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怪獣惨歌 la・la・la  作者: ここあ
第一章《大狂獣・ラララ》
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第10話 寄生樹海 ミストルスィ

 「さっきも言った様に、怪獣は得てして大きく二つに分類される。群体型と、単一型だ」


 第三視聴覚室、ホワイトボードを前にマルティンが教鞭を振っている。

 兵器訓練の後お昼の休憩を挟み、眠たくなってきたところである。だが、そうはいかないぜと、マルティンが全員起立と居眠りを許さない。彼は今は、怪獣についての講釈を行っていた。


 「単一型は文字通り、怪獣因子を持ったその一体で成立している生態の怪獣を指す。それに対し、群体型は大きく異なる。怪獣因子を持つ一体をベースとし、特定の条件で分裂、増殖等を行い、分身を増やして群れとして行動する怪獣を指す」

  まぁ、パロッツの様に因子もない怪獣もいるがそれは例外だと、断りを入れマルティンは続ける。


 「こないだの新人護送車を襲ったトカゲの怪獣、アレも群体型だな。一体一体の戦闘力は、単一型に比べると劣る代わりとして、数や小回りの強みを持つ事が多い。以前退治した冬獣夏草(ゾンファン)って怪獣は、本体の戦闘力は皆無な癖に分裂するわ、胞子を飛ばして寄生した死体をゾンビの様に操るわで厄介な奴だった」


 その光景を想像し、少しぞっとする。


 「まぁいくら数が多かろうが、因子持ちの本体を潰しちまえば、行動停止するんで厄介ではあるが強くはない。俺からすれば、圧倒的パワーを持った個の単一型の方が怖いね。いくらでもデートしてくれると言われたとしても、ブチ切れたセリカワちゃんとか正直相手にしたくないし」


 本人不在を良い事に勝手なことを言っておどけてみせるマルティン。フッと教室の空気が緩む。そこで、隣席のマークスが挙手をする。


 「なら、単一型の強さを持ち群体になれる怪獣というのはいないのでしょうか」

 「ふむ、中々良い所を突くな、マークス・オーウェル。そんな化け物居て欲しくないと言いたいところだが、過去に一体だけ確認されている。まぁ希少(レア)中の希少種(レア)だ。確率はゼロとは言わんが、そうそう出くわすことは無い」


 一瞬、マルティンの顔に苦々しげなものが浮かんだ。まるで忌々しい記憶を掘り起こされるかのような顔だったが、すぐにいつもの軽そうな表情に戻る。まあいっか、僕は前から気になっていた質問を行うことにした。


 「すみません、正隊員さんの怪獣って未だ目にしてないんですが、どんな怪獣達なんですか」


 とマルティンがふと悩む様に白衣に目をやる。


 「そうだな…… じゃあ、セリカワちゃんの怪獣の話をしようか」


    *     *     *


 「今だ、撃て! 撃ったら、走れ! 止まるな、囲まれない様に常に動き続けろ。奴らに捕まったら終わりだと思え」


 飛び交う怒号と砲声、血と硝煙の匂いが辺りに広がっていた。人に寄生する細い怪樹は、たしかに銃弾1発当たるだけで砕け散るひ弱な存在に見えた。しかし、人を取り込みより巨大化した個体から次々と分裂していく、際限なんて無いかのように。


 「これぞ枝分かれ、なーんて言える様な状況じゃ無いっスねぇ……」


 隣のパロッツにしがみついてる同僚のムトが軽口を叩くも、その顔は引き攣っている。冗談の一つでも言わないとやってられないのだろう。私自身、従軍を決めた時点で覚悟は出来てたつもりだった。別の区からの新人が怪獣に襲われた事を聞いた時も、入隊直後に怪獣による惨劇をモニターで見せられた時も、その決心はブレなかった。

 だけど、あんな終わり方はイヤだ。木の化け物に締め付けられて、耳の穴から蔓を突っ込まれて……


 地上で怪樹にありったけの銃弾を叩き込んでるAU(砲撃部隊)の隊員に目を落とす。つい先ほどまで仲良く会話していた同僚や先輩達が、化け物に襲われ寄生され、化け物に造り変えられてゆくのを、彼ら達はどう思ってるのだろう。

 そして、パロッツの上から攻撃をしている私達のことをどう思っているのだろう。


 「モナさん、ボサッとしない!」


 と、シャオさんから叱咤が飛んだ。


 「あの寄生しか脳がないちびヒョロはともかく、こっちの寄生済み個体は危険だからね。今はパロッツ達が翻弄出来てるけど、伸ばしてくる触手に捕まったら終わりと思いなさい。それに、連中の本隊がもう近くにまで迫ってる。今はAF(航空部隊)とAUが爆撃と砲撃で牽制してくれているけれど、いずれは……」


