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怪獣惨歌 la・la・la  作者: ここあ
第一章《大狂獣・ラララ》
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第11.5話 トリップtoバッドトリップ

 どこからか声が聞こえる、ああ私の話題だ。


 「最近、ロメオのやつ様子がおかしいと思わないか。新人の指導の方針で、揉めたってよ」

 「あの人がセリカワさんと揉めるのは今に始まった話じゃないだろ。むしろストッパーとしていてくれた方が俺らの仕事が増えなくて助かるっつーか」

 「違うって、揉めたのはシャオさんとだよ。パロッツの騎獣戦。新人にはまだ早い、そんな危ない事よりも基礎体力訓練や座学をしっかりやるべきだと」

 「はっ、座学って…… 怪獣の歴史とか傾向とか学んで心構えがってやつか? そんなもの個人で裏で自主的に取り組むものだろ。大体なんでもアリな連中だぜ怪獣って。そんな知識だけでどうにかなる相手でも無し」


 耳障りだった。私は、新人に訓練でいきなり、怖い思いも苦しい思いもさせたくないだけなのに……

 (そうだ、お前の考えは正しい。奴らは思いやりの欠片もない無理解な連中だ、耳を貸す必要はない。さあ、薬を飲め)

 私は、自らのうちから出る言葉に従い、処方された鎮静剤を飲み込んだ。心が落ち着いていき、晴れやかな気分となる。沢山あった錠剤は、今じゃ半分以下に数を減ってしまっていた。無くなってしまう前に、近いうちにコーディさんの所へ行くとしようか。


     *     *     *


 「またシャオさんとロメオさんが衝突したってよ」

 「今度は何だというのさ?」

 「ほら、シャオが今度因子の適合手術を受けると言っていたろ? それを止めたんだとさ」

 「なんでまたそんな事を」


 鮮明に会話が聞こえてくる。また、同僚達後輩達による私の悪口だ。私の内から出る声が問いかける。

 (いっぺん、あの愚かな連中にお前の正しさを思い知らせてやったらどうだ)

 いや、暴力はダメだ。それでは、まるで誰かの為じゃなく…… 内から出てきた言葉だったが、それは受け入れ難く、思わず首を振って拒絶した。しかし、彼からの会話は止まることなく、私の耳に聞こえてくる。

 

 「怪獣の因子を取り込むのが危険だとか、人間を捨てる事になってもいいのかだとさ」

 「女の子相手なら、マルティンさんが言いそうなセリフだね」

 「危険だってのは今更だろ。つい先日クラークが亡くなったばかりだしな。大体、そんな事承知じゃなきゃTOB(対怪獣部隊)になんか入んねーよ。覚えているか? 俺達の入隊の際にセリカワさんが言った言葉。『死亡率が限りなく100%に近いのがこの部隊だ、それを承知で入隊する覚悟を決めたお前達、戦場で死ぬ前に、いっぺん此処で死を体験して乗り越えてみせろ』だぜ?」

 「あのヒト、ケダモノに見えてスピーチとか割とノリノリだよな。チテンインさんなんて『貴様ら、怪獣は一匹残らず殲滅すると固く誓え、復唱せよ』だもんなぁ」

 「シャオは俺達より年下だけどもう5年目だったろ? それに、数少ない第5次カタストロフの戦地区生き残りだ。地獄なんてもん、正隊員のあの人達除けば、一番見てきてるだろ」

 「ほら、ロメオさんってシャオさんとほぼ同期じゃない? でもあの人って20歳超えてるからもう因子適合手術は受けられない身体なわけで、今以上の働きとなるとねぇ…… それがコンプレックスになってるんじゃないかな」


 何故、分からない。危ないと想っての心からの忠言が何故わからない。傷つけば、苦しい思いをするだろう。死ねば、悲しむ人がいるだろう。頭が痛い、内側からの声がどんどん強くエスカレートしていく。……いや、待て。それ以上はまずい、止めろ!

