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異世界に行ったらヒーローになったSO!  作者: 万貴三三
第四章 生まれ廻りて集いし混沌
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生誕祭 4

幼い頃

父からよく森に入るなと言われていた


森には恐ろしい怪物と人間がエルフ狩りに来るからだと

だが、幼かった当時の自分は未熟故の無敵感からか父の言いつけを破って森へと入った


確かに森の中には恐ろしい魔物が多く存在していたが、幼いながらに魔法を習得していた自分にとっては蹴散らすなど容易い


だからこそ、エルフ狩りを行う人間に出会った時も慢心し続けた


人は魔物とは違う


知恵を持ち作戦を練る

魔法を封じる道具を使い、魔法を封じられた幼いエルフなど格好の獲物だ


そうして容易く捕まってしまった


あの時父の言いつけを守っておけば良かったと後悔した

しかし、全ては後の祭りだ


そんな時だった。彼女と出会ったのは


自分よりも若干歳上の彼女は人間達から隠れながら魔法を放ち撃退したのだ


助けられた自分はすぐさまお礼を言いに行こうとしたが、彼女はそんな自分の無事を確認して安堵した表情を浮かべると、すぐさま倒れている人間に近寄る


彼女の魔法が炸裂した時、男は吹き飛ばされていた

その時、飛ばされた場所が悪かったのだろう

石に頭を強く打ち付け頭から大量に出血している


もうそれほど長くは持たないだろう事は、幼いながらにも理解できた


「嫌だ、死にたくない・・・死にたくない・・・ミーシャ、パパは・・・」


呻き声を上げる人間に、何を都合の良いことを、自分を捕まえようとした癖にと思った


だが、そんな彼を見て彼女は座り込むと手を握りしきりに呟き涙を流すのだ


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」


程なくしてその人間は亡くなった

後になって当時の事を聞いてみると、彼女は悲しげに言うのだ


「あの人にも家族がいるって思うと、何だか悲しくて・・・申し訳なくて・・・」


呆れるほどのお人好し


悪人であろうとも、慈愛の心を向けるその姿は危なっかしくて見ていられなかった


だが、そんな人の為に泣ける彼女だからこそ惹かれたのだと今になって思う



それから2人で色んな経験をした

珍しい物を食べたり、遠出をしたり、近場を一緒に散歩したり、共に星を眺めたり


付き合い始め共に暮らし、結婚して幸せの絶頂を迎える


彼女と共にいた時間は充実した幸せな日々の連続だった


だからこそ、もっと幸せにしたかった

笑顔を見続けたかった


そんな幸せな日々が、唐突に終わるとも知らずに


原初の魔王、今ではそう呼ばれている存在の襲来

剣も、弓も、大砲すらも通用しない人智を超えた存在


人々は必死に抵抗した

次第に無事な街よりも灰燼と化した街の数が多くなった時、人類は初めて民族の垣根を超えて一致団結したのだ


だが、全て無駄だった


父は死んだ

母と、自分達夫婦を守る為の囮となって


母が死んだ

自分達を守る為の盾となって


そして、彼女が・・・死んだ・・・


魔法で張った時魔法の結界の中へと自分を押し込んで

今際の際に「無事でいてね」などと、こちらの心配ばかりをして、目の前で灰と化した


自分はずっと守られっぱなしだった


出来ることは未だ解かれぬ結界の中から、彼女であった灰が風に乗って散らばっていくのを

遠くの空が赤く染まり人類廃滅の報せを眺めることだけ


ずっと、ずっと

世界が解体者により解体され再構築されるまでずっと泣き続けた


涙が枯れて出てこなくなっても、暗い闇の中でただひたすらに彼女との記憶に浸り続ける


そうして現れた新しい朝に愕然とした


世界が再構築されたのだ

全ての人類が消滅した後に、また世界が、人類すらも


だからこそ、思ったのだ

また彼女に会えるかもしれない、と



そんな希望すらも、微塵に砕ける程に世界は変わり果てていた


故郷があった場所は湖となっていた

家があった所には山があった


想い出の地もまた別のものへとすり替わっていたのだ


父と母に似た夫婦と自分の知らない息子がいた



彼女と似た顔の女性がいた

でも、違う

彼女と似た形をした別物だった


そうして再び結界へと戻り、鬱屈とした日々を過ごしているとまた奴が来て、人類はまたしても滅んだ


次の再構築を迎えた頃、彼女の声を思い出せなくなった


そこで思い至ったのだ

あまりにも遅過ぎる奮起


このままでは行けないと、人の為に泣ける彼女に顔向けできないと


街に出て必死に解決策を考えた


だが、またしても滅んだ

交流を持った人々を消し去りながら

友となった者達の断末魔が脳裏にこびり付く


そうして、彼女の顔を思い出せなくなった


何度も


何度も何度も


何度も何度も何度も何度も何度も何度も


救おうとして滅んで、再構築されて


苦しかった

彼女の事を忘れていくのが、今はもう名前すらも思い出せないことが


早く彼女の元へ行きたかった

会いたかった。またあの温もりを感じたかった


またあの声を聞き、共に笑いたかった


だが、ダメだ

まだ逢えない


いつの間にか、すり替わった使命感が目的へと変わっていく

そうして足掻いて幾度目かの滅びの後に彼が生まれた


フェイル、名前の通り失敗作にして原初の魔王を封印した唯一の成功例


でも、まだ終わらない

悪夢は終わらない


僕は、俺は、私は

一体、いつになったら君に会える?


