第16話 剥がれた本性
「哨戒任務……ですか?」
本日の訓練中止の旨と同時に突然のミーティングの号令がかかったのがついさっきだ。何だろうかと向かってみたところ、セリカワさんとマルティンが任務の話を切り出したのだった。
「そう、この東区を怪獣や侵略者が狙っている事はお前達もよく知っているだろう? 姑息な手を使われたせいで、うちの補佐隊員も動けない状態となっている。だが、お前達もパロッツの扱いにも慣れ、乗りこなせるようになった頃だろう。今回は、東局から怪獣警報範囲の半径45KM先をぐるっと周回する様に見て回る。良いな?」
そこに、隣のマークスが手を挙げ質問を投げかけた。
「すみません、以前のイースト区5の調査はメンバーを分けての事でしたが、今回は僕ら新人全員出動なのですか?」
確かに、それは僕も気になっていた。侵入した怪獣の騒ぎでTOBは半壊、基地内もざわついている。そこにTOB総出で調査というのは新人が襲われない様に守る為という事なのだろうか。だが、基地にだれ一人残さないというのもそれはそれで無防備な様な気も……
いやしかし、正隊員と言えど2人だけで守りきれるのだろうか? そんな事を考えていると、今度はモナが手を挙げる。
「セリカワ正隊員、質問なのですが、マルティンさんの怪獣やセリカワさんの大狂獣の護送車も必要になるでしょうし、今回もAUとの合同任務になるのでしょうか?」
AUのガレージには怪獣を収納できるバカでかい車両がしまわれていると聞く。前回、僕が参加できなかった5区の調査では、それでセリカワさんの巨大な怪獣を運んだと聞いていた。となると今回も、AUの車両部隊も必然的に付いてくるというわけかな。そう思ったところで、意外な返答がセリカワさんから帰ってきた。
「いや、今回は護送車は必要ない。パロッツで十分だ」
という事は、セリカワさんは戦闘を想定していないのだろうか? いやでも、兵器はパロッツに積んでる様だし…… でも、それで侵略者が襲ってきたら、怪獣が襲ってきたら対抗出来るのか? 僕は引っ掛かりを覚えてしまう。だが、セリカワさんの顔には不安はなさそうだった。あくまで任務という体の訓練で、戦闘を想定していないという事だろうか? それとも裏で怪獣を控えさせているとか? いや、幾ら想像しても僕にはわからない。
質問した当の本人のモナさんは、実際に不安そうな顔だ。一方のセリカワさんは自信ありげな顔をしており、その判断に迷いが無いと言った様子。その顔を見ていると、僕まで自信が湧いてきそうに思えてくるから不思議なものだ。
「もし不安があるというのなら、出発前にオレの所へ来るように」
とセリカワさんは告げた。なんだろう、厳しい事でも言われそうだ。心構えとか、説くのだろうか。取りあえず僕は遠慮しておこう。
「後は事前に、無線の調整はしっかりとしておけよ。離れてても会話できるようにな」
* * *
「出陣前にお疲れセリカワちゃん。皆、不安が消えて良い顔だな」
不安げな新人を連れて歌を聴かせ、既に出発準備が整っているパロッツの元に連れてくると、マルティンが声をかけて来た。
「先日の寄生樹海との戦いに参加した子らが主だった。武装した上で怪獣の脅威を目の当たりにしたんだ。あんな説明では不安に思うのも仕方ないだろうな。オレとしても騙してる様なもので気が引けるが」
「確かに新人には順繰りと雑魚怪獣から経験を積ませたいものだね、でも、そうも言ってられないだろうさ。死にたくないって手を尽くしても死ぬときはあっさり死ぬもんだよ、俺はそんなのごめんだけどね。どちらにせよ、防衛軍東局に入ってTOBを選んで残っているんだ。最低限、覚悟は決まってるだろうさ」
まるで普段のヘタレ、サボり魔っぷりが嘘の様な発言だ。オレも概ね同感である正論。だが、
「なんていうか、お前の発言だと考えるとイラッとするんだよなあ……」
ぼそっと呟く。マルティンの耳にも届いていたのかショックを受けた顔をしていた。ふむ、やっぱりこういう面で馬鹿やってる方がこいつらしい。そんなことを考えながらパロッツの背を駆け上がった。
