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怪獣惨歌 la・la・la  作者: ここあ
第一章《大狂獣・ラララ》
18/22

第15話 正体に迫れ

 「侵入者が我々の中に何食わぬ顔して混じっていただと!?」


 「以上が、現時点で判明していることになります。どの部隊か迄は判明しておりませんが、新人の中に今回イースト区5の襲撃からTOBへの攻撃を仕組んだ黒幕が潜んでいると見て間違いないでしょう」


 ここは第一視聴覚室、集められた各部隊の隊長達とアレン大隊長の前でマルティンが、独自調査の結果を報告していた。敬語のせいでいつもより気味が悪い。


 「コーディ迄も既に逝ってしまったか……」


 知りたくない事実だったなと呟いている。オレの記憶が確かなら、あの爺さんは結構な古株だった筈だ。アレン大隊長が嘆くのも無理もない。


 「既に滅んだものと想定していましたが、他にも残党がいると厄介ですし、今回の対策とは別に化け皮星人(マスカラ―ヴァ)への予防も周知させておきましょうか」

 「周知させるのはいいが、他にも忍び込んでる可能性はないのか? コーディの様に成り代わってる人間が他にいないとも限らん」


 疑問の声が上がる、たしかに潜入者が2人だけとは限らない。だが、その質問は想定内だったようである。


 「ああ、既に調査を進めていますよ。以前採取した血液のデータの洗い出しもしておきました。少なくともこの部屋のメンバーはシロです。多少強引な手は使いましたが、今は非常事態。許してくれますよね?」


 マルティンが機械を手にひらひらと振る。カメラか? 


 「怪獣の調査や宇宙人の人体構造を調べるのに使う生態撮影機(バイオビデオ)。前から秘密のラボに籠ってこいつを小型化した物を基地のあちこちに仕掛けておきました。これでスッケスケの丸見えって訳です


 室中がざわめきに包まれた。焦りと困惑の声があちこちで上がる。


 「それってもしかして盗撮なんじゃ…?」

 「おい、マルティン隊員よ。それスケスケって何処までの話なんだ。後で詳しく聞かせてもらおうか」

 「なあ、俺も調査に協力するからさ、その映像見せてくれよ」

 「ちょっとそのカメラ何処に仕掛けたのか教えてもらえますかね、マルティン?」


 期待と非難の視線が入り混じり、マルティンに刺さる。そして、


 「あー、マルティン。必要だったことは分かるが、そのカメラ映像、私的な利用はしてないだろうな? 後で、じっくりと話を聞かせて貰おうか」


 アレン大隊長の言葉である。マルティンの方はと見ると、ぎくりとした表情で汗をだらだらと流している…… 折角見直したのに、なんて奴だ。


 「それにしても、驚くべきは、寄生樹海(ミストルスィ)と名乗った怪獣だな。寄生するだけでなく人と植物と怪獣の形態の切り替えで、こちらのセンサーを誤魔化すとは厄介な相手だ。アルファ、改良は出来ないのか」

 「Mr.タチバナ、既に取り組んでますよ。体の構造をスイッチ出来るなんて知らなければ対策の取りようがありませんが、サンプルはイースト区5で頂いてますし、Mr.ライオットからも抽出してます。データがあれば解析なぞ容易い。潜んでいる者もじき見つけられるでしょう」


 アルファがこともなげに言う、大した自信だな。それから、マルティンの方をちらりと見て続けた。 


 「ですが、その前にMr,ラヴェッチア。君は既に黒幕についてある程度の目星をつけている。違いますか?」


 その言葉に室内にざわめきが起こる。オレ自身も驚きだ。いやでも、マルティンだぞ? 流石にそこまで……


 「目星と言えるほど絞りきれてないですがね、恐らく緑化チームの関係者なのは間違い無いでしょう」


 マルティンは、先日オレに語った内容と同じことを話した。そして、


 「恐らく……いや、確定的ですが、この寄生樹海の種子は既に一部の職員や隊員達に植え付けられてますね。恐らく人質のつもりなのでしょう。いつでもこちらを襲えるぞってね」


 再びどよめきが起こる。自分が既に寄生されてるんじゃないかと気が気でないと言った様子。


 「おいおい! 何呑気にしてるんだよ。それってもう、ロメオ補佐員みたいに既に寄生されて操られてる奴がいるかもしれないって事だろ?」

 

