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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 万貴三三
第四章 生まれ廻りて集いし混沌
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光陰流水さりとて火はまた灯る 4

背後から聞こえた声に驚き振り向く


そこにいたのはトウヤだった


昨夜の様な異形とは違う

腹から足も背中から腕も出ていないが、月明かりすら遮ら程の巨体へと膨れ上がり紫へと変色したスーツを見に纏った彼は、静かにフィリアを見下ろしている


「トウヤ・・・」


呼びかけた声は、彼女自身が思っていた以上にか細かった


改めて見ても、いつもの彼との差異が胸をざわつかせる


怖い

だが、そう感じてしまった自分を、フィリアは噛み殺す


如何に恐ろしく感じようとも、ここで止まるわけにはいかないのだから


「帰ってきて、また一緒に・・・」


「違うよ?」


発した言葉は、あっさりと断ち切られた


小首を傾げながらその口から零れたのは、少女のような声と、低い男の声

重なり合った声音が不気味なほど自然に響く


「え・・・?」


呆気に取られた次の瞬間、顔が目前にあった


息がかかる距離


そこにあるのは空虚

何も感じさせない、無機質な“仮面”


「違うよ、違うよ違うの、僕は俺じゃ無いの、僕の感情も意識も目的も力も全部、全部全部全部全部ーー




ーー紛い物なの」


彼の言葉に理解が追いつかない


だが、その一言だけで十分だった

自身が失敗したのだと察するには


「僕僕僕僕僕は、私は誰? この感情はどの俺のもの? 記憶は、経験は、今ここにいる意思は誰のもの、わからない・・・わからないわからないわからないわからない!!」


狂った様に頭を振り乱す


ーーやめて


スーツを掻き乱し叫ぶ


「やめて・・・」


遂には口から漏れ出た心の叫びにトウヤは動きをピタリと止めて、ゆっくりと顔を向ける


「教えてくれよ・・・俺は誰なんだ・・・」


悲哀に満ちた弱々しく縋る様な響き

だが、その中にフィリアは確かに見た


「トウ・・・ヤ・・・?」


フィリアは、思わず一歩を踏み出す


もしかしたら本当に届くのかもしれない


そう思った瞬間


「フィリア、ごめん・・・流石にもう見てられない!」


彼女の両脇から2つの影が飛び出ると、トウヤを蹴り飛ばす


「茜ちゃん、雫ちゃん・・・何を!?」


「ごめんトウヤ、ちょっと動けなくさせるね!」


トウヤの悲痛な叫び

共に苦楽を共にした仲間へと刃を向けることに心を痛めながらも、魔力糸がトウヤへと絡み付き縛り上げた


「茜、雫・・・」


「すぐに動けなくするから・・・説得するならその後にしよう・・・」


「・・・うん」


先程の問答だけでも"トウヤ"の存在を感じる事はできた

このまま続ければきっと上手くいく


芽生え出した希望

そんな思考を遮る様に絶望はまた降り掛かる


「なんでこんな事するの・・・?」


男児の声でぽつりと呟く

そんな彼の姿に心が痛むが、救う為だと割り切ろうとした


その瞬間だった


プツンと、何かが切れる音がしたのは


トウヤを縛っているはずの魔力糸が千切れていってるのが見えたのは


「マズイ・・・!」


「そうか、そうなんだね、みんな操られてるんだ・・・なら!!」