『相変わらず身軽だねー、その身体能力は憧れるよ。……その分だと、もうセリカワちゃん自信の覚悟も決まったようだね』
無線からマルティンの声が届く。他の誰にも聞かれない様に、と確認の連絡だ。黒幕、新人隊員の中に潜んだ裏切り者を捕まえるのが今回の作戦の本当の目的なのだから。
『当たり前だ、問題ない。心配せずにオレに任せろ。新人の護衛の方は頼んだぞ』
『勿論だ、これ以上好き勝手させるわけにはいかないんでね』
全く同感だ、気持ちの確認は済んだ。これ以上言葉を交わす必要はないだろう。
「よし、お前達出発するぞ! オレとパロッツについて来い」
全員に聞こえるように号哨戒任務開始の号令をかける。オレの騎乗するパロッツが先陣をきり、後方をマルティンがカバーし、TOB新人軍団を引き攣れて目的地まで駆けてゆく。実は現場から離れた所に、AUとAFの一部部隊が待機し、隠れているのだが、これは秘密だ。
パロッツをとばしながら、後方をちらと見る。うむ、入隊したばかりの頃と比べると大分様になってきたようで落獣の素振りもなく安定している走りだ。どの子も真剣な顔つきでパロッツにしがみ付きながら、周囲に異常が無いか見落とすまいと、大地を、空を睨んでいる。自分たちの暮らしを守る為、仲間や家族の命を守る為、人類の居場所を守る為、想いはそれぞれだが皆自分の守る物の為に頑張っている。だからこそ、ソイツを踏み躙らせてはならない。
「そろそろ、45キロ地点だ。速度落とすぞ」
いよいよ、目的地点が見えてきた。この場所は、先月、イースト区5からの新人護送車が襲われた地点だった。あの蜥蜴の様な怪獣の群れはどの様な思惑で放たれたのか未だ分かっていない。今回の黒幕と関係があったかどうかも不明だった。だが、此処から今回の襲撃は始まったのだ。此処で、終わらせる。
「よし、一旦この場所で休憩を挟むぞ。30分経ったらまた移動だ」
指示を出すと、オレはひとまずパロッツから降りた。他隊員達を見ると、まだ乗り降りには時間がかかるからか、パロッツの背で休んでいる者も少なくない。まだ作戦決行には時間がある、と懐からジャーキーを取り出して噛み砕いていると、声をかける者がいた。
「セリカワさん、お疲れさまです。いやはや、パロッツ捌きキビキビしてて凄いですね」
ヒカル・バッツだった。相変わらず、人畜無害そうな笑顔を浮かべている。
「バッツか、お前も新人の癖に、パロッツを十分に乗りこなしてると思うぞ。今期の新人の中でもお前とアカネはパロッツの扱いにかけては天才級だな。オレ程ではないにしろ、最初から馴れてる奴なんてそうそういない」
「いやあ、運みたいなものですよ。それにセリカワさんの技術には驚かされますし……」
バッツは謙遜し、バク宙とか絶対できませんもん、と続けた。そういや、正気の沙汰じゃないってマルティンにも言われたっけなと思い返す。
「パロッツの騎乗といやロメオとシャオも補佐の中ではずば抜けてたんだけどな」
ぼそり、と零してしまう。だが、ロメオは既にこの世にいない。そして、シャオもまだ目覚めず、再び戦士として戦場に立つことが出来るかも分からない身体になってしまった。
「異星人による怪獣の侵入襲撃事件は基地内でも持ちきりだったので、僕も聞きました。ロメオさんには色々丁寧にご指導いただいていたのでショックが大きいですね」
「たしかに、オレも未だに信じられないよ」
オレも、バッツの言葉に同意する。二人との付き合いで5年という月日は長く、胸にぽっかりと大きな穴が空いた気分だった。マルティンとチテンインを除けば、TOBで一番付き合いが長い二人。その二人が今はいない。
「そういえば大体一か月前、シャオとロメオと他の面々を連れて、此処に出向いて新人を襲っている怪獣を退けて、お前らと出会ったんだったな。もう一か月前か…… ちょっと歩きながら思い出話でもしようか」