 慌てるのも尤もだ。イースト区5の惨状を思い出す。完全に寄生されてしまえば助ける方法はほぼゼロだ。ロメオの時は完全ではないとはいえ本人の意識が乗っ取られかけ操られていた。あの状態で人質戦法を取ってくる可能性もある。つくづく悪趣味な性質の怪獣だな、黒幕の顔がどんな奴か見てみたい。


 「その為のバイオカメラであり、コイツだよ」


 マルティンは白いヒラヒラした湿布の様なものを取り出した。


 「アレン大隊長に頼んで、健康上とデータを取るという名目で、全隊員に貼る様に命令を出して貰った」

 「おい、マルティンテメ……それは――」


 青ざめた顔で白い湿布を見る隊長達。まあ、気持ちは分かる。だが、こんな場所にまであの白衣(ゲッソメルス)を纏ってくる野郎だ。味方じゃなければ、発想が飛んでいる。


 「奴が動いたら、身体を乗っ取るより先に水分を奪い取る。この湿布に仕込んだ白触惡魔の触手片でな」

 「それってつまり、お前に全隊員の命が握られているようなもんじゃねえか!!」

 「マルティン隊員、貴方が幾ら同じ東局の味方とはいえ、我々全員の命を無防備に預けるというのはいささか不安があるな」

 「幾らアレン大隊長が認めたとしても、素直に首を振る事は出来かねるな。そもそもお前やアレン大隊長が既に寄生済みで無いという証明を出来るのか?」


 おっと、中々手厳しい反応だ。オレが言われているわけじゃないから、安心して見れるが、どう弁解するんだ?


 「それこそ、ライブカメラで体内に異物が無いか調べてくれればいい。センサーに引っ掛からずとも、種子や植物は写りますよ。それに俺が寄生されてたら、それこそとっくに基地が壊滅しています。流石にラララには負けますがね」

 「実際、怪獣化したロメオとの戦いの報告や、先日の偽コーディの怪獣に対し、寄生して操るという手段はとってきませんでした。仮に怪獣を支配できるのなら、もっと苦戦を強いられたことでしょう。第一、俺は死にたくないという気持ちはこの場の誰にも負けないつもりですが、地球人である事迄は捨てたくないんでね」

  

 マルティンの目に笑いは無く、最後の言葉に、他の者達も黙り込む。実際、こいつは生き延びる事を第一に考えるやつだが、仲間になってからは裏切る事は一度も無かった。生き残る事より、人間として、地球人として、という価値観に強い拘りを持っている様で、そのポリシーは信頼出来た。


 それに、ロメオとの戦いを思い返してみれば、尻尾による変幻自在な軌道での不意打ちはあったもののロメオは正面から迫り、最終的には本人の意思で自害した。偽コーディはその場からほぼ動かず、ただ質量を増やすだけだったという。となると、怪獣には寄生出来ないという可能性が高い。


 「で、仮に黒幕の正体が割れたとしてどう対処するのだ。本人を誘い出すにしても、うかつな行動を取れば、その場で暴れるかも知らんぞ」

 「奴を油断させるために囮を用意します。俺やセリカワ隊員だけでは警戒されるでしょうが、他に隊員が入れば、訓練や仕事だと思うでしょうし、人質がいると安心を誘う事も出来るでしょう」

 「成程、まるで疑似餌だな。だが、その隊員達の安全は保障できるのか? 既に今回、死者も怪我人も沢山出ている。平時ならば、ともかくだ。いつ、他の侵略者が襲ってくるかもわからない現状、それに加えて更に被害を出すとなるというのは避けたいのだがな」

 

 その問いかけに、一拍おいてマルティンが答えた。

 

 「俺とセリカワ隊員の二人で対処します。俺達にやらせて下さい」

 

 しかし、

 

 「駄目だ。ただでさえ怪獣を扱える人材が少ないのに二人も出たら、基地が襲われた時誰が対処するというのだ。その作戦は許可を出せんな」


 アレン大隊長が、その作戦を否定する。オレもマルティンも今回の黒幕には心底腹が立っていた。なので、その作戦をオレも支持したいが、たしかにこの基地がその隙に襲われてしまえばことだ。可能性としてはゼロじゃない。嗚呼こんな時に、もう一人いてくれたら……