 「MISHAASHAAAAA!!」


 話しているうちにも、一機が怪樹から伸ばされた触手に捕まり、地面へと叩きつけられ爆散した。


 「そうだ! セリカワさんの怪獣、連れてきてる子を解き放てば」

 「残念だけど、それは不可能なの。セリカワさんの怪獣を扱えるのは対応する因子を持っているセリカワさんだけ……」


 なら一体どうすれば、と喉元まで出かかった言葉を飲み込む。イースト区5地下から這い出てきた怪樹の群れは、もうセリカワさんの怪獣を護送してきた装甲車の目前に迫ってきている。彼女が戻ってくる前に眠っている怪獣がやられてしまうのではないか。と、ゴードン隊長率いる戦車部隊が、その群れを阻むように進軍し立塞がった。

 

 「これぞ、最新鋭のレイザー砲を搭載したAU虎の子、切り札の一手よ。燃えない上に再生するというのなら凍り付いて逝け!」


 砲から白い煙が立ち上り、怪しい光が一斉に怪樹の群れに叩きこまれる! 


 「MIIIIIISHA?」

 「MISHASHASHA!?」


 その効果は、みるみるうちに現れた。集団の先頭の怪樹達が苦悶の声を上げながら凍りつき、動かなくなってゆくのだ。私はほっと胸をなでおろした。だが、シャオさんの方へ振り返ると、その表情はこわばったままだった。まるで、何かにおびえるかのように、眼下の地面を睨んでいる。


 「やりましたね、ゴードン隊長! この調子で残ったやつらも掃討していけば…」

 「ダメ、潜ってる!! 既に地下に――」


 戦車から嬉しそうな隊員の声とシャオさんの悲鳴はほぼ同時だった。そして、そこから一拍も置かず、地面が―― 

 戦車の周り、そして私たちの周りの地面がボゴォと盛り上がり、千を超える怪樹が改めてその姿を現した。戦車部隊が正面にいる怪樹の群れに気を取られてる内に、その大半は地下へと身を潜め、既に私達を包囲していたのだ!


 ドォーン! ドォーン! ドォーン!


 旋回し逃げる暇もなく、怪樹が戦車をその群れによる質量で圧し潰す。


 「クッソタレがァッ!!」


 戦車が潰れるより早く、コクピットから飛び降り、走りながら砲を構えるゴードン隊長。だが、怪樹は枝でその足を掴むと、空高く振り上げ叩き下ろした。

 ぐちゅと嫌な音と共にトマトの様に潰れた死体が出来上がる。


 「た、隊長…… うわぁあああああああ」


 その様を確認したAUの隊員が悲鳴を上げる。混乱が舞台全域に広がっていくのを感じる。それは私達、TOBも同じだ。寄生済みの怪樹の高さはまちまちだが、中にはパロッツの高さを超すものも多い。その枝は鞭のように振り下ろされ、パロッツの蹴爪と激しくぶつかり合う。私はさっきのゴードン隊長の末路を思い出した。あの枝に掴まれたら、そこで終わり。私は、強くパロッツにしがみ付きながら、手にした銃でやたらめったら怪樹を撃ちまくる。効いているかどうかも分からない、ただ死にたくないという思いだけだ。

 

 シャオさんが、怪樹の包囲を脱するべくパロッツを走らせるも、逃がさぬとばかりに奴らは追随する。

 それは、まるでお伽噺で聞いたような迷いの森だった。違うとすれば、この木々は生きている怪獣で私達を殺そうと狙い続けていること。そう、寄生樹による生きた樹海に、私たちは迷い込まされてしまったのだ。


 「そんな嘘……セリカワさんの怪獣が!」


 希望に縋る様に、護送車両を探そうと目を向けるも、ソレは既に樹海に呑みこまれていた。嗚呼、私達は、此処で終わってしまうの? 他の隊員は、と目を向けるも木々に遮られ、光も弱く、悲鳴と怒鳴り声しか確認出来ない。今にも泣きだしたくなる気持ちを抑え、先ほどから一言も発さないシャオさんを見る。


 「? シャオさん?」


 先ほどまでの苦しそうな表情から打って変わって、その顔は笑っていた。その目が向いている方向には、煙が立ち上っていた。怪樹に囲まれていて分かりづらいが、たしか駐屯基地のあった方角な気がする。


 「総員、今すぐ全力で走れッ! 唸り声が少しでも聞えたら、耳を塞いで音の方向から離れろ!!」


 それは、腹の底から振り絞った様な怒鳴り声。その指示は、有無を言わせぬ凄みがあった。私は何が何だかわからず、とにかく耳を塞ぐ。怪樹達も何か異変を察したのか、追撃を止め、身体の向きを煙が立ち上る方面に変えていた。

 何かが、来る!