 私は、もう何も考えたくないと、残りの薬を全て喉に流し込んだ。


     *     *     *


 研究室に籠っていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、彼の端末を名乗る人物が立っていた。直接彼と話したことは無いが、異星人であるにも関わらず、居場所を失いどん底に陥った私に仕事をくれた御方だった。それだけで、尊敬に足る人物である。


 「どうだ、調子は」

 「貴方ですか、上々ですじゃよ。少し、気持ちの行き先を誘導し、薬でそれを強めてあげればどんどんドツボに嵌っていくじゃろうて。もはやアタマとココロがごっちゃになって自分が何を考えているのかすら、ロクに理解できないじゃろう」


 私は、モルモットのカルテを彼の端末に見せる。


 「ふふ、見事に不和の種が花開きそうだな。彼には、この為に気づかれない様、予め寄生樹海(ミストルスィ)の種を植え付けておいたからな。すぐ違和感に気付いたりしない様に、少しずつ頭を弄って、思考回路を調整してやったのさ。だが、洗脳となってくると寄生樹海の専門外になる。第一に、洗脳内容を吹き込む奴が必要となってくる。壊す、乗っ取るならば、寄生樹海の本領だが、そのステージはまだ早い。俺が下手に動けば、裏切りが発覚する恐れもあるわけで、協力ご苦労だよ、化け皮星人(マスカラーヴァ)

 「その呼び方はおやめくだされ、どこに目・耳が潜んでる事やら…… しかし、思考誘導に洗脳と来てこの後のご予定は、どういうつもりで?」


 流石にこんなところで正体がばれてしまえば、水の泡だろう。単なる端末に過ぎない彼はよくても、私としては何としても避けたい事態だ。からかってるつもりなのかもしれないが、寿命が縮むので辞めて欲しい。

 

 「あともう少しすれば、植え付けてある寄生樹海の本能で、獲物を狩り始めるころだ。正隊員はいずれ始末するとして、隊員補佐ならば、簡単に始末できるだろう。この狩りはバレてもいいし、バレなくてもいい。疑心暗鬼を植え付けられれば、よりチャンスが生まれる事になる。楽しみだとは思わないか? 他人に生きる為に戦いを強制し、強者であると勘違いした連中が、自分達もまた狩られる側だったと気づいたときの顔……」


 端末の顔に浮かぶのは嗜虐の表情。やはり、この方は怪獣の能力もだが、その中身が何よりも恐ろしい。敵として目をつけられることなく、協力者となれたのは幸いだった。


     *     *     *

 ポタポタとどこかで水が垂れる音がしている。それで、私は目を醒ました。


 おや、いつのまにか寝てしまっていた様だ。頭が、ズキズキと痛むし、喉も酷く渇いている。目が覚めてしまったし、給湯室でも行って水でも飲んでから、寝直すとしようか。鎮静剤は……無くなってしまった。我ながら、よろしくない飲み方をしてしまった。鎮静剤の一気飲みなど正気の沙汰じゃない、危うく自殺になりかねない所だった。どんな成分なのか知らないが、いや、本当に良く生きていたな私。

 もしかするとこの痛みは副作用なのかもしれない。だとすれば、コーディさんの所に行った方がいいだろう。思ったことは行動すべき、そう言っていたし多分問題ない筈だ。

 

 (そう、問題ない。お前が思うように行動すれば全て結果はついてくる)


 声が耳元に聞えてきた。うん? 目が覚めて、頭が冴えてきた今考え直してみたが、そういや、なんなんだ()()()は…… コーディさんは内から出る声に従えと言っていたが、よく考えてみれば、この声別に私の声色ではないぞ?

 ここ1週間近く、この声がどこからか耳障りのいい言葉を囁いてきて、私自身それに乗せられていい気分になっていた。だけど冷静になって考えてみれば、酷く最低だったような気さえする。そうまるで、私が私では無い様な不快な記憶。なんだ、薬を一気に飲み過ぎた影響か、バッドトリップってやつか?