 「それが、アレン大隊長。中央局の手伝いがひと段落ついたとのことで、()()が今週中には帰ってくるそうです。鉄騎鉄獣(ゲルダラドン)をとばせば、時間はかかりませんし、あの威圧感で他勢力にプレッシャーを掛けられることでしょう」

 

 彼女とは、中央局の調査手伝いに出向いてたセッカ・チテンインの事だろう。アイツがいれば、百人力だ。ただ、一つ問題を上げるとするならば……


 「そうか、チテンインが戻ってくるのか」


 アレン大隊長の顔色が若干悪い。他部隊の隊長連中も本日何度目になるか分からないざわめきをしているが、そのどれもが恐怖に慄いているといった様子。そう、彼女は怒ると怖いのだ。いや怒らなくてもそもそも顔が怖い。オレ達TOBの事を陰でグチグチ言ってる連中も、チテンインが通ると頭を下げる。怪獣嫌いを公言しているやつが、オレやマルティンに対してと同様に舐めた口の利き方をした結果、目も当てられないくらい謝罪をさせられたのは記憶に新しい。まあ、誰よりも怪獣を憎んでいる彼女を怪獣扱いするんだ、それくらいで済んだのが奇跡だ。


 「絶対、ブチ切れてるよな……?」

 「当たり前だろ、今回の被害は区一つの壊滅にTOB半壊だぞ」

 「正直、寄生樹海とやらより、あの女の説教のが怖い」

 「前、冷血女って愚痴ったら聞こえてた時は死を覚悟したね」

 「お前、チテンインさんは半機械化手術済み(サイボーグ)なんだから流石にそれはアウトだろ」


 アレン大隊長を初めとして強面の隊長連中が情けない。いや、オレもあまり人のことを言えないんだけれども。絶対に、今回の被害の事でグチグチと言われるに決まっているのだ。実際、醜態と言ってもいいくらいの出来事なので文句を言う筋合いはない。


 「こうなったのも、全て寄生樹海とその黒幕が悪い。こうなったら、俺達の分まで、ぶっ飛ばしてくれ」


 こうして、マルティンの案は承認された。だが、まだ肝心の黒幕が判明してない上、時間的な猶予もない。


 「チテンインが帰ってくることは隠しておくべきだ。奴が警戒を強める若しくは、見切りをつけ一気に攻撃に出る可能性がある。マルティンの湿布は周知させてるものの、全員が付けるとは限らん恐れもある。足並みを揃えられない奴や、不穏分子が亡くなるのは別にいいが、士気にも関わる上、他の隊員に牙を剥かれる可能性も無きにしろあらず。可能ならば、チテンインが帰ってくる日に決行に移したいものだな」


 とは、アレン大隊長の言。湿布をつけてない奴や付けているやつから、黒幕を洗い出せないのかとマルティンに確認したところ、群体型と違って千切ってばら撒いた欠片に細かい命令や制御は行えず、単純な行動しか出来ないとのこと。寄生樹海の種を探知し、その水分を吸い尽くすのがせいぜいらしい。それでも十分なので文句はない。


 取りあえず方針が固まった所で、会議は終了し解散となったのだった。身内の死、卑劣な敵の作戦とマルティンのカメラ、そしてチテンインの帰還。隊長達の顔は実に悲喜交々だ。何人かはマルティンにこっそり耳打ちして女性陣から白い目で見られている。そんな様子を横目に見つつ、片づけを進めているとマルティンが此方へやってきた。


 「何だ? オレは別にカメラに興味はないが」

 「それを聞いて安心したよ。じゃなかった、セリカワちゃんに言っておきたいことがあってさ」


 マルティンは他の誰にも聞かれない様に顔を近づけると耳元で囁いた。


 「本当は、黒幕に見当がついているんだ」


 オレは驚いて思わずマルティンの顔を見た。だが、冗談を言っているようには見えない。


 「だけど、まだ十中八九といった程度で確実ではないんだ。だからこそ、協力して欲しい事がある」


    *     *     *


 今日は訓練がお休みだったので、緑化チームの活動に参加することにしていた。TOBからは、僕とアカネ、他数名が参加している。同期で言えば、AUに移籍したゲンゾウ・ハヤカワも参加していた。本日の活動が終了したところで、ゲンゾウが声をかけてきた。