 「LUAAAAAA! LUAAAAAA! LUAAAAAAAA!」


 大気が震え轟音が響くと同時、地面がドッと爆発を起こした。耳を抑えているにもかかわらず、ガツンと殴られたかのようにキーンと頭が揺れている。私は恐る恐る背後を見た。

 濛々と立ち上る土煙、そしてバラバラと砕け散った怪樹が空から降り注いでいた。その中心に立っているのは一匹の黒い怪獣。その目は爛々と燃え盛る炎の様に赤く輝き、剥き出しの牙は獰猛さを感じさせる。

 怪樹の群れはリベンジだとばかりにその黒い怪獣へ這い寄るも、怪獣の咆哮が放たれると同時、粉々となり中空へかっ飛ばされてゆく。


 「GULUAAAAAAAAAAA!」


 さっきまでの絶望的な光景が嘘の様に、一匹の黒い怪獣によって塗りつぶされていく。黒い怪獣が怪樹の群れに飛び込み腕を振り下ろせば、それだけで百を超える怪樹が粉みじんとなっていく。まさか、この怪獣がセリカワさんの……


    *     *     *


 「大狂獣(ラララ)、こいつは地球防衛軍創立の初期の初期、怪獣を人工的に産みだす実験の最中、偶然成功したTOB最狂の生物兵器だ」


 マルティンさんはフーと、ため息をつきながら語り始めた。


 「地球防衛軍の先達は、各種の動物の遺伝子と怪獣因子を掛け合わせる事で、最強の生物を目指し、怪獣を創っていた。コブラとアナコンダを基にした毒絞蛇(コダラ)、ライオンとクラゲを組み込んだ陽月獣(レオス)。そしてラーテルとプラナリアとクジラを掛け合わせ生まれた怪獣が大狂獣(ラララ)だ」


 「ラーテルの強靭(タフ)さとプラナリアの再生力、そしてクジラの持つ頭脳。この三つをコンセプトとして造られた結果、ラーテルの持つ狂暴な性質が全てを塗り潰し、相方でしか制御出来ない……いや相方でも制御困難な化け物が誕生しちまった」


 今では、大分マシになったがねと付け足すマルティン。だが、その目は遠くを見ている様で、多大な苦労があったのだろうと感じさせた。


 「怪獣との戦闘になれば、相手を殲滅する事しか頭に無くなり大暴れ。周囲一帯を巻き込み、本能のままに相手を破壊する。まさに狂獣だよ、こわいこわい。相手をすることになる怪獣はご愁傷さまだね……」


    *     *     *


 「この怪獣が、セリカワさんの大狂獣――」


 もはや怪樹達は、私達の相手をするどころではなく、黒い怪獣に群がり応戦していた。その姿はまさに死に物狂いといった様子で、先程までの恐ろしさを感じられなかった。だからといって警戒を緩めていいわけではない。生き残った隊員は、私とシャオさんも含めて身を寄せ合い、怪獣の戦いを眺めながらも周囲の警戒は緩めない。

 

 「MISHAAASHAAAAAAAAA!」

 「MISHAMISHAMISHASHA」


 と、怪樹の動きが変わる。突然一か所に固まり始めるとその身体を複雑に絡め合ってゆく。その様を、大狂獣は面白いとでもいうかのように牙を光らせ、追撃を止めた。

 怪樹の群れは一つとなり、その身体を大きく変えていく。樹が複雑に組み合う事で、一体の巨大な大蜥蜴の姿を創り出している。寄生樹の樹海が凝縮され、今、大狂獣にも負けず劣らずの巨大な怪獣へと姿を変えた。二匹は再び咆哮し、激突する。


 「LUAAAA! LUAAAA! LUAAA!!」

 「MISHAAAAAAAAA!」


 組み合った樹海怪獣の両腕が大狂獣に絡みつく、だが、それを意にも介さず大狂獣は樹海怪獣の左肩にガブリと牙を立てると勢いよくブヂリと食い千切った。


 「MISHASHA!?」


 悲鳴に似た叫び声を上げる樹海怪獣だが、大狂獣は攻撃の手を緩めない。今度は、自分の腕に絡みついている樹海怪獣の右腕の根元に、逃がすものかとばかりに爪をガッチリ立て、そのまま引き千切る。

 樹海怪獣は、絶叫戦とばかりに大口を開こうとするも、大狂獣の大顎が齧りつきそれを許さない。その様は、味方である筈なのに、怖さを感じさせた。そしてついさっきまで怯える対象だった筈の、樹海怪獣に少しだけ同情の念を覚えてしまう。


 「GUUUULUAAAAAA!」


 これがトドメだと言うかのように、大狂獣は樹海怪獣の口に齧りついたまま、その身体を天高く持ち上げると本日一番の大咆哮を轟かせた。その轟は、大気が激しく震えさせ、大地をも揺らした。そして、樹海怪獣を貫き、木っ端微塵に爆発させる。



 「これがTOBの正隊員の力……」


 少しだけ、彼女(セリカワさん)が化け物扱されていた理由が分かった気がして、私は出かかったその感情を飲み込んだ。

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