魔力糸が軋み張り詰めーー


ーー弾け飛ぶ


その光景に皆が冷や汗を流す


「目を覚させてあげる!」


楽しげにそう呟いた瞬間


彼の姿が消えた


「えっ・・・?」


一瞬の困惑、だが、同時に何かが視界の端をよぎる


響く轟音

雫の身体がくの字に折れ曲がり、地面を滑る様に吹き飛んでいき、遅れて衝撃がやってくる


「雫・・・?」


背後から聞こえる激しい衝突音

何が起こったのか理解出来ず雫のいた方向へと顔を向けると、蹴りの姿勢から立て直すトウヤの姿があった


ーー速すぎて見えなかった


認識よりも先に結果だけが訪れた


これが嘗て原初の魔王を封印せしめた初代勇者の力かと、皆の表情から血の気が引く


「あ・・・ごめん、やり過ぎた・・・」


だが、そんな彼らを他所に当の本人はやり過ぎたと肩を下ろし反省した様子を見せていた


先程よりも何処か子供じみた所作

しかし、油断はならない


「くっ・・・!?」


「やるしかないわね!」


オータムとエオーネが踏み込み、トウヤへと挟撃を仕掛ける


手加減などしてやれぬ

すればこちらの身が危うい


全力で振るわれる刀と拳

両者ともに空気を割き、軌跡が見えぬ程の高速の一撃


だがーー


「・・・ぐっ!!?」


「・・・ちょっと、手加減してくれるんじゃなかったの」


旋風が吹き荒れながらも、振るわれた刀は両指で止められ、拳はもう片方の手で掴み取られた


どれだけ力を込めてもピクリとも動かなぬ程に強靭な力で抑え込まれ、2人の額に冷や汗が流れる


得手を掴まれ拘束された

だが、それは相手とて同じだ


「リーゼ、トローネ!」


「わかっております。お義兄様!」


「はい、師匠!!」


これを好機と見たセド達がトウヤへと迫る

リーゼとトローネは前後から、セドは頭上からの同時攻撃


仮に対応しようものなら、解放されたエオーネとオータムの攻撃が再度襲い掛かる


常人であれば対処不能の連携


その筈だった


「なっ・・・!?」


「ちょちょちょっと!!?」


掴まれていた2人の身体が宙を浮く

その事に驚くが、次の瞬間には彼らはその身体を鈍器の如く振り抜かれた


「えっ・・・?」


鈍い衝突音

振るわれた2人は前後から迫るリーゼとトローネへとぶつけられ諸共吹き飛ぶ


「なんだと!!?」


目の前で起こった光景に驚くセドだったが、そんな彼へとトウヤは顔を向ける

仮面越しだというのに、まるで嘲笑っている様にも見えたその姿からセドの心に"絶望"の2文字が浮かび上がる


これはダメだ、このままではダメだ


もう躱すことはできない

だからこそ、せめてもの思いで拳を振るった


「風拳!!」


風を纏った拳が振るわれる

だが、光と同等の速さを出せる今のトウヤからしてみれば、あまりにも緩慢な動き


防ぐことなど造作もない"筈"だった



ーーダメだよ


突如として少女の声が脳裏に響き、全身が金縛りにあったかの様に動かせなくなる


一体何事かと、理解が及ばず驚く彼ではあったが

兎に角わかった事と言えば今の一瞬の硬直の結果

目前にまで拳の接近を許してしまったという事実であった


「おおおお!!」


雄叫びと共に殴り付けると、内包された風を解き放ち暴風が吹き荒れる


その威力からトウヤは蹌踉めくが、セドの攻撃はまだ止まらない


空中で風魔法による補助を受けて足を動かし彼の顔を蹴り飛ばしたのだ


ーー効果有り・・このまま・・・!!