 「ゲンゾウ君、こうして顔を合わせるのは久しぶりですね」

 「うむ、突然TOBを辞めてしまい済まなかったなバッツ。ムト達は元気でやっているか?」

 「元気も元気、だけど部屋が広くなって寂しいとも言ってるよ」


 僕は、ルームメイトからの言葉を伝える。それを聞いて、ゲンゾウは少しほっとしたようである。


 「裏切り者みたいに思われてしまったらどうしようかと悩んでいたのだ。寂しいと思われるのは、少し申し訳ないが……元気でやっているか」


 短い期間だが、同室で仲良くバカ騒ぎをしていたことを思い出す。僕らは友人と呼んでも差し支えない関係性を築いていた。


 「そんな事で裏切りなんて思ったりしないよ。部隊は違えど、同じTOBの隊員なんだから、さ」


 僕は、彼の悩みを笑い飛ばす。パロッツの騎乗訓練にふるい落とされて、TOBを辞退した隊員は少なくなかった。ゲンゾウもそんな中の一人であり、別におかしい事ではないのだ。むしろ、その程度で悩むことの方がおかしいだろう。


 「ゲンゾウ君が部屋に残した盆栽も大事に取っておいてあるよ。部屋の皆で面倒をみてるんだ」


 そう言って僕は彼を安心させる為に笑顔を見せた。ゲンゾウの表情も明るくなる。


 「それは、嬉しい限りである。いや良かった、正直物忘れしてしまったと思ったのだが、バッツ達が面倒を見てくれるなら安心だ。ところで一つ聞きたいことがあったのだが――」


 ゲンゾウからの質問はとても答えにくいものだった。一体どう返事をしたものかと考えていると、甲斐さんの号令がかかってしまう。


 「いや難しいのならば、次に会う時で良い。気長に待つ、無理して今応える必要は無し」


 そう告げると、僕が返事を言う前に、待って欲しいという前に足早で立ち去ろうとしてしまっていた。そんな彼に僕は――



     *     *     *


 「ロメオの遺した私物を見せて欲しいって?」


 オレはマルティンの頼みに聞き返していた。会議が終わり、マルティンから誰にも聞かれない様に話の続きをする為、今は二人ともオレの部屋に来ている。


 「そうだな、出来れば私物の中でもここ最近身に付けていた物とか書類、衣服やアクセサリーなんかがあればいいかな。寄生の痕跡を発見できるかもしれない」

 「分かったが、あんまり期待はするなよ。オレも一応一通りは見たからな」


 そう言ってオレは、衣服、書類と書かれた段ボールをマルティンに渡す。一応一通り目は通してあったが、特にロメオが残した書類にメッセージ等は残されていなかった。日報も事務的な記録のみであり、生真面目なロメオらしい。


 「なあセリカワちゃん、()()()()()()()はあの日にロメオが身に付けていた物って認識で会っているか?」


 マルティンがずたずたになった隊服を手にオレに尋ねる。使い込まれ色褪せ始めていたロメオの隊服は、怪獣化した際の影響で破けていた。


 「その通りだが、どうかしたのか? 怪獣の匂いは強く残っているが、それは既に寄生された後だし、ロメオ自身の物と混ざり合っているぞ」 

 

 オレの返答にマルティンは一瞬悩んだ顔をして、それから手に持ったソレを俺に見せた。


 「このハンカチなんだけどさ、事件当日に身に付けていた物とは別のモノなのに裂け目が入っているんだ。鋭い何かが這って行った様な跡がさ。セリカワちゃんはどう思うよ?」


 まるで内側に仕込まれた何かが、突き出して表面上を這って行った様な裂け傷が、そのハンカチに付いていた。間違いない、種はここに仕込まれて発芽し寄生したのだ。


「なあ、セリカワちゃん。緑化チームの活動をやってる新入隊員のデータは渡したよな。誰が黒幕だと思う」


緑化チームは研究室のメンバーを除けば、仕事の合間の趣味という感覚で参加しているものも少なくない。基本自由参加に近く、一度だけ参加してそれっきりという隊員もいる。しかし、それでも新人の参加者ともなれば決して多くはない。その上にロメオの私物に直接接触出来た人物など更に限られる。


 「分かってはいる、だけど口にしたくない」


 オレはそう呟いた。

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