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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 万貴三三
第四章 生まれ廻りて集いし混沌
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光陰流水さりとて火はまた灯る 2


青々とした空の元

暖かな陽だまりが冷たい空気の中で降り注ぐ


ただ一度風が吹くと冷たい風が全身にぶつかり陽気で暖まった身体を一気に冷ます


ブルリと身体を震わせる


ここは公園

南区の中央広場内にある公園であり、そこのベンチに座りながらフィリアは物思いに浸っていた


思い起こされるのは昨夜の出来事


8大罪であるウツツとコウ、テッラからの襲撃を受けて、トウヤと再会したあの夜の事


ーーごめんね


あの時、灯華と思わしき声で発された言葉はどういう意味だろうか

寧ろ、謝りたいのはこちらの方だと言うのに


何故謝って来たのか、彼はどこに行ったのか

何故あの様な姿になってしまったのか、元に戻す方法はあるのか


彼を救う事は出来るのだろうか


グルグルと巡る思考の渦の中でフィリアは考え続けた

だが、どれだけ考えようとも答えなど出ない

答えが出ないからこそ、考えれば考えるだけ苦しくなってくる


ふと、気晴らしになんとなく公園を見渡してみた


視界に映る景色は様々だ

公園内を走り回る子供達

談笑する女性達

手を繋ぎ仲睦まじげに歩く男女

休憩中だろう男性の姿


実に多種多様であり、平和と言うのに相応しい光景


トウヤと共に勝ち取った光景


だが、ここに彼はいない


「トウヤ・・・」


悔しい

ただただ、何も考え付かず、何もしてやる事のできない自分が口惜しくて仕方がない


俯き小さくため息を吐くと白煙が彼女の口から漏れ出て消えていく

まるで、無力な彼女の思いを表すかの様に


そんな時だ

彼女へ向けて近付いて来る足音が聞こえたのは


一歩二歩と徐々に大きくなっていく音はやがて彼女の前で止まる

顔を俯かせたまま視線だけを向けてみれば、誰かの足が見えた


誰だろう

そう思いながら気怠げに顔を上げて



飛び込んできた光景に目を剥いた




「あぁ・・・その、えっと・・・やっ、久しぶり・・・フィリアちゃん・・・」


ぎこちなく手を上げて挨拶をして来る少女

フィリアの視線を一身に受けると居心地が悪そうに瞳をしきりに左へ右へと動かす


そんな彼女を見て、フィリアは口を開きつつも震える声でその名を呟くのだ


「トウ・・・カ・・・?」


「あ、うん・・・うん、覚えていてくれたんだね、名前・・・」


名前を呼ばれ少し照れ臭そうに小さく笑う


何故彼女がここにいるのか

というよりも、教会での光景やトウヤと再会した時に聞いた声からして彼女がそもそも何者なのか、一気に湧き出た疑問にフィリアの言葉と思考は止まる


そんな彼女を他所に灯華は緊張した面持ちを浮かべながらもフィリアの横に座った


「あぁ・・・あの、元気に・・・してた・・・?」


小首を傾げながら問われた言葉

だが、再びゆっくりと俯いていくフィリアから答えが返って来る事はなかった


ーーどうしよう・・・


実のところ、灯華はあまり会話というものが得意ではない

特にこういうぎこちない場面での会話は壊滅的だ


いつもなら会話セットの中から最初に切り出す内容を選ぶのだが、こういう時は大抵の内容は不発に終わる


どうすれば良いかと少し頭を悩ませるが、やはりそういう場面ではないのかと諦め、意味もなく空を見上げた


「トウカ・・・」


そんな折、返って来た言葉に灯華は目を輝かせながら食いつく


「何かな、フィリアちゃん!」


「トウヤは、どこ?」


縋るような彼女の言葉

自分では無く、トウヤの事を気にする様子に灯華の心に落胆の2文字が浮かぶ

その言葉に確かな感情の落ち込みを感じる


至極当然な問い

何故かは知らないが、灯華はトウヤの身体から顔を浮き立たせていて、昨夜もトウヤの身体越しに喋っていたのだから一縷の望みを掛けて問いかけて来るのはある意味で当然と言えた