そうして攻撃を続けようとした時だった

蹴り飛ばされ姿勢を崩していた彼が無理やり手を伸ばしてきたのだ


目的は蹴りをいれた直後の足


先のエオーネ達と同様に、セドの事も投げ飛ばそうとしていたのだ


しかして彼はセドの足を掴んだ

だが、そんな彼の懐へと入り込む影があった


「忍法、疾風迅雷:鉄砲!」


影の正体は茜だった

彼の視線がセドへと向いている隙に、懐へと入り込んだ彼女は腕に纏わりつく魔力を置換して作られた岩を、拳を叩き込むと同時に射出する


凄まじい爆音が響く


トウヤはその一撃に耐え切れず、蹌踉めくとセドの事を離してしまう


「何するの!」


「痛いじゃないか!!」


痛い

そう言いながらも鬱陶しそうに姿勢を正すと怒りの感情を茜へと向けて襲い掛かる


迫る巨体と様々な声音に茜の身体がびくりと震えるが、避けようともせずに拳を構え迎え撃とうとした


何という無謀


彼女自身先程までの戦いを見ていたというのにそれでも尚、馬鹿正直に真正面から受けて立とうというのだ

その無謀さをトウヤは嗤った


普段ならばそんな事するわけ無いとわかった筈なのに


「・・・っ! 危なっ!?」


横から感じた気配にすぐさま急停止して顔をのけ反らせると、1本のクナイが彼の眼前を通り過ぎていく


投げられた方角へ顔を向けてみると、そこには左腕を力無く下げた雫の姿があった


おそらく力を振り絞って茜の援護をしたのだろうか

だが、空振りに終わった攻撃を嘲る


嘲ているからこそクナイに結び付けられた魔力糸に気が付かない


「今・・・!」


グイッと前に伸ばした右腕を横に動かすとクナイの軌道が変わり、巻き付けられた魔力糸がトウヤへと巻きついていく


「なっ、なんだよ・・・!」


「何でこんな事するの!?」


訳がわからずと言った様子で雫へと慟哭する彼に茜は拳を振るう


「ハァッ!!」


魔力を置換して作られた岩を纏った拳による連撃が腹に、頭にと打ち込まれていく


しかしーー


「やめてよね!!」


「ガッ・・・!?」


下級怪人を討伐出来るほどの火力など、今更彼には通用しない

拘束されながらも茜の溝撃ちを蹴り上げた


強烈な一撃に腹を押さえ蹲る茜

そんな彼女を蹴り飛ばそうとした直後、背後から声が上がった


「トウヤァァァ!!」


セドは叫びながら背後から風を纏った拳で殴りつける

蹴ろうとした直後に喰らった一撃に思わず姿勢を崩す


蹴り、殴打

続く連撃を前に体勢を戻せない


ーー何で何で!?


何故自分がこんな目に遭っているのかと、トウヤの中で複数の意識が疑問に思い、悲観に駆られる


視線を遠くに向けてみれば、先程飛ばされたエオーネ達もよろめきながら立ち上がり参戦しようとしているのがわかった


「どうしてこんな事するの!」


「やめて!」


何とか説得しようと2種類の声音で彼は叫ぶ

だが、攻撃は止まる様子を見せない


感情を乱し、打ち込まれる連撃の中でがむしゃらに力を込めると再び魔力糸を切り、セドへ向けて拳を振るう


「グッ・・・まだぁ!!」


寸前でそれを躱して裏回し蹴りを放つ

だが、トウヤはそれを掴むと凄まじい速度で放り投げた


「グオォッ!!?」


「お義兄様!!」


「師匠!!」


瓦礫にぶつかる音が響く


だが、彼はそれを見届ける事なくエオーネ達へと顔を向けた


「もう、もう許さない・・・!」


「痛くするけど恨まないでね!」


「これもみんなを助けるためなんだ、すまない」


また彼が来る


厚く重苦しい重圧を前にエオーネ達は身構えた


「すぐに止めるからな・・・」


彼らへと歩み寄りながら、どうするか考えた


まずはエオーネ、オータムを無力化する


「洗脳から救ってあげるからね」


次にセドを痛め付ければ、リーゼとトローネを無力化出来るだろう


「私が救ってあげる。今度こそ・・・みんなを・・・」


最後に茜と雫を何とかすれば全てが丸く収まる


ーー本当に?


心の内から聞こえてきた声に歩みが止まる


誰かを忘れていないかと思考が巡った




そんな彼の背後に銀色の影が迫った


「フィリア・・・」


視線を背後へと向ければ彼女がトンファーダガーを構えているのが見えた


「トウヤァァァ!」


声を張り上げ刃を突き立てんとする彼女の鬼気迫る顔


何故そんな顔をしているのかと顔を歪める


「なんで・・・フィリアさん」


"いつも"の声で哀しげに呟く


その声に思わずフィリアは顔を顰める


果たして、このまま戦うのは


ーー良いの・・・?


