付くまでさほど時間は掛からなかった
「何かあるなら・・・相談乗るよ?」
「いや、いい」
困惑した茜の言葉を突っぱねる
「無理、ダメ」
「してない」
フィリアの言葉に断りの言葉を被せた
「気晴らしにどっか飲みに行きます? 俺、お供しますよ」
「行くなら街の外にしよう」
余程、街に居たく無いのだろう
一体何があったというのか
皆が原因を考えようとする
その時だ
今一度鈴の音が鳴り響き、扉が開かれたのはーー
「あ、師匠いた!」
「お義兄様、ここにいたんですね」
聞こえて来た2つの声
それに反応して肩を震わせると、セドは壊れかけのからくり人形の様にカタカタと首を動かす
「トローネ・・・リーゼ・・・」
「もう、早く帰りますよ」
「いや、待て・・・その、何だ・・・色々とだな・・・」
リーゼの言葉に、後退りして2人から遠ざろうとする
「色々って何ですか! 折角の機会なんですから、ちゃんとお話ししない・・・と・・・!」
2人してセドを連れ出そうと服を掴み引っ張ろうとする
「い・・・やだ、引っ張る・・・な・・・!」
だが、彼は抵抗の意思を見せ机にへばり付き動こうとしない
駄々を捏ねた子供の様にも見える何とも情け無い姿
いったい何が彼にそこまでの拒否感を抱かせるのか
「何でっ! こんなに! 頑固なんですか!!」
「あの・・・何かあったんですか・・・?」
そう灯夜が尋ねると、一方は困り顔で、また一方は興奮気味に答えた
「お義父様が来られるのです」
「師匠のお父さんが遊びに来るんです!」
「あー、なるほど」
その言葉に納得する
セドと実父との関係は、連絡を取り合う様にはなったが、実に業務的らしい事は灯夜の耳にも入っていたからだ
生誕祭の時も、仕事の話以外に会話は無く、親子の会話としては実に簡素なものだったらしい
そんな父が、遊びに来る
確かにそれはーー
「なんか、どうすればわかんなくて居づらいですもんね」
「そんな憐れみの滲んだ視線を向けるな・・・!」
憐憫の視線を向けられ、セドは湧き上がってくる羞恥心から顔を逸らす
「折角お父さんが来てくれるんですから・・・準備しないとダメですよ!」
「わかってる・・・わかってるんだが、遊びに来るなど・・・いったい、いったい何をしに来るつもりなんだ!!」
「いえ、ですから遊びに来るんですよ・・・」
流石のリーゼも、彼の言葉に呆れる
「気持ちはわからなくも無いけどね」
「確かに、雫のお父さん厳しいもんねぇ」
「にしたってだろ・・・何がそんなに嫌なんだよ」
そう、篝野が問い掛けると彼は僅かに頬を染め上げながら小さく呟いた
「仕事以外の事で・・・何を話せば良いのか・・・わからんのだ・・・」
「・・・・・・ふっ」
その言葉に、薄く笑みを浮かべた篝野の口から失笑が漏れ出た
「う・・・む・・・わ、笑うことはないだろう」
「いや、思春期真っ只中のティーンじゃ無いんだから普通に話せば良いだろ」
「いや、まぁ・・・それもそうだが・・・」
モゴモゴと言い淀む彼の姿に、篝野は小さくため息を吐いた
「親子の会話なんてな、そう気張る必要無いんだよ、身体の調子はどうだとか、元気にしてたか、とか適当で良いんだよ」
「むぅ・・・」
「え、意外・・・おっちゃんって、結構まともな事言うんだ・・・」
灯夜にとっての篝野は、授業をつけてもらった時の論理を許さぬ根性論の塊という認識だ
故に珍しく含蓄を垂れる篝野の姿に感心する
「意外とはなんだ、意外とは、まぁ俺も父親・・・にあたる奴とは死に別れてるからな、気持ちはわかるけど、とりあえず会って適当に話してでもしておいた方が良い事もあるぞ」
「う・・・まぁそれは、そうだな・・・」
渋々ながらも納得の意を示すと、セドはゆっくりとしがみついていた机から離れた
「それでは・・・」
「あぁ、合うために準備でもするか」
その言葉にリーゼとトローネの顔が明るくなり、見ていた灯夜達の顔にも笑みが溢れた
「まぁ楽しんで来てください」
「あぁそうするよ・・・そうだ、フィリア」
急に名前を呼ばれ、何事かと思い小首を傾げながら彼女は返事をした
「なに?」
「明日父上の護衛として、お前にもついて来てほしい」
ヴァラド家は大貴族であり、その当主がこの魔境とも言える街に来るのであれば組織にとっては格好の的である
それ故の護衛依頼だと理解はできたが、ひとつ不思議に思うことがあった
「灯夜は?」
この街の最高戦力とも言える彼を差し置いて、何故自分なのかと思ったのだ
だが、告げられた答えに、いの一番に灯夜が声を上げることになった
「こいつは謹慎処分だ」
「へぇ・・・えぇ!?」
他人事の様に流しそうになるが、彼の発言を理解した瞬間、鈍器で頭を殴られた様な衝撃が彼の頭に走った
「な、な、な・・・」
「理由はどうであれ、1週間近くの無断出勤、これが原因だそうだぞ、じきにゾトアからも連絡が来るだろうな」
告げられた言葉に納得するとヘナヘナと床へと崩れ落ちる
「そんなぁ・・・」
弱々しい声を上げる彼に、皆は同情の眼差しを向けるのだった
「まぁ、とりあえず飲もうや、給料無いけど」
「うるせぇ無職・・・」
空虚な声が店の中に響いた