「あぁ・・・」


例えそれが都合の良い幻でも構わない

赤く染まった視界の先に見えた懐かしくも愛おしい悲しげに微笑む顔に思わず笑みが溢れる


ようやく


「ずっと・・・近くにいてくれたんですね。ミーナ」


ようやく会えた


その瞬間、マインの身体は押し潰された







『少しは目をかけていたが・・・まさか、失敗するとはな、出来損ないめ』


目の前の光景に身体が強張る

息をするのすら今は億劫に感じる程の圧


存在としての格が違う

それが唐突に現れマインを殺した存在に対して抱いた感情だった


「お前・・・は・・・」


震えて上手く声が出せない

この一言を発するだけでもセドの心には恐怖が充満していく


それを知ってか、存在は鼻を鳴らし無視する


『この調子では蛮族共に対抗出来る人類の作成は遠い夢だな、なぁデアテラよ』


その一言で察する

この存在は、お方は


到底自分達では立ち向かうことはおろか、抵抗の意思すら示す事が出来ないのだと


空間が、魂が、その存在をはっきりと認識する


創世神アズなのだと


『何とか言ったらどうだデアテラよ、貴様も手を貸したのだろう?』


『ごめんなさい、ごめん・・・なさい・・・』


アズの声に呼応して今にも泣き出しそうな女性の声が響く


謝罪の言葉はアズに向けられたものでは無い、潰され死んだマインとセド達へ向けて発されているのに気がつく


そうして、これが地母神デアテラの声だということにも気が付いた


何故自分達に謝罪しているのか

一体何がどうなっているのかわからない


だが、そんな彼らを明確に見下しながらアズは声を発した


『つまらん』


そうしてその姿を消した

デアテラの声も、もう聞こえない


後に残ったのは机に置かれたフェイルの血の入った平底フラスコと静寂だけだった


アズの発していた圧から解放された瞬間、セド達は床へとへたり込む

ただ目の前にいるだけでも立っているのがやっとな相手


何故神が出向いてきたのかはわからないが、兎に角今は何事もなかった事を安堵した


だが、結局のところ問題は何も解決していない


「あああああぁぁぁ!!!」


「トウヤ!?」


急に叫び出したかと思えば身体を振り乱し出すトウヤの姿に、フィリアは彼の身体を抑えようと必死になる


だが、だからこそ誰よりもいち早く気が付いたのだ




膨張した時に破れた服の隙間から見えた彼の身体中に出て来ている顔に、手に、足に


「何・・・これ・・・」


悍ましい

今トウヤは何になろうとしているのか

少なくとも、人ではない何かへと変貌しようしているのはその見てくれから確かだった


「フィ・・・りあ・・・」


「どうしたの、トウヤ!?」


名前を呼ばれ彼の頭へと顔を近付ける

だが、違う


「ふぃ・・・リ・・・」


「セェドォォ・・・」


「フィイリア、ふぃりあ・・・」


「守るんだ、みんナ・・・私が・・・」


身体中から浮かび上がる大小様々なそれらから老若男女の声が聞こえる


「え・・・え・・・?」


「何なのですか・・・これは・・・」


様子を伺っていたリーゼとトローネはその光景に身体を震わせる


だっておかしいだろう

何故彼の身体から現れた顔が視線をこちらへと向けているのだ


口を動かし声を発しているのだ


「何・・・なんで・・・?」