そう言うとオレはバッツを誘ってスタスタと足早に歩き出す。バッツは時計を見て不安そうな顔を一瞬浮かべるも、先に歩き始めたオレに遅れまいと付いてきてくれた。
* * *
「――で、オレ達が襲撃してきた怪獣を倒したところで、ここらで呆けて座り込んでいたんだったな。あの時は半べそをかいてたように見えたが?」
「まっさか気のせいですよ! あの時は確かに焦りましたし、怖かったです。でも、勇気を振り絞って走っていたところをセリカワさんとTOBの皆さんが助けに来てくれました。お陰で今の僕があるんですよ。……皆さんの存在には本当に感謝しています」
照れ隠しをしようとした後に、俯くバッツ。その表情に浮かぶ感情を測ることは出来ない。オレはふと疑問に思ってた事を口に出す。
「あの時の怪獣は一体誰の指示で新人の護送車を襲ったんだろうな」
「恐らく、地球防衛軍の力を削ぎたい侵略者の勢力でしょうね。新たな人材が入らなければ、組織は先細りしていくでしょうし」
自信ありげな顔でバッツが持論を述べてくれた。成程、一理ある考え方だ。そこで、オレはつい最近、チテンインがくれた情報について話すことにした。
「先日、中央の基地に出張中のTOBの隊員がさ、イースト区に帰ってくる途中に、妙なものを見尽きたって報告をくれたんだ。いつの間に造ったのやら知らないが、異星人のコロニーなんだけどな」
一息ついた、バッツは不思議そうな顔でこちらを見ている。オレは話を続ける。
「イースト区5同様森になっていたそうだ。指示を出すものを失ったのか、群体型のトカゲの怪獣がうろうろして残っていたところを殲滅したと報告を受けた。ただ、その森は既に放棄されていたのか全く動かなかったらしい」
反応を少しでも返してほしいのに、バッツは無言だった。
「イースト区5を襲ったやつは、新人襲撃の日に備え、予めそのコロニーを支配し、怪獣を護送車を襲撃する様に解き放ったんじゃないかとオレは考えてみた。自分の潜入工作をスムーズに疑われずに進める為に」
バッツがようやく口を開いた、その顔はいぶかしげだ。
「潜入工作? その5区を襲った者が既に局に潜入しているというのですか!?」
「そう、その通りだ。寄生樹海が、寄生対象の人間をある程度操れるというのはイースト区5の基地の警報切断事件やロメオの様を見ていれば分かる。そこで、襲撃を自作自演して本気で自分を命の危険に追い込むことで、疑いの目から逸らそうと考えた、……浅はかな知恵だと思う」
ギリリと歯を食いしばる様な音が聞こえた気がした。
「なぁ、バッツ。お前は、何の目的でTOBに入ったんだ?」
オレは、真っすぐにバッツの目を見て問いかける。
「もう一つ聞こうか。昨日、ゲンゾウ・ハヤカワが緑化チームの活動から隊に帰っていないと報告があった。最後に話していたのは、お前だと聞いている。イースト区5の住民やロメオ達の様に、お前が殺したのか?」
本来、計画の決行はあと数日は待つ予定だった。だが、昨日ゲンゾウ・ハヤカワが自室に戻らず行方不明になったという報告が入っていた。よりにもよって緑化チームの活動から、だ。TOBに所属していたこともあり、黒幕候補の一人でもあった彼の身に何か起きたのは明白だった。そして、彼の元ルームメイト且つ同じく緑化チームメンバーで、ロメオとの接触頻度が高い人物、黒幕最重要候補としてマルティンが睨んでいたのが、ヒカル・バッツだった。
その返事を、オレは聞きたくなかった。此処に来る前に予め想像していた返答を期待したくなかった。彼の今まで語ってきた優しい言葉を信じたかった。オレはじっと、目の前のバッツを、裏切り者と思われる少年を見つめる。その顔が、口元が歪むのが分かる。そして、
「だから、甘っちょろいんですよ。セリカワさんはさぁ」
歪んだ口から放たれた叫びと同時、地面から激しい怪獣因子反応が起こる。直後、地響きと共に勢いよく槍の如く突き出た大樹の群が、オレの視界を覆い尽くした。
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