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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 万貴三三
第四章 生まれ廻りて集いし混沌
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光陰流水さりとて火はまた灯る 6

陽光が真上から落ち、昼を告げる騒めきが遠くで膨らみ始めていた


市場へ向かう笑い声、呼び声


その全てから切り離されたように少女は1人橋の上に立っていた


静かに水路の水面を覗き込むが、穏やかな流れは何も映さない


ーーどこにいったの


昨夜、灯夜は自身の意思を取り戻していた

それでも彼は何処かに行ってしまった


自分達を傷つけた事に責任を感じているのだろうか

それとも、まだ不安定だったのだろうか


わからない

考えれば考える程に胸の内に宿る蟠りから、小さくため息が漏れた


「どうしたの?」


背後から声が掛けられた

何処か聞き覚えのある声


一瞬それを聞き流す

しかし、気付いた瞬間、心臓が跳ね上がり反射的に振り返る


「ウツツ・・・!?」


「やっ、フィリアちゃん、2日ぶりくらい?」


手のひらをひらひらと振る

暖かな日差しの元だと言うのに、冬の空気よりもやけに冷たく見える笑顔を浮かべながら


「何しに来たの?」


「何しに来たって、前も言ったじゃない・・・迎えに来たって」


そう彼女が言った瞬間ーー


屋根の上、建物の影、路地の奥

視界の端という端から人影が現れた


その数は数え切れないが、30人以上いるのは間違いないだろう


ニヤけ顔の者、顰めっ面の者、無表情の者

姿形や表情は様々であったが、皆一様にフィリアに向けて粘りつくような殺気を向けてくる


ただの人ではない、それが怪人であると言うことは語られずともわかった


『空間魔法、アクティベート』


「変身」


『音声認識完了、エクスチェンジ』 


張り詰め出した空気の中、変身すると武器を構える


「もう、説得しに来ただけなのに、随分と交戦的じゃん」


「こんなに、連れてるのに?」


説得ではない

これはもはや脅迫の類だ


返した言葉をウツツが喉の奥で笑う


「当たり前でしょう、説得ってのは・・・自分の優位性を明らかにしてないとね」


端正な顔立ちを醜く歪めながらそう言った彼女は、躊躇う事なく部下達へ告げる


「やれ」


その言葉と共に人々の身体が一斉に、歪む


身体が膨れ上がり異形の怪人へと姿を変えた


ーー来る


そんな予感と共に怪人達は襲い掛かった


伸ばされた触腕を踏み込むと同時に弾く

間髪入れずに迫って来た赤い甲殻の怪人の一撃を受け流そうとする


「グッ・・・!?」


刃の先に鋏が叩きつけられた瞬間、骨まで響くような衝撃が腕を貫いた

なんとか受け流すが、手が痺れ握力が抜けかける


それでもと力を込め強く武器を握り締めると、返す刃で怪人を斬りつけ、火花が散った


ーー近い


距離を離そうと飛び上がるが、そんな彼女へ向けて水流カッターが迫った


足裏に展開した結界魔法を足場に空中で咄嗟に軌道を変える


変幻自在に飛び回り、次々と撃ち放たれる怪人の攻撃を躱していく


しかし、息を吐く暇もない程の連携に追い込まれていった


防戦一方の戦い

以前であれば30体程度の怪人などに遅れをとることは無かった


だが、この怪人達は違う


「どう? 改良された怪人達の強さは!」


目を見開き、喜色を滲ませた声音でウツツが叫ぶ


構っている余裕などフィリアには無かった


弾幕の様な対空攻撃

逃げ場を削るような連携に対応が一歩遅れ始める


「マズイ・・・」


劣勢

覆せない状況から、一旦撤退する事も視野に入れようとする


「撤退しても良いのよ?」


だが、そんな彼女をウツツは逃さない


「その代わり・・・このまま市場の方まで行っちゃうけど」


「・・・っ!? ウツツ!!」


妖艶とも言える醜い笑みを浮かべ告げられた言葉に、怒りを滲ませる


人質

自分が逃げれば市場にいる人達への被害は甚大なものになるだろう


逃げる事は出来ない

だからこそ、徐々に追い詰められていく