これが血を飲んだ副作用なのかどうかはわからない

だが、どうすれば良いのかわからない恐怖が4人を包み込む


「どうすれば・・・」


「フィリア・・・ちゃん・・・」


その声には聞き覚えがあった


しかし、あり得ない

何故彼女の声が聞こえるのかと


脳が理解を拒む


「フィリア・・・ちゃん、ふぃりあちゃん!!!」


叫ぶ声に全身の震えが止まらない


まるで壊れかけの自動人形のようにカタつかせながら顔をトウヤの腕へと向けた


「トウ・・・カ・・・?」


そこにあったのは灯華の顔だった


彼女はまるでこびりつき引き伸ばされた壁の染みのようにトウヤの腕の中から顔を出し、あの天真爛漫な笑みを浮かべ浮き出ていたのだ


見知った顔

また再会するとは思っていたが、このような形での再会は望んでいなかった


身体が震える

トウヤを抑える手に力が入らない


怖い

今までの戦いで感じたことの無い、尋常ではない程の別種の恐怖が、フィリアを支配する


これは本当に、本当に


「なんなのよ、なんで・・・」


どうしてトウヤがこうなって

何故トウカがそのにいるのか

一体何が起こっているのか


溢れ出る疑念と恐怖が涙となって溢れ出る



そして、トウヤもまた様々な感情が同時に溢れ出し、意識が混濁していくのを感じる

灯華の感覚が、その他の無数の俺だった私の感覚と記憶が流れ込んできた


ーー目の前に置かれた腕

先輩の可愛い愛弟子の噛みちぎられた腕と、その手に握られていた赤く染まったドッグタグ

セドとリーゼのドッグタグ


ーー肉塊に取り込まれ、表情には諦観の色を浮かべながらもギリギリ間に合った自分の姿に優しく微笑む愛しい人

目の前で破裂して、見覚えのない礼拝堂へと撒き散らされるフィリアだったもの



その感覚は恐怖でしか無い

自身の存在を証明する記憶が誰かもわからない何かの記憶と混ざり合い混濁し、自分自身があやふやとなっていく


ーーいやだ、知らない、見たくない


見たくもない知らない情景の記憶を見せられながら、身体の感覚は痛みも、身体を覆う蠢きも、何から何までもはっきりとしているのに

意識だけが蕩けていく、浅間灯夜という存在だけが希釈されていく


それを死というにはあまりにも恐ろしかった

死にかけでは無い、生きている身体で感じるにはあまりにも悍まし過ぎる感覚


「ああぁぁ・・・あああああああ!!!!?」


「トウヤ!!?」


「待て、トウヤァ!!」


フィリアの手を振り払いトウヤは走り出す


嫌だ、嘘だ、嘘だ


自分が作り物だと

様々な人の集合体だと

この世界が滅びるのだと

今も感じる他者でありながらも自分達である意思を、存在を、頭の中を巡る悍ましい記憶を

自身を薄めていく全てを否定して逃げる様に教会の外へと走り出す


それをフィリアも立ち上がると手を伸ばし必死に追いかけた


今見失えば永遠に逢えない

そんな気がしたから


「待って・・・行かないで・・・」


だが、そんな彼女の願いも虚しく、魔法を使わず自身の膂力だけで肥大化したトウヤは空高く舞い上がると街の闇へと消えていった


「トウヤァァァ!!!」


遠くから聞こえる祝祭の喧騒の中で少女の悲痛な声が響き渡る

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