だが、彼女は彼女で淡く抱いていた期待もあった

またあの日の様に話せるのでは無いかと

しかし、そんなものは最初から存在しない


だって、ここは"違う世界"なのだからと

そう諦めの言葉を胸に懐くと口を開いた


「私の中・・・というよりも私達の中で自己を認識出来ずに漂ってる」


「それって・・・」


どの様な意味なのか、などと問おうとはフィリアは思わなかった


だが、ならばこそ、どうすればトウヤを助け出せる

何故そうなったのかと、尽きぬ悩みにフィリアの頭はパンクして俯く


ーーもう、訳がわからない・・・嫌だ・・・


そうして彼女の心に浮かんだのは現状に対する絶望の叫び


理解出来ないからこその失意


そんな彼女を見て、灯華は何かを考える様子を見せると意を決して彼女へと問い掛けた


「ねぇ、フィリアちゃんは・・・灯夜君の事、好き?」


突然の問い

失意に打ちひしがれかけていたフィリアは、その問いに困惑するが自身の気持ちのままに頷く


そんな彼女を見て灯華は優しく微笑む


「そっか、はは・・・なんか、嬉しいな」


「嬉しい・・・?」


「そ、灯夜君が別世界の因子を集めて作られた存在っていうのはマインさんから聞いたでしょ?」


思い浮かぶのはトウヤがいなくなった原因とも言える前夜祭の夜の出来事


狂気の色を宿した瞳で興奮気味に高々と声を張り上げていたマインの姿


今となっては哀しくも映る彼の姿を思い起こしながら静かに頷く


「あれ、私達もなの」


「・・・どういう事?」


「そのままの意味、私達も別の世界で灯夜君みたいにマインさんの実験で因子を集められて作られた存在だったの」


彼女の言葉に困惑しながらも驚いた

それも"私達"という言葉から彼女だけで無いのだろう事も察せてしまう


「急にこんな事言われて訳わかんないよね、私達もそうだった」


瞳を瞑り嘗ての景色が脳裏を過ぎる


あの世界に降り立った日のこと


フィリアやセドと共に街を守り続けた日々


魔軍との決戦の為に呼び出され、元同盟国領の国境要塞奪還作戦に駆り出された日


そして、召喚されたファルスによって街ごと蒸発した瞬間をーー


悔しかった。悲しかった

みんなを守れず、その全てが消え去ってしまって


感情が乗り、思わず涙が溢れそうになるのを必死に眉間に皺が寄せて瞼を硬く瞑り我慢する


そうして、死んだ後に邂逅したデアテラとの会話を思い出す


「デアテラ様がね、マインさんの実験に力を貸したの、本当なら交わることの無い因子の集合体である私達同士が混ざるように」


「なんで、そんな事・・・」


「わかんない、でも、デアテラ様・・・しきりに言ってた。ごめんなさいごめんなさい、でも消させたく無いって・・・」


消させたく無い

それはつまりマインが言っていた原初の魔王によって人々ごと世界が消え去る事を言っているのだろうかと、フィリアは当たりをつけた


「だから・・・嬉しいの、私達にとって灯夜君って末弟みたいなものだから」


そう言って嬉しそうに灯華は微笑む

彼女達がどの様な世界を経験したのかはわからない


だが、唯一わかるのはここにいると言うことは彼女の世界もまた滅んだと言うことだろう


その笑顔の裏に一体どれ程の闇を抱えているのだろうか

フィリアには想像も付かない


「フィリアちゃん、灯夜くんの事どう思ってる?」


そんな思考を遮る様に突然投げかけられた問いにフィリアは返答に困る


どう思っているのか

彼女にとって浅間灯夜という男は仕事仲間であり、共に街を護る同志であり、共に戦場を駆けた友でもあり、義妹を守ってくれた恩人でもある


だが、脳裏に浮かんだ灯夜の顔に、そうでは無い何かを感じてもいた


先程の人として好き、と言う感情よりも尚熱い想い

その言葉を自分なりに言語化してみせた


「大切な・・・人・・・」


その言葉の形をフィリアは知らない、わからない