戦い続けてもトウヤは帰って来るのか


そう疑問が湧き上がった時、彼女は両手に持った武器を手放した


乾いた音が、やけに大きく街中に響く


「なっ・・・!?」


彼女の行動が理解できず、トウヤの動きが一瞬止まる


その瞬間、フィリアは強く踏み込んだ


ぶつかる

そう思い、トウヤは反射的に彼女を受け止めた


腕の中に収まった暖かな身体は、軽いはずなのな確かな重みを感じさせ、その衝撃に僅かによろめく


彼女はそんな彼へと勢いのままに首へと腕を回すと


強く、強く抱き締めた


「フィリア・・・さん・・・?」


彼女の行動に戸惑いを滲んだ声が出る


「お願い・・・」


縋るように押し殺した声を震わせながら、ただ一言だけ告げた


「帰ってきて」


感情が強くなるにつれて首に巻かれる腕の力が俄かに強くなる


そんな彼女の心境を察して、仮面の下でトウヤの顔が歪む


ーー俺も・・・


戻りたい

胸の内で次に来るはずだった言葉を奥深くにまで沈める


今のままでは戻れない

戻りたくない


だからこそ、トウヤはその気持ちを告げる


「戻れない」


戻るとはどうすれば良いのか

再び混ざり始めた意識の濁流に飲み込まれ、薄れゆく意識の中でトウヤは考えた


またしても消える

この恐怖の中でどう戻れば良いのだと


「何で・・・」


「僕が誰かわからない、戻れない」


「私はなんなの? 力も記憶も意思も全てが別の誰かの混ざり物」


自分の何もかもが全て混ざりもの

誰かの記憶の混ざり物、誰かの顔の混ざり物、誰かの意識の混ざり物

混ざり物で出来上がったツギハギだらけの人形

それこそが自分であり、自分とは何なのかわからなくない


腕の中の温もりが、遠く感じる




「アサマトウヤ」


「え・・・?」


名前を呼ばれた

意識の集合体、ツギハギだらけの人形の名前


だが、彼女は愛おしそうに呟く


「あなたは、アサマトウヤ・・・真っ直ぐで、素直で、自分よりも人の事を優先する優しい人」


「そんなの・・・」


ーー混ざり物の結果では無いか


胸が騒めき、彼女の言葉を否定しようとした

だが、そんな言葉をこそフィリアは否定する


「例えトウヤが自分を見失おうとも、残してきた結果は確かに存在する」


「結果・・・?」


「トウヤが動き、成してきた行い」


「だからそれは・・・!」


「違う! あなただから、私たちは・・・変われた。あなたに助けられて来たの・・・」


そうして顔を上げて、見つめて来た視線にアサマトウヤは言葉が詰まる


「例えあなたでも、私達の想いは否定させない、だって・・・だって・・・」


彼女の言葉に灯夜の中に介在する皆が押し黙ってしまう


「私達は、私は・・・」


美しいとさえ思えるほどの澄んだ瞳から止めどなく涙を流し頬を紅潮させながら、彼女は優しく微笑む


「浅間灯夜、あなたの事が大切だから・・・」


ーーあぁそうか


その瞳を前に彼らは漸く気付いた


この世界での自分達は彼なのだと


どれだけ自分達の齎した蓄積があろうとも、フィリア達にとっては彼こそが自分達なのだと


自分達ではなく浅間灯夜こそが、必要なのだと


そうして気が付いた瞬間、彼らはひとつの意思へと統合されていく

ぐちゃぐちゃに絡まり合っていた"何か"が一本の線となり纏められていった


意識がハッキリとしてくる

何処かフィルター越しに見ていたかのように張られていた視界の霧が晴れていく


「灯・・・夜・・・?」


クリアになった視界の先で小首を傾げるフィリアの顔を見つめ続ける

そんな微動だにせず、一切声も出さない灯夜の事が心配になり恐る恐る彼へと声をかける


「フィリア・・・さん・・・」


「灯・・・夜・・・灯夜!!」


聞こえて来た声に思わず歓喜の声を上げる

これは確かに灯夜の声だと、戻って来たのだと


だが、そんな彼女を他所に灯夜は苦悶の声を上げる


「俺・・・俺・・・!」


未だに現実感が無く、先程までぼんやりとした意識の中で眺めていた光景が蘇る


雫と茜を蹴り飛ばし、セド達を投げ飛ばし痛めつけた事

大切な仲間へと暴行を振るい、尚且つそれを愉しんでいた事


思い起こせば思い起こすだけ、自分を許せなくなる


それ故に灯夜は取り乱した


本当に今の自分は浅間灯夜なのか、それすらも不安になってくる程に


「灯夜っ・・・!?」


何かあったのかと思いフィリアが問いかけた瞬間、灯夜は力任せに彼女を引き剥がす


地面へと身体を打ち付け身じろぎするもすぐに顔を上げたが、そこには既に灯夜の姿は無かった

しかして火は灯る


絶望の波に襲われ、どれだけ消されようとも

自分自身が何かを忘れようともーー


誰かが火を灯そうとする限り、再び火は灯り辺りを照らすのだ


つまるところ、我思われるが故に我あり


それだけのことなのだろう

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