張り詰めた緊張の糸の中で、怒りから歯を食いしばりーー


一瞬の隙を突かれた


「アグッ・・・!?」


水流カッターが肩を掠めたのだ


一瞬、焼けるような痛みが走り

遅れて熱が広がっていく感覚と共に腕が思うように上がらなくなる


咄嗟の事に動揺した彼女は、バランスを崩し地面へと落ちていく


装甲が剥げた箇所は、行き場を失った魔力が干渉しあいバチバチと火花を上げている


ーーまずい


このままではやられてしまう


「大丈夫ぅ? 随分とボロボロだけど」


「・・・うるさい」


煽るような物言いに、静かに反抗の意思を示すと、ウツツは態とらしく肩をすくめた


「怖っ、強がるはやめて大人しく着いて来てよ、そうすればこれ以上怪我する事なんてないんだからさ」


「断る」


だが、頑なに彼女は拒む


「強情だなぁ」と嗤うウツツだが、見つめてくるフィリアの瞳に強い意思を感じ取り、さらに笑みを深めた


「だったら、ちょっとくらい手足がもげていても良いよねぇ・・・このまま囲んで叩け」


指示の元、怪人達はフィリアを取り囲んだ


だが、フィリアとてむざむざとやられてやるつもりはない


膝を震わせ、折れそうになりながらも立ち上がると怪人達へと再び斬りかかる


まずは目の前にいる一つ目に触腕を持った怪人を魔力を纏った刃で斬りつけ撃破する


斜線を調節して、水流カッターを放ち3体の怪人の身体を撃ち抜き撃破した


自身の持てる力を振るい、怪人を撃破していく


だが、所詮は多勢に無勢

それもいつかは限界が来る


振るわれた触腕が彼女の身体を殴り付ける


「グゥ・・・!?」



足に力が入らず、膝が勝手に折れる

それでもと、地面を掴むようにして無理やり立ち上がるが、狙ったかのように尖った鋏のような腕が振り上げられた


戦闘服に展開された防御結界を引き裂き火花が散る


「アグッ!」


鞭のようなしなやかな指が甲高い音を立てながら振るわれ、防御結界と共に戦闘服が軋み、砕けた


纏っていた戦闘服が光の粒となり消えていく

そんな中でフィリアは苦悶の表情を浮かべる


「残念ね」


膝を突く彼女を見て、口角を上げたウツツはその最後の瞬間を見届けようと目を大きく開いた


そんな言葉と同時に、振り下ろされてくるカマキリ型怪人の拳がやけにゆっくりに感じられる


ーーごめん


覚悟を決めたフィリアは瞳を閉じて、その時を待った






「すいません、遅れました」


硬質な打撃音

次いで柔らかな声が耳にやけにするりと入ってくる


まさかと思い目を開けば、彼女の視界の先には赤が広がっていた


どこまでも大きく、探し求めていた背中にハッと息を呑む


「灯夜・・・」


その姿が信じられず、空気に溶けるほどか細い声に彼は笑って返事をした



「大丈夫ですか、フィリアさん」


いつも通りの声、赤いスーツを見に纏った姿に、胸の奥がジワリと熱くなる


意識せずとも上がっていく口角のままにフィリアは頷いた


「そっか、良かった」


それだけ言うと、灯夜は怪人達と、その奥にいるウツツと相対する


ぶつかり合う視線

ウツツは顔を顰めワナワナと肩を震わせ声を荒げた


「アサマ・・・トウヤァァァ!!」


「すぐに終わらせます」


ウツツの声に構う事なく

灯夜は腕を折り、頬のすぐ横で静かに構えた


自身の魔力のみで空間魔法を発動させると彼の手のひらに1本の白い棒状のガジェットを取り出す


「やるよ、みんなの分も」


ーーやっちゃえ灯夜!


静かにそう呟くと、胸の内から声が聞こえた気がした


その声に導かれるままにブレスレットへとガジェットを装着し、擦り合わせた


『闇夜祓いて火はまた灯り、光と為す!』


機械音声の男の声が響く

その瞬間、灯夜の身体は光の膜に包まれ、それを振り払う


輝く空間魔法の破片の中で、聞こえて来た声に耳を傾ける


『それは、未来を照らす最初の一歩』


本来なら存在しない

だが、確かに胸の内にいる姉の声に己を奮い立たせ


『フォトン!!』


それが入り混じった声と共に灯夜は構えをとった


みんなから貰った灯火を、燃やすのだ

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