 (考え過ぎだ、俺はお前の内なる存在。俺の言う事に従っていれば上手くいく)


 止めてくれ、誰だか知らないが分かった風な口を利かないでくれ。ああもう嫌な気分だ、声を聞くたびに頭が痛くなってくる。前に祝勝会で酒を飲みすぎで二日酔いになった時に近い。

 あの薬、変な成分でも入っていたんじゃなかろうか。考えてみれば、シャオにまだ謝っていない。その後も、何かと言い過ぎてしまっていた。相手を頭ごなしに否定して、それを正しいと思い込んでいて……これで、何が優しい奴だ。自分本位のことばかりじゃないか。


 (そうだ、お前は()()()()()さ。弱いやつの事を考え、生きてきた。頑固なくらいに、弱者の為に意見してきた。強いやつを中心に出来ているこの世界で弱いやつの事を考えられるのはお前くらいのモノさ)

 「やめてくれ、そんな事を私は思っていない。そんな自惚れなどしていない! こんなものまやかし、幻聴だ」

(悲しいねぇ、俺はお前の深層心理を見て共感したからこそ、お前の事を想って忠告しているのに…… なら、言葉を変えようか)


 私は頭の中の声を振り切るべく、頭を強く振りながら人気のない廊下をスタスタと早歩く。何なんだ、この声! あのカウンセリングの日から、何かおかしくなっている。強気になれ、思った事を行動しろというのなら、コーディさんに苦情の一つでも言ってやろうか。


 (今のままでは何も変わらない、因子の適合手術も手遅れとなり、隊員としての強さも頭打ち。今以上に働けることは無い、これ以上何も守れない、停滞……いや待っているのは破滅だ。だからこそ、他の者に優しくするという建前で足を引っ張りたい。自分と同じ高さに来てほしい。一人は嫌だ、強さが手に入らないなら誰も手に入れられなくなってしまえばいい。その醜いエゴの塊を、優しさという嘘で蓋をして塗り固めて、他人から優しいという言葉を受ける事で自己アピールして、誰よりも自分本位に生きているのがお前だ。そうだろう、ロメオ?)


 「えええい、何者だ! 姿を現せ、正体を現せ! お前は誰なんだ」

 (ふむ、頑固な奴だ。俺はお前の中にいるお前だと言ったろうに、まだ信じられないのか。なら、鏡を見るがいい。そうすれば、否応なしに頭が醒めるだろう)


 再びズキンと激しい痛みが走る。


 ぽたぽたとと水が滴る音が、また聞こえていた。気づけば、先程までの喉の渇きが満たされていた。足元には息も絶え絶えに誰かが倒れている。それが誰なのか、確認するのが怖かった。


 私は、それ以上言葉に耳を貸さず、震える手を抑え、保持していた手鏡を取り出して、恐る恐るそれを覗き込んだ。そこに映っていたのは私ではない私だっタ。顔が身体が真赤に染まっていル。顔の半分が、ガサガサの茶色い物体に覆われていル。頭の先から枝が突出し、そこから葉っぱが垂れさがっていル。口が大きく裂け歪むように半分笑ってイル。


 (なんで……? どうしてこんな事に)


 「お前は望んだはずだ、力を持たないことを、誰も傷つかずに停滞していることを。だが、それを同様に望んでいる者はいなかった。だからその望みを叶えるために、矛盾に気付く事無く思うがままに力を振った」


 (違う、そんな事を私は望んでいない! この力は、この身体はまるで……)


 「俺は、お前の中を覗き、内なる望みを掘り起こして力を貸してやっただけだ。これは、お前が内なるエゴに従い、望んで自ら行動した結果なんだよロメオ」


 三度、私は鏡ヲ覗キ込んダ。化物ガ、ケタケタと貌ヲ歪ませテ嗤ッテイタ。誰ダ此奴ハ、私ジャナイ! 誰ナンダ。ヤメロ、ヤメテクレ。


 私ハ先程カラ聴コエル水滴ノ音ノ元ヲ確認シタ。私ノ手元カラポタポタト水滴ガ垂レ落チテイタ。ソレハ透明ナ水デハ無ク真赤ナ鮮血ダッタ。足元デ倒レテイタノハ、シャオダッタ。

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