ただ精一杯に形にした言葉がそれだった

それだけなのに頬が紅く燃える様な熱を帯びていく


「そっか・・・」


そんな彼女を見て、何がおかしいのか灯華はニマニマと笑みを浮かべている


何をそんなに楽しそうにしているのかと睨み付けるが彼女は構わず口を開く


「ならどんなに難しくても、絶望的でも諦めちゃダメだよ」


見た目は自分とさほど変わらない歳にも見えるこの少女、なのにまるで歳上の姉の様に諭してくる彼女の姿に、フィリアは何処か胸の蟠りを感じるがそれでもその言葉に間違いは無い


最も、それを難しさの元凶が言っては訳がないが


そう思い思わずそっぽを向いてしまい、それをまた愉快そうにクスクスと笑う


先程までの小難しい話に頭を悩ましていた時間が一転

朗らかな気持ちとなる


ーー不思議


彼女と話していると、どんな難題でも些細なことに思えてくる


そうしてフィリアが落ち着きを取り戻した頃に、灯華はそっと近付き囁きかけてきた


「私にもどうすれば灯夜くんが戻るのかわからない、けど愛は最後に勝つ・・・って、そんな青臭いこと言う気は無いけど、その気持ちさえあればきっと取り戻せるよ」


視界に広がる何処までも真っ直ぐな目をした少女


その姿にトウヤの面影を感じ取る


徐に伸ばされた肩と脇に回された手を、何の抵抗もなく受け入れると優しく抱きしめられた


「今度こそ、さようなら・・・フィリアちゃん・・・」


柔らかく優しくも哀しい言葉


フィリアに抱きつきながら晩年を思い、自分が至った嘗ての世界を思い出して巡る記憶と灯華は別れを告げる


「トウカ・・・待って!?」


何かを感じ引き止めようとしたフィリアではあったが、身体が離れたと同時に彼女の姿は風と共に消えていた


ーーきっとフィリアちゃんの声なら届くよ、だって私達みんなフィリアちゃんの事が大好きだからね


そんな声が聞こえた気がした













友がいた

街を護るために戦い切磋琢磨して来た友が


守りたかった街があった

温かい、居心地の良い、好きな人がたくさんいる街


好きな人がいた

いつも無表情で、最初は何を考えてるかさっぱりわからなかったけど、無表情なりに感情が豊かな美しい銀色の髪の少女


失ったと思ったのに、また巡り巡って再び出会えた


嬉しかった

守れなかった景色、皆と過ごす日々

もう一度見たかった景色が見れて、今度は守ることも出来た


でも、そこにいるのは自分では無い


今いる世界と溢れ出る記憶との差異が苦しかった


トウヤ越しに、渇望していた景色を見ることしかできない


悔しかった


それでもーー


「あんな顔見せられたらね・・・」


トウヤを想うフィリアの顔

幸せであれと、皆と願い守りたかったみんなの顔を脳裏に浮かべ灯華は1人空を向く


様々な感情が織り混ざった頬を伝う一粒の雫

深い哀しみが胸中で渦巻きながらも、それでも思うのだ


「良かった・・・」


「良いのか? それで」


路地裏の闇の中から聞こえた声に、灯華は振り向くことなく答えた


「うん、これで良いんだよ」


「何故、悔しく無いのか?」


「悔しいよ、でも、ここは私たちの世界じゃ無いし・・・私達の物語でも無い」


そうして闇へと振り返ると優しく微笑むのだ


「それに・・・私はお姉ちゃん、だからね」


「・・・そうか」


「だから、あなたも悔いがないように・・・ね?」


まるで弟へと言い聞かせる様に灯華は語り掛けると、いつしか闇の中にいた者はその姿を消していた


ーーつれないなぁ


そう思いながらも壁に背を預けると目を瞑りその時を待った


「じゃあ、私も頑張らないとね・・・」


しかして少女の身体は歪に膨らみ、なれ果ては目を覚ます


叶わなかった夢を取り戻す為に


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